29,冒険者の謝罪。
街へ戻り、ギルドへと直行すると、俺たちは今回のクエストで採取した素材を売買した。
受付嬢であるヒッデは俺たちの持ってきた素材の質と量に感嘆し、腰を抜かすほど驚いていた。
ギルドにたむろしていたほかの冒険者たちも、ヒッデと同様に大きな感嘆の声を上げていた。
「Dランクの冒険者が、一度のクエストでこれほどの素材を集められるのか……? 」
と、誰かがそう零していたが、
「馬鹿野郎、すごいのは量じゃない、質だよ質。見ろよ、あの綺麗な素材を……! 」
と、別の誰かがその声をそう遮る。
この程度の素材で何がすごいのか良くわからないが、ここしばらくはクエストから帰るたびにこの調子で、俺とエレノアは、新進気鋭のパーティーとして明らかにこの街で名を馳せ始めていた。
「……あの、先程は、申し訳ありませんでした!! 」
と声が聞こえたのは、俺たちがギルドから外に出たそのときのことだった。
そのあまりの声量のデカさに驚いて振り返ると、そこには見覚えのある冒険者パーティーが立っていた。
それは今回攻略したダンジョンの入り口にいた例の冒険者たちだった。
「あの、本当に、さっきはすいませんでした。せっかく助けてくれたのに、失礼な態度を取ってしまって……」
よほど謝ることに勇気が必要だったのか、その冒険者の手はかすかに震えている。
「いや、別に……」
と俺が言いかけると、
「あの、俺たち、結構行き詰っていて、ずっと上手く行っていなかったんです。それで、思わず当たってしまったというか……。でも、あとで冷静になってみたら、すごく失礼なことしてしまったな、と思って……! 」
この冒険者はそこで一呼吸置くと、再び「すいませんでした! 」と仲間たちと一緒に一斉に頭を下げた。
そのあまりの迫真っぷりに、俺は思わずエレノアと顔を合わせ、ふっと笑い合ってしまう。
俺たちが笑いだしたことが不思議だったのか、彼らはきょとんとした表情で俺とエレノアを凝視している。
「ね、エレノアさん。内心ではきっと感謝してくれているって言ったでしょ? 」
「……そうだな。今回に限っては、お前の観察眼が正しかったことになる。私の非を認めよう」
「本当に根が悪い人なんてそうはいないんですよ」
「それはどうかな。お前は少し、他人を信用し過ぎるきらいがある」
ところで、
と、エレノアが突然厳しい口調に声色を変えたのはそのときのことだ。
「今回は涼の顔に免じて許すが、いいか、お前ら。……次はこうはいかない。同じことをやってみろ。“翡翠の魔女”と呼ばれた私が地の果てまでお前らを追いかけて引きずり回してやる……! 」
この言葉を聞いて、目の前に立った冒険者たちの顔色はみるみる蒼ざめていく。後ろに立った仲間の一人は思わず「ヒッ」と短い悲鳴を漏らしたほどだ。
そして、「すすす、すい、すいませんでした!! 」と慌てふためいた調子で頭を下げると、嵐のような勢いでこの場を立ち去ってしまった。
「……まったく、あそこまで言うことはなかったんじゃないですか」
と、少々呆れて俺がそう言うと、
「馬鹿な。むしろ優しく言ってあげたくらいさ」
と、エレノアは悪びれる様子もなくそう口にする。
「だが……、あそこまで怖がるか? 確かに脅したのは私だが、……あの反応はさすがに私でも傷つくぞ……」
と、少々ばつが悪そうに口にした。
その困った表情が妙に面白くて思わず吹き出すと、エレノアは「な、なにが可笑しい……!? 」と俺の腕を取り、まるで”取り消せ“とでも言わんばかりに、俺の服の袖を引っ張ろうとする。
「エレノアさんって、”自分がどう見られているか“、あんまり分かっていないですよね」
と、半分はからかうつもりで、半分は本心から、笑いながらそう言うと、
「……どういう意味だ? 」
と、俺の腕を掴んでいたその手をぴたりと止め、真剣な表情を浮かべて、そう問うた。
「“可愛い”ってことですよ」
そう言うと、エレノアは明らかに硬直し、それから、徐々にその顔に赤みが差し、ついにはその顔は真っ赤に染まった。
彼女はがばりとマントを翻して反対方向を向くと、
「……やめろ、可愛いなどと言うのは……。ゴニョゴニョゴニョ……」
と、口に当てた腕のなかでそう口籠る。
だが、その腕でもマントでも彼女の顔は完全には隠しきれておらず、エレノアの顔は、熱湯でのぼせたように赤く赤く染まっていた。




