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きみの雫で潤して  作者: 餅月 響子


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第31話 香りと友達と…

杏菜は、

朝ごはんをありあわせで済ませて、

堀込さんの腕を持ち

白杖をつきながら、

視覚障害者情報提供施設【ブルーベリー】

に向かった。


自動ドアが開くといつもの柑橘系の芳香剤が

鼻に漂ってきた。アロマデューサーを置いているらしい。いい匂いだった。


「あれ、もしかして

 この気配は杏菜ちゃん?!」


 目が見えなくても気配だけでわかったのは

 前回から仲良くなった先天盲目の宮守結子みやもりゆうこだった。


「なんで、わかるの?

 結子ちゃんすごくない?」


「すごいでしょう!

 今日のつけてる

 香水とかシャンプーの香りで

 分かっちゃうよ。

 最初に会った時と同じだったから。

 すぐ分かっちゃった。」


 杏菜は、試しに自分の香りを嗅いでみたが、そこまできつかったかなと確認する。


「杏菜ちゃん、大丈夫。

 良い香りって意味だよ。」


 堀込が話す。

 悪気があって言ってないことを

 説明された。


「香水つけすぎたかなと思ったから。」


「そういうわけじゃないよ。

 どうしても目が見えないから

 他の機能を使って人を判断しなくちゃ

 いけないからね。

 嗅覚が優れているのかもしれないよ。

 杏菜ちゃんもそうなるよ。」

 

「えー、そうかな。

 まだ嗅覚レベルは上がってないって

 ことだね。」


 杏菜は、おみそれしましたと

 結子に頭を下げた。


「やだ、私はそこまでレベル高くないよ。

 普通だから。」


「いやいや、結子さんには負けますわ。」


「もう、杏菜ちゃんったら。」


 スタッフも含め、周りにいた利用者も

 一緒になって笑っていた。

 とても和やかだった。


「杏菜ちゃん!

 あっちに一緒に行こう。」


 結子は突然、杏菜の腕を引っ張って、

 連れていく。


「え、堀込さん。

 私、いいの?」


「いいから、行っておいで。」


「ほらほら、こっちこっち。」


 結子は、犬のペットのように飼い主が帰ってきて嬉しいような雰囲気に尻尾振っているようだった。ぐいぐいと杏菜の腕を引っ張っていく。


「待って、待って。

 結子ちゃん。慣れてないから

 うまく杖なしじゃ歩けないよ。」


「ごめんごめん。

 杏菜ちゃんが来てくれて、

 私、すごい嬉しくなっちゃって。

 ついつい…。

 ここでお話ししよう。」


 施設のホールには、たくさんの

 ふわふわソファが並べられていた。


 結子は、杏菜と話がしたくて

 仕方なかった。隣にぺったりと

 ソファに座らせた。


「このソファ、大きくてふわふわだね。」


「でしょう。

 杏菜ちゃん、話していい?」


「うん、いいよ。

 どんな話?」


「えっとね、

 杏菜ちゃんは好きな子いるの?」


 突然の恋バナに杏菜はびっくりした。

 初対面に近い杏菜ともう恋バナになるとは

 思わなかった。


「え、う、うん。

 そうだね。

 好きな人いるかな。」


「そうなんだね。

 実は、私も好きな人いるの。」


 これは話を聞いておいて、

 実は聞いて欲しいっていう流れだなと

 察知した。


「え、そうなの?

 誰のこと?」


「最近始めた声フレンドっていう

 アプリでね。

 知り合った同い年くらいの男の子

 なんだけど、すごいかっこいい声で

 癒されているんだ。

 会いたいけど、私、目が見えないから

 そのこと知ったらショックかなって…。」


 結子の声の調子が変わる変わるだった。

 好きな人がいることは嬉しいが、

 叶わぬ恋であることが残念と思っている。


「そんな、何も始まらないうちから

 マイナスに考えなくても…。」


「だって、でもさ。

 あ、そういや、声は可愛いねって

 褒められたんだよ。

 私もかっこいいねって言い返したけど、

 照れてたのか何も言ってなかった。」


「良かったじゃない。

 両思いかな?」


「え?え?そう思う?

 会いたいけど、1人で会うのは

 ちょっと、気が引けるんだよね。」


「うん、初めは緊張するよね。 

 誰だってそうだよ。

 もう、会う約束してるの?」


「ううん。してない。

 自信ないから。」


「そしたら、

 ヘルパーさんに付き添ってもらったら?」


「デートにヘルパーさん?

 恥ずかしすぎるでしょう。」


「まぁ、そうだよね。」


「ねぇ、杏菜ちゃん。

 付き添ってくれない?」


「え、私?

 私だって、見えないんだよ?」


「いいよ。心強いから。

 友達連れて行きますって

 言うから。」


「…私もお邪魔虫になるから

 行かないほうが。」


「え、ごめん。

 今、アプリDMに送っちゃった。」


「い、いつの間に?ギガ早くない?

 というか、目が見えないのに 

 よくできたね。

 すごい。

 私なんか、電話するのも難しいのに。」



「慣れだよ、慣れ。

 私は生まれてから見えてないんだから

 意地でもやるのよ。」


「すっげー。ばり尊敬するわ。」


「ありがとう。」


「あ、ごめんね。

 私の話ばかりで、

 杏菜ちゃんの好きな人って?」


「ああ、いいよ。

 私は。」


「そんなこと言わないで教えてよ。」


 結子はぐいぐいと杏菜に近づいた。


「好きだけど…分かっているくせに

 受け止めてくれないんだ。

 私を子供扱いしてるのかな。」


「ふーん、高校生だから?」


「でも4月になったら

 18歳の成人ってことに

 なるんだけどね。

 私って、幼いのかな。」


「そんなことないよ。

 目では見えないけど、雰囲気で

 読み取るとギャルっぽくない?

 大人じゃない。」


「雰囲気でわかるの?」


「そう、勘が鋭いのよ、わたし。」


「髪、ブリーチしてないよ?」


「うそ。」


 結子は杏菜の髪質を指で確かめた。

 色は確認できない。


「うーん、髪染めてないの?」


「染めてるからって

 ギャルでもない人いるし、

 黒髪ギャルもいるから。

 関係ないよね。」


「イケイケだと私は感じる。」


「何、イケイケって。」


 笑いがとまらない。


「カーストで言うと、上の方ってこと。」


「カースト?

 ああ、学校の教室カーストのこと?

 私、孤立組だよ。

 女友達いなかったし。」


「え?孤立?

 ぼっち?

 でもオタクではないよね。」


「まぁ、オタクではないかな。

 本は全く読まないし。

 今は、点字本読んでいるけどね。」


「ぼっちかぁ。」


「ぼっちぼっちうるさいなぁ。

 結子ちゃんだって、ぼっちでしょう。

 仲間じゃん。」


「ち、ち、ち。

 私、この施設、牛耳ってるから。」


「ま、マジで?!」


 杏菜は目を丸くして驚いた。

 鼻高々に自慢する結子との絡みを

 遠くから堀込は微笑ましく観察していた。



 杏菜は、結子と一緒に過ごして

 とても充実しているようだった。


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