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25,セシリアの期待。

 ※再び涼の視点に戻ります。


 エレノアとのクエストを終えた翌日、俺はセシリアに呼ばれ街の東にあるセシリアの館へと来ていた。

 

 「……エレノアと共にエボル洞穴に行って、良さそうな素材は見つけられた? 」


 館の中の一室で、セシリアは瞳を輝かせて、俺にそう尋ねた。

 新作のジュース造りの為に、冒険のついでに目ぼしい素材を取ってきて欲しい、という事前の話だったのだ。


 「いくつかの素材は採取しておきましたよ。なんとなく、レシピも考えておきました」

 「……さすがね。もうすでに味のことを考えているなんて」

 「上手くいくかはわかりませんよ? なんとなく、こんな味になるんじゃないかって想像しているだけで……」

 「それでもすごいわよ。それで? 採って来た素材は、なんなの? 」


 セシリアにそう促され、俺は部屋の中心に置かれたテーブルに、採って来た素材を並べた。

 「アイテムボックス、オープン」

 俺がそう唱えると、

 「あ、あなた、アイテムボックスが使えるのね……」

 と、セシリアは少々驚いていた。


 採って来た素材は、主に五つ。

 エレフルーツという光り輝く黄色い果実と、クリスタルベリー、エボル洞穴内の泉から湧き出る、エボルの水。それから、ゴールデンハニーと呼ばれる蜜と、ミスティックミントという葉。それぞれすべて、エボル洞穴内とその周辺で採られる素材だ。


 「今のところどんなジュースが出来るのか、想像もつかないわね……」

 と、セシリアは腕組みをしてテーブルの上の素材を見つめた。

 「俺も造るときは勘ですからね……。ではまず、エレフルーツの果肉を取り出すところから始めますか……」


 セシリアにはジュースの調合をする場面を直接見せて欲しい、と頼まれていたので、俺は工程のひとつひとつを口に出して説明していく。


 「エレフルーツは手荒く扱うと酸味がきつくなるという習性があるので、取り出しは慎重に行います。スプーンを深く入れ、根元から抉り出すように引っ張ると……」

 「ずいぶん手際が良いのね。このジュースを造るのは、初めてなのよね? 」

 「初めてです。ただ、俺には調合スキルがあるので、なんとなくどうすれば良いかがわかるのです」

 

 取り出したエレフルーツの実を、用意しておいたボールへと移していく。

 この工程がよほど珍しいのか、セシリアはいちいち嘆息しながら俺の手元を凝視している。


 「次は……。クリスタルベリーを洗って、実を潰していきます」 

 「変わった果物ね。見るのは初めてだわ」

 「クリスタルベリーは洞穴の奥にしか生えないので、市場にはあまり出回らないんです」

 

 クリスタルベリーを丁寧に水洗いし、専用の潰し機でひとつひとつ潰していく。

 クリスタルベリーは潰したときに独特の酸味と、きらきらとした輝きを発散する。

 それが俺の手元から、部屋中へと広がっていた。


 「……すごい匂いね。たったこれだけなのに、もう美味しそうだわ……」

 

 俺は事前に自分のスキル効果が三十パーセントアップする”聖なる共鳴“を掛けているので、調合のスキルも普通の調合士より上手にこなすことが出来る。

 そのバフ効果のおかげなのか、確かに部屋に満ちた酸味はかつてない魅惑的な匂いで俺たちの周りを跳ねまわっていた。


 「エレフルーツと潰したクリスタルベリーの果汁を混ぜ合わせ、そこにエボルの水を足します。甘み付けとしてゴールデンハニーを小さじ二杯分プラスし、最後にミスティックミントの葉を磨り潰して加えます」

 「ミスティックミントの葉は、何のために入れるの? 」

 「それを入れることで、若干の清涼感が増すんです。ミスティックミントの葉はそれ単品で見れば風味のキツイ癖のある葉ですが、分量を間違えずにジュースに加えると、一気に清涼感を増してくれる優れた素材でもあるんです」

 「……確かに、すっとした空気が、さっきから鼻を抜けていくのがわかるわ」

 「そうです。その清涼感が、飲んだ時に癖のある味わいを与えてくれるんです」


 ボールのなかの素材を丁寧に混ざ合わせ、最後にもう一度、調合スキルを唱える。

 ここで魔術のコントロールをしくじると、これまで積み上げて来た味がいっぺんに崩れ、飲めた代物でない不味いジュースが出来上がる。

 だが、バフの効果と、エレノアに鍛えられた魔術コントロールの技術向上のおかげで、この工程もなんなく終わりを迎えられた。


 「……とんでもない腕前ね」

 思わずそう漏らさずにいられない、という風に、セシリアがそう零す。

 「私も幾度となく調合士の調合する場面を見て来たけれど、これほどの手際と迷いのない手さばきは見たことがないわ……」

 

 しかしセシリアは、「けれど問題は、その味ね」と付け加えることを忘れなかった。

 確かにその通りなのだ。

 どれほど調合の技術が優れていても、完成したジュースの味が良くなければ、それは単なる絢爛豪華な張りぼてに過ぎない。


 「では実際に試飲してみましょうか……」


 用意しておいた二人分のグラスにたった今造ったジュースを注ぐと、俺のすぐ隣で、セシリアが期待に喉を鳴らす生唾の音が聞こえた。


 「……楽しみだわ。いったいどんな味のジュースに仕上がっているのか……」


 セシリアはそう言うと、数秒の待ち時間も耐えられないというように、俺の差し出したグラスをその両手でしっかりと覆い包んだ。





聞こえますか…




聞こえませんか…




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