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103/119

103,ドワーフからの手紙。

 とにかく忙しい日が続いていた。

 実に700人近い人々が東の集落に住み始め、そのすべてにスキルを付与、職を与えていた。


 「少し休んだらどうですか。身体を壊してしまいますよ」

 そう言ってくれたのは、暇を見ては顔を出しに来てくれるアニーだ。

 「休みたいのですが……、まだまだやることがあって」

 

 忙しいのは第四階級の仲間たちのことだけではない。

 新しく造ったワインに関するセシリアとの情報交換や、どこに卸すかといった話。ツルゲーネの製作した“ダウンコート”の方も、細部の俺のアドバイスが必要になって来ていた。


 「出来れば今週中にいろいろと終わらせておきたいんです」

 「今週中って……、この調子では、難しいのではないでしょうか」

 

 この集落には、俺にスキルを付与してもらうのを待つ仲間たちが、常に数十人待機している。

 今こうしてアニーと話している間も、部屋の外には幾人かが雑談をしながら時間を潰していた。

 

 「最近、冒険に出られていないんです。エレノアさんも時間を持て余していて、申し訳ないので、早めに済まさないと……」

 「見るからに疲れていますよ。……涼さん」

 アニーは心配そうに、俺を見据える。

 さっきから“ヒール”を掛けてくれるが、肉体上の疲れ自体はヒールでは消えない。

 あくまでも気休めだが、その心遣い自体が、俺には嬉しい。


 

 ◇◇


 作業もひと段落したとき、事務所として建てた小部屋に、パルサーが訪ねて来た。

 

 「忙しいところ申し訳ないんだけども」

 と、言いにくそうに片手で謝罪のサインを作って、パルサーが手紙の束を置く。

 「聖霊龍がここに来たことで、いくつかの国から会って話したいという手紙が届いている。時間があるときで構わないから、読んでくれるか」

 「手紙、ですか……」

  

 聖霊龍をテイムしたことで、オーヴェルニュ以外の国から親交を交わしたいという話が来るとは、事前に聞いていた。

 しかし実際にこうして手紙の束として見てみると、聖霊龍をテイムしたということの事態の大きさを、今更ながら実感する。


 「忙しいと思ってざっと内容は読ませて貰ったんだが」

 「良いですよ。その方が俺も助かります」

 「ほとんどの手紙のなかで、教会がこの龍を聖霊龍と認定しなかったことに驚いていたね。まあ、無理もないよ。専門家が見ればあれが聖霊龍かどうかはすぐに分かる。多分この手紙を送って来た国々も、一度こっそり龍を見に来たんだろう。自分たちの目で聖霊龍かどうか確認して、そのうえで手紙を送ってきているんだと思う」

 「教会が今から聖霊龍と認定することは考えられないのですか」

 「ないだろうな」

 と、パルサーは断言する。

 「教会はプライドが高いからね。一度言った言葉を撤回することは、まず考えられないだろう」

 「面倒臭い連中ですね」

 「そうだが、これから大きく恥をかくことになると思うよ。なにしろ本来聖霊龍を保護すべき教会が保護しなくて、代わりに君が矢面に立って他国と親交を交わし始めるんだ。教会は無視される形になって、とんだ赤っ恥だ」

 

 机に置かれた手紙のなかから、無作為に一枚を摘み、それをひらひらと眺めた。


 「あれ、これって……」

 「なにかあったかい」

 「ドワーフの国から届いていますよ。……ドワーフの国って確か、オーヴェルニュとは国交が断絶していますよね」

 「ドワーフの国、……グロームハートのことだね。そうだ、うちの国とはずいぶん昔に断交になっている。僕も驚いたんだが、ぜひ会ってみたいという話だ」

 

 ドワーフの国は昔、オーヴェルニュと派手に争いを起こして、それ以来国交が断絶していた。

 冒険者が大勢やってくるこの街でも、ドワーフ族が姿を見せることはほぼまったくない。それほどにドワーフたちは、オーヴェルニュを強く毛嫌いしていた。

 彼らからすれば足を踏み入れたくもない国のはずなのだが、手紙には「会いたい」と書かれている。それはなぜなのか。

 

 「ドワーフの人たちにとっては」

 と、パルサーが俺の疑問を敏感に読み取って、こう解説してくれる。

 「聖霊龍というのは重要な神の一つなんだ。彼らにとっては聖霊龍は本物の神なんだよ。実物をその眼で確認したいんだろう。あるいは、国に連れ帰りたいのかもしれない」

 「……なにか争いごとになったりしませんかね」

 不安になってそう尋ねると、

 「大丈夫じゃないかな。手紙には、ずらずらと君への感謝が書かれていたよ。荘厳な言い回しを使って、我々の神である聖霊龍を保護してくれて感謝しているとかなんとか。ほら、読んでごらん」

 パルサーは封筒から手紙を引き出し、その分厚い紙の束を机に並べた。

 「こんな熱い言葉を書く連中が、尋ねて来て君を攻撃するとは思えないけど」

 「そうですね」と、俺も同意する。「それはちょっと、考えにくいですね」


 手紙を引き出した封筒には、まだ微かな重みが残っていた。

 

 「あれ、これ、中にまだなにか入っていますね」

 「え、そうなのかい」

 

 封筒を振ると、奥に小石のようなものが二、三個仕舞われているのが、わかる。


 「……石ですね」

 封筒から掌に出して、パルサーに見せる。

 「きらきらした小石です。なんですかね」

 「……これは石じゃないよ」

 と、パルサーが身を乗り出して、そう言う。

 「宝石だ。それぞれ、エルドリス輝石、ヴェルティアナイト、カルミラス鉱だ。どれも、この国ではほぼまったく手に入らない、超希少鉱石だよ。これほどの大きさのものは、僕も見たことがないな……」


 まるでドワーフたちの期待を先に言い伝えるかのように、それらの鉱石は眩しいほどきらきらと輝いていた。





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