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28,魔力コントロールの成果。

 ”霧晴れの小迷宮“の攻略はそれほど難しいものではなかった。

 棲息している魔獣は主に大熊グリズリーと一角兎アルミラージであり、数の多いアルミラージの群れも上手く魔力量をセーブすることでバック・フラッシュを起こさずに討伐出来ていた。


 そこで得た素材も高品質なものが多く、特にグリズリーの皮は綺麗に剥ぎ取れさえすればかなりの高額で買い取ってもらえる。この時点でアイテムボックスにしまった素材だけでも、今回の冒険は相当な収入が見込めそうだった。


 「そろそろ例のアイデアを試してみたらどうだ」


 エレノアが俺の背後からそう呟いたのは、ダンジョンの最奥にあるドーム状の拓けた空間に辿り着いたときのことだ。

 エレノアは以前にもここに来たことがあるのか、まるで敵がどの方向からやって来るか予め知っていたかのように、西側の狭い洞穴を注視した。


 「試してみます……! 」


 と呟き、俺は予め用意しておいた背中の弓を手前に担ぎ直し、そこに矢をセットする。

 と、ちょうどそのとき、エレノアが見つめていた狭い洞穴から、無数の、それも莫大な数の小型の魔獣が飛び出してくる。


 “シャドウスパイダーの群れ”である。


 「いいか、涼。焦るなよ。お前がきちんと実力を発揮すれば、ここの魔獣はお前の敵ではないんだ」


 溢れ出したシャドウスパイダーの群れはあっという間にこの広場全体に広がり、すでにそこから数メートル四方の足元を完全に暗く覆い尽くした。


 一見すると大きく広げた黒い布のようだが、その正体は小型の魔獣の群れであり、このまま飲み込まれれば命はない。一匹一匹の力はさほど強くはなくても、口内の牙は鋭利であり噛みつかれれば人間の皮膚ではひとたまりもない。

 

 「“炎のエンチャント”」


 と呟き、俺は右手に握った矢に、それを刻印する。

 そしてさらに、そこに弓士だけが扱える特殊なスキルを重ね掛けする。


 「“多重弾雨”」


 この技は本来、一本の弓を弓士のスキルによって複数化させ、それを敵の頭上に雨の様に降らす技だが、今回はそこに”炎のエンチャント“を重ね掛けしてある。


 つまり……、



 ゴオオオオオオオ!!!!



 と、炎を纏った矢が雨のように辺り一帯に降り注ぎ、それが一気に幅広い炎の絨毯となって燃え上がる。

 一面に広がっていたシャドウスパイダーの群れは、この炎に包まれてわずか数秒で消し炭となっていった。


 「……出来るとは思っていたが、実際目の当たりにすると、凄まじい威力だな……」


 と、エレノアが少々呆れたような様子で、そう口にする。

 それから、


 「……ただし、複数職のスキルを重ね掛けする技術は、よりバックフラッシュを起こしやすいリスクがある。どうだ。眩暈や頭痛はしないか? 」

 「……ほんの少し、軽い眩暈のようなものを、感じます」

 「そうか。魔力コントロールは大分うまくなったが、まだ完ぺきではない、ということだ。いいか。引き続き気を引き締めて、精進しろ」

 「ありがとうございます、そうします! 」

 

 と答えると、俺の威勢の良い返事が嬉しかったのか、エレノアは笑みを浮かべて俺の背中を強く叩いた。

 俺の成長を感じてエレノアが喜んでくれるということが、俺にとっても、なによりも嬉しいことのひとつだった。


 シャドウスパイダーはその身体の核に“魔獣の核”を持っており、これは強い衝撃を与えても破損することがない。

 炎のエンチャントを掛けた“多重弾雨”によって辺りはシャドウスパイダーの死骸で溢れていたが、やがて、その死骸はすうっと煙のように消え去り、あとには光り輝く“核”が残る。

 それはさながら、大きな波の去ったあとに砂浜に残る、莫大な数の真珠といった様相だ。


 「さあ、とんでもない数の“核”が手に入ったぞ。これを拾い集めて街に戻るとしよう。……おっと、お前には“採取”スキルがあるんだったな。拾い集めるまでもなく、そのスキルでいっぺんに回収することが出来る、か」


 エレノアのその言葉通り、俺は”採取“スキルを唱えた。そして一面に広がっていた輝く”核“は、まるで掃除機に吸い込まれた埃のように一斉に俺の手元へと吸い寄せられてきたのだった。







 


 

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