ユメオリビト〜異世界転移して、かわいい女の子に出会ったのにたった1週間で死ぬらしい件について〜
挿絵は、第五章〜六章に登場するリリアン(リリー)のイメージです。
第四章【使命】
「もー無理、ギブ、クソ疲れた、汗だくだし。てか俺クソ強くなってね!??」
慎太郎とゼファーは地下室から上がり、ギルドのソファに腰掛けていた。
ゼファーは大剣をソファに立てかけ、余裕を持って座っている。その少し隣に、慎太郎はぜえぜえと息を荒げながら、両手の手のひらをソファーにぴったしつけて、首の座ってない赤ん坊のようだ。
そしてそこには、いつの間にか戻ってきていたセリアもいた。
「おいセリア!お前俺が死ぬかもって時に、どこいってたんだよ!マジでこのにーちゃんが気分変えてくれなかった、俺死んでたぞ!」
慎太郎は息継ぎをゆっくり挟みながら、前の円卓に座っているセリアに言った。セリアは少しにこやかな表情をしてた。
「慎ちゃんが死なないこと、分かってたし、この人に負けないことも私はわかってたよ。これで分かった?あんた、強いの。そんな特級魔法を使えるのは、この辺ではあんただけ。あんたがその魔法の練習してるの、知ってたわ。」
セリアに対して慎太郎は少し不満な顔を浮かべて、何も発さなかった。
そう言ってセリアはカウンターの方に向かった。
(そういえばせりたんって、なんか謎ばっかだよな。あんまり自分のこと話さないし、守るとか死なないことわかってたとか、俺が練習してたの監視してたのか…?ちょっと人を信じすぎなのも良くねえな。)
「俺は驚いた。お前、強いんだな。ガキのくせに。」
ゼファーは自分の頼んだロックグラスをクルクルと回しながら話している。
ギルドは再びハンターたちが集まってきて、ジャズ隊の音楽も流れて、活気ある元の姿に戻っている。慎太郎は酒樽のようなジョッキで水をんでいた。
セリアはまだ何も食べてなかったからと、カウンターに食事夜注文をしに行っていて、優柔不断な動作を見せている。
「あ、そういえば。俺が死ぬ理由教えてくれるんだよね?」
すこし呼吸も落ち着き、慎太郎はリラックスしていた。ギルド専属賢者の治癒魔法で汗や疲れも回復したからである。
金はかかるが今回はゼファーの奢りだった。
「ああ、話そう。お前が1ヶ月と3週間以内に死ぬのは、お前がその使命の意味を理解していないからだ。
その本は20ページある。1ページ目には使命、2ページ目は達成出来た時の報酬か出来なかった時の罰、またはどちらも記されている時も多い。」
ゼファーは話を続ける。慎太郎はうんうん、と聞いている。セリアはまだメニューに迷っている。
「なぜ俺がお前の2ページ目まで読めたか、と、『第二ゲートを破壊しろ』について話そう。」
「そうだ、それが聞きたいんだ、それをしなきゃ俺は死ぬんだよな?俺はどうすればいい、その第二ゲートってのはどこにある、どうやって破壊すればいい。」
少し早口で聞くと、ゼファーはまあ落ち着けと言わんばかりに、グラスを口の方に持っていき、葉巻をカットし始めた。
そのままゼファーは葉巻に火をつけ、煙とともに言葉を出した。
「まず、なんで俺がお前の持っている本の2ページ目が読めたか。それは基礎魔力が単にお前より高いからだ。
俺は認識のスキルを持っている。お前がその本の一ページ目や、この街の人間と会話出来たり文字を読めるのは、セリアからかけられた認識魔法のおかげだが、あくまでそれは応急処置的なもので、詠唱者が規定の範囲内に居なければ効力は切れ、また掛けてもらう必要がある。
その認識魔法も、さっきお前が使った魔法も『幻魔力』といって、元々の人間の潜在部分に潜むもので、人々はそれぞれ生まれ持った『幻魔力』の量は予め決まっている。」
(やっぱりこいつお喋りちゃんなのか〜?可愛いなあ、ツンデレってやつか〜?本当はお友達いなくてさみちかったのかな?)
ゼファーが話している間に、セリアは2人分の食事をカウンターから持ってきた。
出来たてである。見た目は質素だが、ギルドの飯なんてそんなものである。とにかく腹が膨れればいいのだ。
「はーーーい!どーーん!若いドラゴンの肉なんて食べるの久しぶり〜!今日はあんたの勇気に免じて、あたしが奢ってあげるから、さっ、堅物もいる事だけど、気にせず食べましょ。」
セリアはそう言うと早速、ガツガツとフォークでドラゴンの肉を食べ始めた。
(うわぁ、せりたん、1週間前の君はどこへ…君はお花とかハーブティーくらいしか口にしないと思ってたよ。あ、そうだった。)
慎太郎はご飯を食べているセリアを横目に、自分も少し食べながらゼファーに話しかける。
「続きを聞かせてくれ、俺はどうすれば死なないで済む?」
ゼファーのグラスは空になっている。少しソファーに寄りかかるような体勢になると、ゼファーはこっちを向いた。
「東にある、第二ゲートという、こちらとあちらの繋がりに関係するゲートを破壊する。場所は知ってる。」
「本当か!??近いのか?!教えてくれ!」
慎太郎は肉を口に含みながらゼファーに聞いた。
「遠いな。ここは西の国だからな、幸い西の中心都市で良かったな。交通機関は途中まで使えるぞ。」
「そうか、じゃあお前、着いてきてくれよ!」
その瞬間、またギルドが静まり返り、コソコソと周りの何を言ってるか分からない声が聞こえる。
セリアも一旦食事をやめ、ふーんと言った感じでこちらの話を聞いている。
(やっぱこいつやべえやつなのかぁ?良い奴なのか?どっちなんだ?俺は良い奴っぽいって思うんだけど…)
少しの沈黙が続いた。
「いいだろう。ただし、あくまで利害の一致だ。付き合ってやる。俺も近々東に用がある。」
「え!!??まじで!?!いいの!!??神展開キタコレ!」
慎太郎は大きくガッツポーズをする。セリアは微笑んでいる。
「慎ちゃんよかったじゃん。最初から剣士が仲間って、なんかありがちかもだけど。」
するとゼファーが遮るように即答する。
「仲間じゃねえ、友達でもねえ。ビジネスパートナーだ。条件もある。」
(条件?またとんでもねえこと言い出さねえだろうなこいつ。)
「条件ってなんだ?」
「そこの女を同行させろ、道中治癒魔法や移動魔法、賢者であるそいつに使わせる。それが俺にとってのメリットだ。」
セリアは迷う顔ひとつ見せずに答えた。
「いいわ、私も行く。慎ちゃんに死なれたら困るのは私だからね。」
ゼファーが少しニヤリとしたあと、頷いた。
「出発は、明日。日が落ちる頃だ、最初の目的地は『アルディア王国』だ。アルディアまでなら俺の車で十分だ。」
「まあそうだよな、時間、ねえし、セリアもほんとにいいのか?仕事もあるんだろ?」
セリアは少し困った顔を見せたかと思うと、すぐにニコッとした表情に変わった。
「私は平気、元々個人の研究者だし、明日図書館には伝えておくわ。旅先でも仕事はできるしね」
するとゼファーが大きな体を持ち上げ、慎太郎を見下している。
「決まりだ。おいお前、慎太郎とか言ったな。アルディアに行く前にギルドネームと、登録を済ませるぞ。」
「ギルドネームってなんだ?どうやってやんだ」
慎太郎は皿いっぱいの肉を半分たいらげていた。セリアは既に完食して、満足気な表情を浮かべながら、円卓に腰かけている。
「他の国や、私有地に入る場合に必要な、そっちの世界で言うパスポートの様なものだ。登録は受付で数十秒もかからん。」
そう言うとゼファーは受付の初老程の男性を指さして言った。髪も髭も伸びきっており、顔の全貌が見えない。
「おっけ。あのオッサンに登録してもらえばそれでいいんだな。行ってくる。」
慎太郎はソファーから立ち上がり、受付へ向かった。
「あの、ぎるどねーむ?とここのギルドに登録したいんですけど、お願いできますか?」
「…」
男性は喋らない、下を向いたまま何かブツブツと言っているが、内容は聞こえない。
(何だこのジーさん、耳聞こえてんのかな…)
「あの…」
その瞬間、ジリジリと慎太郎の目の前に小さい手のひら大のメモ帳が出現した。
「…」
相変わらず男性は何も喋らないまま、下をうつむいている。
「これでOKってこと?なんだよな?早速中身中身…」
慎太郎はそのメモ帳のようなものを手に取り、歩きながら中身を見開き始めた。1ページ目にはこう記されてあった。
【名】〝クルシュタイン・N・シン〟
【職業】魔法剣士
【種族】人間
【登録地】メノハマ王国 テキーラレインギルド
【ランク】G-
【特記】夢使い
以上、身分の証明。
続く