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きみの雫で潤して  作者: 餅月 響子


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第22話 目の闇から始まる新たな始まり


ここはどこだろう。



星は見えるだろうか。真っ暗な世界。



夢の中だろうか。



真っ暗な天国にでも来たのだろうか。



目が見えない世界は地獄へ落とされたようだ。



不自由になってしまう。



こんな世界には行きたくない。




昔、テレビ番組で盲目の患者が特集された

ドキュメンタリーを見た。

盲導犬と一緒の生活はどんなものかというものだ。


犬は好きだが、

人間なのに犬に頼りにするのは

ちょっとかわいそうすぎると思って

見ていた。



でも、生きていくためには人に頼るより

犬に頼った方が後腐れなく、癒しにもなる。



考え方が変わったのかもしれない。



****



目を開けた感覚が走った。


でも、あたり前に映る景色は、真っ暗で何も見えない。



むしろ、目から何の情報を得ることができない。


微かに耳から音が聞こえる。


誰かが自分の名前を呼んでいた。



ベッドに寝ているんだろう、手にはふとんを

しっかりと掴んでいた。




「杏菜ちゃん!」



 気配を感じた。

 シトラスのきつい香水の香りがする。

 鼻の嗅覚は敏感だった。


 隣にいたのは、救急車に一緒に乗ってきた

 ヒカルだった。


「良かった。

 意識ははっきりしてるみたいだね。

 本当大変だったよね。

 ガラスコップがまさか両目に当たって、

 《《目が見えなくなる》》なんて…。」


 ヒカルは重要な話をあっさりと

 話してしまった。


 衝撃的なことなのにと杏菜は

 ヒカルの言葉を疑った。


「え、ヒカルさん、今なんて言ったの?」


 目の上には包帯がぐるぐる巻きに

 なっていた。


 見えないまま、ヒカルに問う。


 杏菜の一言に反応した。


「え、だから、目が見えなくなるって…。

 あ〜、ごめん。

 まだ言わない方、良かったかな。」


 今頃、杏奈の気持ちを察したヒカルは

 結局は他人事だった。

 優しさなんてひとかけらもない。


 健常者じゃなくなった時点で、

 冷めたようだ。


 所詮、人間は、面倒ごとには

 付き合いたくないものだ。


 杏菜は、見えない瞳から大粒の涙を

 流した。


 周りの景色も、人の表情、

 いつも見ていたスマホの画面。

 

 美味しいねと食べた食事風景さえも

 自分の目で見ることができないのだ。


 なんで自分がこんな目に

 自暴自棄に陥った。


 ベッドから立ち上がり、ジリジリと

 右手には窓の淵、左手にはテーブルを

 触りながら、邪魔のものを両手で

 避けていく。


 ここでいう邪魔なものというのは、

 歩くのに触って移動しなければならない。

 テレビリモコンケースや、

 看護師が体温などをチェックする

 サマリーが挟まったバインダー、

 お茶が入ったマグカップ、

 見ることのできないスマホ。


 目の前にあるもの全てを床に落とした。


 精神がおかしくなったと

 後退していくヒカル。


「お、おい、何してるんだよ。

 物を壊すなよ。」


 バリンガシャンといろんなものが

 割れるのが聞こえる。

 音だけの情報しか聞こえない。

 楽器にしか思えない。

 信じられなかった。


「物が壊れてるなんて、知らないわよ!」


 病室の自動で閉まるドアの前、

 壊すものがないとわかると、

 その場でぺたんと、しゃがんだ。

 履いてたスリッパが無惨にちらかる。


 涙がとまらない。

 嗚咽が響く。


「なんで私ばっかり!!」



 手に負えないと思ったヒカルは

 逃げるようにして静かに個室の病室を

 出て行った。


「あんなの、誰が面倒みるかよ。」


 嫌な言葉を吐き捨てて、病院を後にした。


 1人、個室病室の出入り口前、

 目の前にトイレがある。


 杏菜には、トイレがあることさえも 

 わからない。


 ずっと泣いて喚いて、

 誰にも相手にされないんだと

 ネガティブなことを考える。


 神様は自分の味方ではなかったのだろう。


 体中の水分が無くなるくらいに

 ずっと泣いていた。



 すると、病院の廊下をカツカツと

 聞き覚えのある靴の音が聞こえた。


 黒いスーツのポケットに、

 手をつっこんで、口元には、

 棒付きの飴を加えていた。


 病院内は禁煙だと知ってたため、

 飴で気持ちを紛らわせた。


 本当は最上級にタバコを吸いたかった。



 個室のドアを開けた。


 輝く光が見えたように思えた。



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