父ちゃんと温泉
エメットの領から帰って来て七日程経った頃 一人の若者がシリウス旅団本部を訊ねて来た
「私ヤルと申します 突然訊ねて来て申し訳ございません こちらにフェンリル様がいらっしゃると聞いたのですが 本当でしょうか?」
受付の団員に汗を拭きながら尋ねる
「ええ いらっしゃいますよ」受付の子が答えると
ヤルは顔をパッと輝かせ
「是非 お目通りをお願いしたいのですが」受付の子に顔を近づけて懇願する
「少し お待ち下さい」そう言って二階に駆け上がっていく受付の子
二階の父ちゃんと母ちゃんの部屋のドアをノックし 来訪者の事を告げる
母ちゃんが気持ちよさそうに寝ているの見て 父ちゃんが
「どれ 我が行こうか」むっくりと立ち上がって一階に降りていく
階段を下りてくる父ちゃんを見てヤルが平伏し
「お目にかかれて光栄です フェンリル様!! 私は人狼のヤルと申します フェンリル様にお願いしたい事がありお伺いました」
「なんだね お願いって?」訝し気に聞く父ちゃん
「はっ 実は我等人狼の村に鬼蜘蛛が現れまして被害が出ております 村の者で対処しようとしましたが失敗してしまい 冒険者ギルドに依頼を出したのですが彼らも失敗しまして村を捨てようと話し合っていたところ フェンリル様がこの国にいらっしゃるとと聞きお力をお借り出来ないかと思いまして 不躾ながら参上いたしました」
ヤルは額の汗を拭う事無く一気に喋る
「鬼蜘蛛?それは珍しいな?」父ちゃんが言うと
「はい 故老も初めて見たと言ってました 鬼蜘蛛というのは冒険者に教えてもらいました」
「そうか」父ちゃんは言うと 暫く目を閉じて考え込む
「分かった 案内してくれ」ヤルに言い続けて受付の子に
「母ちゃんとシリウスに少し留守にすると伝えてくれ」
言ってヤルの元に行くと ヤルは狼に変身して扉に向かう
二頭は聖王国を出て森を駆け抜け 草原を走り抜ける
腹が減れば小動物を狩って満たし五日走って村に辿り着いた
そのまま鬼蜘蛛の住処に向かい 鬼蜘蛛を見つけると父ちゃんが爪で攻撃するが
「さすがに硬いな」鬼蜘蛛には傷一つつかない
距離を取ったところに鬼蜘蛛が口から糸を父ちゃんに向けて吐き出す
鬼蜘蛛は尻から糸を出して巣を作って獲物を捕るのでは無く 口から糸を吐いて獲物を動けなくして捕食するのだ
右に左に避けていた父ちゃんだったが いい加減鬱陶しくなって「雷雨」雷を雨のように鬼蜘蛛に浴びせる
「グヴァ グギッ」悲鳴のような声とも音ともとれるものを残して鬼蜘蛛が倒れる
焦げた匂いと薄く煙を放ちながら動かなくなった鬼蜘蛛を見ながら父ちゃんが力を抜く
「さ さすがです フェンリル様」ヤルが呟きに近い声で言う
「ささ こちらへどうぞ」
ヤルに案内され故老の元へ向かうと
「あの鬼蜘蛛には手を焼いておりました 退治して頂き誠にありがとうございます。」故老が平伏して父ちゃんに感謝の言葉を述べる
「粗末ではありますが どうぞお楽しみ下さい」
兎や猪 他にも何かの生肉と酒が並べられている
父ちゃんはそれらを見て「お気持ちだけいただこう 鬼蜘蛛のせいで碌に狩りも出来ておらんのだろう 村の皆で食ってくれ」
「ありがとうございます」故老は頭を下げる
「では 疲れをとるのに温泉にでもご案内しましょう」ヤルが言う
「温泉?」父ちゃんが聞くと
「はい 疲れがとれるお湯でございます。」
ヤルに促されて村の外れに行くと硫黄の匂いと湯気が流れてきた
「こちらです フェンリルの姿だと毛が傷みますので人の姿の方が良いかと思います」ヤルに言われて人の姿になりお湯に足を浸けると少し熱い気もしたが そのまま身体を沈めると「ふーっ」思わず声が出る
手足を伸ばし寛ぐと 確かにこれはいいな 思いながら目を瞑る父ちゃん
放心していると 反対から気配がする
湯気の上るなか目を凝らしてみると十人ぐらいの女が温泉に入ってきた
その内の一人が湯桶に酒の入ったコップを置いて父ちゃんの隣にやってくる
「我等 人狼の始祖はフェンリル様と人間の交わりで生まれたと言われております」
そう言いながら酒のコップを父ちゃんに手渡す
「おお すまないな」言いながら酒に口をつける 目を閉じて酒の味を楽しんでいると 周囲を女達に囲まれていた しかも全員発情期の匂いがする
父ちゃんは慌てて温泉から上がり 全力で走り出した
聖王国に着くとコルテの店に掛け込み
「コルテ 何でもいいから料理を出してくれ!!」父ちゃんが叫ぶと
「何があったんだ? 父ちゃん」コルテが不思議そうに聞くと
「生肉ばかりで辛かった 調理された飯を食わせてくれないか」父ちゃんが言うと
「あいよ 少しお待ちを」
少しして出された料理をガツガツと食いながら
危なかった 他の雌の匂いとか付けて帰ったら母ちゃんに殺されるところだったと思っていた




