112、秘薬造り。
フラジャイルに案内された別室へ入ると、秘薬作りに必要な素材はすでに集められていた。
「エルフの涙草、血霊花の花弁、それから、黄金蜜露もありますね。……浄化水は用意できますか?」
フラジャイルの顔にわずかな影がよぎった。
「すまないが、時間がかかると思う」
エルフ族の特性として、攻撃的な魔術師としての能力は高いのだけれども、それ以外の職業やスキルについてはあまり芳しい成果がない。
配合士的な能力を所有するエルフもいるにはいるのだが、人間族の配合士に比べれば、その能力は遥かに低い。
そうした事情もあって、”浄化水“を用意するのには少し時間が掛かると、フラジャイルは言った。
「では、こちらで用意します」
「出来るのか!?」
「ええ。水だけ貰えれば」
浄化水というのは、水に対して浄化作用のある素材をいくつか投薬して精製するものだが、配合士の最上級スキルのなかには“浄化水精製”という便利なものがある。
このスキルを使えば、ただの水に手を翳すだけで浄化水を造り出すことが出来た。
「水はここに用意したが……」
不信感を隠そうともせずに、水の入った桶をフラジャイルは置いた。
「それで大丈夫です」
”浄化水精製“
と、桶に手を翳して俺はスキルを唱えた。
桶のなかの水は、かすかに波打ったあとわずかな青みを帯びた。
「浄化水はこれで用意出来ました」
「こんなに簡単に造れるのか……? き、君は国の抱える上位配合士かなにかなのかね……?」
「いえ、俺はただの物乞い士です」
「も、物乞い士……??」
さっぱりわからないという様子で驚くフラジャイルを尻目に、エルフが用意してくれた素材を、俺は一か所に集め直す。
必要な素材も、浄化水も用意出来ているが、これだけでは不安なので、さらにいくつものバフを重ねまくっておく。
「俺の配合士スキルは“配合A”なので、単純に配合するだけで相当に上質な秘薬が造れるとは思うのですが、いくつかバフを掛けておきますね」
「“戦人の祝福”
“快天の加護”
“不死鳥の息吹”
“フェンリルモード”
”ヘカテーパワー“」
……と、最近手に入れたスキル効果向上系のバフを、片っ端から掛けていく。
「“オラクルウィスパー”
“ルシフェルヴェール”
“ゼウスエンチャント”
”剛腕の波動“
“冥府の契約”
“風神の舞”
“幻惑の霧衣”
“覇者の刻印……」
「待ってくれ。君はいったい、何をしているんだ……??」
隣に立つフラジャイルが、不安そうにそう呻いた。
「”配合A“の効果を高めるバフを掛けているんです。もう終わります」
「す、凄まじい魔力の密度を感じるのだが……?」
「自分でも怖いくらいです。手加減なしにバフを掛けまくったので」
ひとつの薬品を造るのにここまでのバフを多用したことはなかった。
まるで灼熱の火に掛けた薬缶のように、極度に高密度な薬品が今完成しつつある。
「“配合A”」
と唱えると、浄化水のなかに漬けた素材たちが一斉に眩い光を放ち、それが俺たちのいる部屋を真っ白に照らした。
「……眩しい!」
「涼、お前、いったい何をしているんだ!」
隅で待機していたエレノアが、驚いてそう声を上げる。
「涼くん、なんだこの超高エネルギーは!」
「涼さん、私、怖いです……!」
ヴァレンティンやアニーが、次々と悲鳴に近い叫びをあげた。
「……完成しました」
光が収まり、スキルによって秘薬が完成してみると、その液体は驚くほど澄み渡っていた。
まるで人の踏み入れない深い森の奥に湧く、涼やかな湧き水のようだ。
「……これが、涼さんの造った秘薬か」
「……正直、相当上手く行った手ごたえがあります」
「見ているこちらとしても、凄まじいものを見たという感じがある……」
「いろんなものを造って来ましたが、自分としても、ここまでのものは初めてです」
フラジャイルはしばらくその桶のなかの新しい薬品に見惚れていた。
その眼は、出会った当初には見られなかった輝きが、細かい星のように光っている。
「なんて……」
と、フラジャイルは今にも泣きだしそうな声で言う。
「なんてお礼を言って良いのやら……」
そしてぐっと桶を両手で掴むと、その頬を熱い涙がつうっと二本伝った。




