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君がそこにいる理由【創作短編】feat.青の時間/浜田省吾

作者: 深海周二

夕暮れの空には一瞬だけ、この世の色の全てがあるように思う。ただしそれは一瞬だけだ。


俺が車のエンジンをかけた時、空は青かった。

だからまだ、間に合うと思った。

空の色をアテにするものじゃない。

街は空の青さに合わせて動いてはくれないから。


高速道路に乗ると、そこは無数のテールランプで赤く染まっていた。

それでもまだ、間に合うと思っていた。

空の色を頼りにするものじゃない。

道は空の青さに合わせて動いてはくれないから。


俺が横を振り向くと、そこにはいつも、君がいた。

君はあまり、言葉を発しない。

無駄に空気を震わせたりしない。

たぶん、存在そのものが、声ならぬ言葉だと知っているから。


君が横を振り向くとき、俺はいつもそこにいただろうか?

たぶん、いなかったに違いない。

仮にいたとしても、俺は何も言葉を発しなかっただろう。

でも、それで君は満足したに違いない。


同じ無音であっても、無言に佇む存在は存在そのものを語り、無音の虚空は何も語らずに孤独を呼び寄せる。


存在とは、存在すること自体が、声ならぬ言葉だ。

俺がそのことを知ったのは、横を振り向いた時、そこに君がいなかったとき。


空は、茜色を帯びていた。

もう、間に合わないかもしれない。

かつて一度だけ、君に聞いたことがある。

なぜ君は、そうやって、俺の横にいてくれるのかと。

君は、言った。

もう横にいる人間に、なぜ、横にいる理由を聞く必要があるの?と

その時の俺には、君が何を言いたいのか、わからなかった。


夕陽が、まぶしい

黄昏時・・・太陽は無言のまま街の高さになで降りてきて、自らの存在を訴える


目を細めるほど光を放つ太陽に、なぜ、そこにいる理由を聞く必要があるだろう

つまり君が言いたかったことは、そういうことなのかもしれない。


そこに存在するという事実を超える理由など、何もない。

どんな理由も、どんな運命も、どんな嘘も、事実から生まれ、事実の上で演じられる三門芝居にすぎない

つまり君が言いたかったことは、そういうことなのかもしれない。


空は、幾重もの色に染まっている。太陽はもう・・・いない。

もう、間に合わないだろう。

空の移り変わりは、時の移り変わりより早く

人の心の移り変わりは、空の移り変わりよりも早い

君はもう、待ち合わせの場所には、いないだろう。


空は、漆黒に飲まれようとしている。

何も終わったわけではないのに、何かが確実に終わったような気分になる。

だから、空の色をあてにするもんじゃない。


どうやら俺は、その一瞬を見落としてしまったようだ。

この世の色の全てがそろう、夕暮れの一瞬を。

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