エッセイの導入も異世界トラックで!
何ごともそうですけど、最初に流れを作った人は偉大ですね!
おもしろいですよね。異世界転生。
『無職転生-異世界行ったら本気だす-』はとても好きです。小説家になろうでリアルタイムでも追っかけていました。今はアニメを見ています。
――異世界転生。
なろうに限らずカクヨムでも大人気のジャンル。
現実の鬱屈とした生活を吹き飛ばす爽快感! 魔法と剣の興奮! 仲間と共に手に焦る局面を乗り越えた先に待っている富と名声! 異世界美人のチョメチョメもあるよ!
物語としても読み手は感情移入しやすいですよね。
まずその主人公の多くが現代日本人ですので、世界観や主人公の悩みが伝えやすいです。
仕事、異性関係だと特に。なぜなら読み手の多くはその道を通って生きているから。
そして導入として用いられがちな――トラック。
異世界転生とトラック。この二つの単語を聞いただけで分かる人は、
「トラックで轢かれて主人公が異世界転生した?」
ってなると思います。
感覚が麻痺していますが、これってかなり凄いことですよね。
なんの因果関係もない二つの言葉が、すっと結びつけられているという事実。
先に述べた作品でもトラックとの衝突を契機に、主人公は異世界転生を果たします。
転生ものにトラックが突っ込みがちな傾向は三つあると思っています。
①展開が急でも違和感がない
②主人公以外の周りへの人的被害が少ない
③読み手の理解
まずは①について。
『展開が急でも違和感がない』
悲しいことですが交通事故は唐突に起こります。
理由はあれど、その多くは予期しないものです。交通事故を起こしたくて起こす人はいません。
世界のカーチェイス映画史上で最もドンパチを起こしているであろうワイルドスピードの中でだって、交通事故を起こそうとする奴はいません。行動の結果としては起きているかもしれませんが……。
日常から非日常への移行は、ガツンとパンチがきいていないと読者は「あれ? なんでこいつ異世界いるの?」となります。異世界転生は現代人が異世界に行くことこそが肝なのですから。
それを防ぐためには、その説明のために文字数を費やさねばなりなりません。
これがなかなか手間です。
導入はあくまで導入。書き手が書きたいのは本編であり、導入じゃありません。
その点、現代(日常)から異世界(非日常)という転生(移行)にトラック事故は打ってつけです。
「普通自動車じゃダメなの?」
と思うかもしれません。もしくは、スーパーカーの方がかっこよくないかと。
ダメです。トラックじゃないとダメなんです。
厳密にはダメではないのですが、トラックの方が楽なのです。
誰も見たくないでしょう。早々に人が錐揉みしながら飛んでいく描写は。
それに車にはねられただけなら、死なない可能性だって十二分にありますよね?
そのため、車に轢かれて死ぬまでを描写する必要があります。
それがトラックならぺしゃんこ。キキ―ッ、ドンッ! はい導入終わり。イージーピージー。
次に②について。
『主人公以外の周りへの人的被害が少ない』
物語では普通の主人公だけを異世界転生させたいのです。
唐突なら隕石や落雷でもいいといえばいいのですが。
よほどの山奥に住んでいなければ、まず間違いなく主人公の視界に収まる範囲にいる人から死人が出るでしょう。そうでなければ不自然ですし、同じ条件で他の人まで殺してしまったら、他の人が転生しない理由がないと不自然です。そして、よほどの山奥に住んでいる山育ちの人を普通とは呼びません。
物語とはおもしろくて、フィクションなのにフィクションだって思わせたらダメなんです。
フィクションとわかった上で楽しむけれど、楽しんでいる最中にそう思わせないようにするのが大事です。それでいて、必要以上に疑問を挟ませないこと。裏を返せば、物語で感じる疑問には意味があること。これは良い作品がもつ条件の一つではないでしょうか。
不自然もなく、主人公一人を異世界転生を置く出す装置が必要です。
その点、トラック特有のあのっぺりとした顔。
あのトラックの顔は主人公一人だけをぺしゃんこにして、送り出す装置としては申し分ありません。
最後に③について。
『読み手の理解』
物語とは読者に物語るもの。
その物語りに理解を得た読み手がファンになります。
誰かに読んで欲しいと思って書かれた物語であれば、読み手の理解への配慮は欠かせません。
先にも述べましたが、「異世界」と「トラック」というなんの因果関係もない二つの言葉が、当たり前のように結びつけられています。いわば「異世界×トラック=異世界転生」の公式。
この公式は読み手に既に理解されている舞台装置として使い勝手がいいです。
例えば、うだるような暑さの中、家に帰ったあなたの目の前にあるうちわとエアコンのリモコン。
多くの人がリモコンのスイッチを押すでしょう。誰もそれを責めないでしょう。なぜなら、スイッチを押せば涼しくなるとわかっているから。
エアコンの風が嫌いでうちわを使う人もいるでしょう。もしくは節約したくてうちわを使う人もいるでしょう。それはそれでいいと思います。
ただ目の前に用意されたより便利な道具を、人が選んで使うことは当たり前のことです。
それを物語で考えた時、『誰かに読んで欲しい』と願い描かれた物語が、読み手の理解を得るために『たくさんの人に読まれてきた』舞台装置を使うことは効率的ではないでしょうか。
以上の点から、トラックは今もどこかの物語で主人公たちを異世界へ送り続けているのでしょう。
無職転生の英語吹替えの声優さんが他の吹替えアニメと比べても格段に好きです。
特にシルフィとエリスの声優さんたちがすごくて、うひょーいってなります。