異世界転移してまだ1週間なのに、死ぬらしい件について。
コメントくれたら、嬉しいな。
序章 【悪魔が生まれた日】
二XX一年一月十六日、全てが始まって、全てが終わった日―――――
「藤井、単語帳貸してくんね?」眠たそうな目で図書館の周りを見渡しながら聞いて来たのは、現高校に至るまで、ずっと腐れ縁のケイジだ。
「今使ってるからちょいまち」
フルネームで『藤井 慎太郎』と書かれた単語帳を閉じ、学習室を抜け、慎太郎は雑誌コーナーに向かった。
(なんだこの本……)
薄らに発光しているような、明らかに雑誌では無い、小さくて薄いメモ帳のようなものがそこにはあった。
しかしその見た目は仰々しく、紫色の異様な模様が施されていた。
(なんでこんなに惹かれるんだろう、俺を見てるみたいだ。)
受験勉強で疲れてるのかと、冷静になりつつ、本を手に取り、流れるような動作でページを開いた。
(どうせ宗教雑誌か何かだろ…気色悪いな)
本の中には、訳の分からない言語で何かしらの絵と一緒に文章が綴られている。刹那、慎太郎の視界がブラックアウトした。
(……?)
――あれ、俺何してたんだっけ。そうだ、ケイジと勉強しててそれで…
真っ暗だ。何も見えない。
少し目が慣れてきて、慎太郎は今いる空間を認識した。そこは学校の多目的トイレ位の部屋で、何やらドアがある。
(どうなってんだこりゃ、てかどこだここ、てか何だこの本。)
気が動転していた慎太郎は、左手に持っていたさっきの謎の本の存在に気づいていなかった。
「おーーーーーい!!!だれか!!!」
「ケイジ!!!ここどこだ!!!!!おい!!」
…………………………………………………………………………………………………………………………
(なんなんだよマジでこれ、こえーし、俺誘拐とかされちゃった?とりまこのドアあけりゃ外でれるんだよな、しっかしでけえ…)
「……」
「開かねーじゃん!!!!」
(終わった、多分終わったんだ俺、なんも見えねえなんも聞こえねえ、どこかも分からねえ。まだ彼女もできた事ねえのに…)
慎太郎は絶望していた。もう何時間たったか本人でさえ分からないくらい、ただただ怖くて身を案じていた。その時。
〝ゴゴ…〟
(!?)
扉の方から音が聞こえる。何かを動かす音だ。誰かが来る。
「おーい!!!助けてください!ずっと閉じ込められてるんです!開けてくださいお願いします!」
慎太郎は藁にもすがる思いで、枯れた喉で力を振り絞って叫んだ。すると視界がいきなり白くおおわれた。
(眩しっ…)
ブラックアウトの次はホワイトアウトである。
部屋には光が刺し、その部屋の全貌がようやく明らかになった。
壁一面、純黒のタイル様式。部屋の隅にはサイドテーブルと、長崎にあるようなステンドグラスの間接照明。
梟の像、そして目の前には、観音開きの大きな木製のドアがあった。
(やった、助かるんだ…)
体力も限界に近かった慎太郎は、崩れ込むように座り込み、安堵していた。今日は忙しい日だ、もちろん安堵する隙など与えてくれないらしい。
〝今そこにいらっしゃるのですね〟
その声は少しか細く、高く透き通った女性の声だった。
「はい!そうなんです!助けてください!開けてくれませんか!」
〝本を、お持ちということなのですね…〟
扉の外にいる女の声は少し不穏である。
「なんでもいいから開けて!お願いします!トイレも行ってねえし、飯も水も、なんも無いんですよ!助けて!」
〝残念ながら、私にはこの扉を開けることは出来ません〟
「なんでですか?なら他に誰か呼んで、鍵とか何とか、取り敢えず助けを呼んでください!」
〝貴方にしか、開けられません。『藤井 慎太郎』さん〟
「もう漏れそうだし、早く開け方教えてください!」
すると、女性は少し声量を大きくして話し始めた。
「私はセリア、セリア・ライトウィング。時間がありません。簡潔に言います。
数分後には貴方の命はありません。もし貴方が生きたければ、その本をドアノブに触れさせ、左側のドアを押してください。
そうすれば私が右側のドアを引きます。それで貴方はここから出る事が出来る。
だけど、もう貴方が住む世界には戻れないかもしれない。それでも、貴方が生きたいなら。」
しかし慎太郎は、これを聞き流して、強い口調でセリアに怒鳴りつけた。
「よく分からん中二病のガキンチョに付き合ってる暇はないんだよ!なんかビデオでも撮ってんのか??そうしてやるから早く出してくれ!」
慎太郎の怒号にも臆せず、セリアは優しい声でこう言った。
――――――ありがとう
第二章【夢幻界】
「あっ!目!目覚ましましたよ!!」
小さな病室でセリアの声が反響して、まだ意識が確かじゃない慎太郎は朦朧としていた。
「…えっと、はじめまして。」
擦り切れそうな声で慎太郎は呟いた。
(くっそ、どうしよう普通に美人で若いお姉さんじゃねえか…!緊張してきたてかやっぱ漏れそう。)
セリアは興味深そうにジロジロと顔を見ながら、優しく横たわる慎太郎に寄り添った。
「改めまして。セリアです。さっきは色々驚かせて申し訳ございませんでした。」
神妙な顔つきで、セリアは頭を深く下げた。
「いやぁまぁ、出れたんだし?逆にこちらこそありがとうございます(美人さん♡)てかなんで俺病院いるんすか?」
周りを見る限り、一般的な病院とは違い、壁も天井も全部木やレンガで作られており、老舗の喫茶店のような趣が漂っている室内だ。
だが、ベットがあることや、セリアが白衣を着ていること。点滴袋が最初に目に入ったことで、病院だと認識した。
「こちらの世界に来たばかりだと、みなさんしばらく倒れてしまうんです。貴方が今いるのは、『メノハマ王国』の王国記念総合図書館。その中にある私の魔道ラボです。散らかっててすみませんね。」
「メノ…マドら…って…。さっきから何言ってるんすか!???頭大丈夫すか?まじな話ここどこで俺はどうなってこうなってそれでえっと…」
セリアが慎太郎にさらに近づき、手を優しく撫でた。
(なんやなんや、いきなり、ドキッとさせて…(照))
「そうですよね、ゆっくりでいいんです。明日には貴方も疑うことはなくなっていると思いますよ。私も一気に喋り過ぎちゃいましたね、ごめんなさい」
悲しそうな顔で慎太郎を見ているセリアに対して、慎太郎は間髪入れずに質問攻めをした。
「セリアさん、俺も冷静になります。今から質問することに本当の事を答えてくれて、証拠を見せてくれたら、貴方の話を聞きましょう。
だけどそうじゃなかったら、容赦なく警察呼ばせてもらいます。
これ、軟禁ですし、場所教えないなんて、いくら美人たって酷いっす。」
(これで恩着せて、電番聞いてデートとか行けたらかなりグッジョブだな)
「わかりました。質問に答えましょう。今この状況でお見せできるものであれば、見せて差し上げます。」
セリアも真剣な顔付きで慎太郎を一心に見つめる。
「まず俺はどうなったのか、ここはどこなのか、あと帰れるのか、あと魔道とか何とか言ってたけどそれ何?」
少し早口でキツめの口調で慎太郎がセリアに問う。
「貴方がどうなったかについては、今全てはお話できません。私にも分からないことが多いので。外に出た方が一目瞭然だと思いますので、歩けますか?」
「ああ、うん。」
そこで慎太郎は1つの異変に気づいた。体が軽い。さっきあの部屋に閉じ込められていた時のストレスが嘘のように消えている。喉も乾いていない。
(どうなってんだ、これ。)
慎太郎が1人で自分の体の異変に驚いているのも束の間、白衣を脱いで外に出る準備を済ませたセリアが、部屋のドアの前で待っている。
「行きましょうか。ここ、地下ですし、魔法が使えないので、エレベーターでの移動になりますけど。」
(何が何だかよくわからんが外出るしかないよな、帰らなきゃだし)
魔法などとと口にするセリアに呆れたような顔をしながら、嘘のように軽い体を浮かせ、セリアと共にドアの外のエレベーターに乗った。
(明らかに古いエレベーターだな。暗いしせっっま)
しばらくの沈黙の間、エレベーターのチャイムがなり、エレベーターのドアを開けた先には、ドーム型の堂々たる図書館が視界に広がった。
「なんじゃこりゃ!!!」
思わず慎太郎は声を上げた
「初めての方はやはり驚きますよね、でもこの図書館でさえ、王国の中でも2番目の図書館なんですよ。特にこちらの世界に来られた方は尚更でしょう。」
慎太郎は感動のあまり、ここが何処とだとか、自分がどうなってるだとかそんな当たり前の疑問が、一時だけ頭の中から消え去っていた。
「外だ。酸素だ…やった……なんじゃここはーーーーー!!!!!!!」
慎太郎は確かに外にいた、だか見る景色見る人、車のようなもの、まさに〝異世界〟
「メノハマ王国、オホリ街のメインストリートです!どうですか?綺麗でしょ?私この国大っっ好きなんです!」
外の陽射しに反射したセリアの銀白色の髪が煌びやかに靡き、真珠のような灰色をした目は、まるで子供がプレゼントを貰った時のような純粋無垢な眼差しをしていた。
(初めて笑った顔見たな、背も高いしスタイルいいし、可愛いなあ。てかもうこんなの信じるしかないでしょ、なんか近くの人手から水出てたり、火出てたりしたし。)
慎太郎はリラックスしたゆっくりとした口調で話し始めた。
「まあなんだ、つまり、よくアニメとかにあるみたいな異世界転生ってやつをしちゃった訳だ。夢オチだったら願ったりなんだけど、そうでも無いみたい。ほらそこルーラみたいな魔法使うな〜。だから、うん、状況は把握した。で、どうすればいいんだ?」
さっきまで笑っていたセリアの顔に少し雲がかかる
「覚えているかどうかは分かりませんが、貴方はもう前いた世界には戻ることができません。方法はひとつもありません。貴方には、ここで生活してもらうしかないのです。」
「連絡…なんて取れてたらとっくにしてるよな…」
(でもまあ。いいんじゃないか。ただ勉強と飯と寝るを繰り返す日々、別に元々人生に希望なんてなかった。親のレールにただ沿って、それだけ。ラッキーじゃないか。受験からも逃げれて、こんな可愛い子と会えて、綺麗な世界にいるんだから。)
慎太郎は威勢のいい声でセリアの目を見つめて言った。
「うん!俺もここ、なんか好きだわ!住むわ!エルフとか見てえし〜」
セリアは驚いて少し後ろに足を引いた
「え、えっ、?そんな軽い感じなんですか!?こんな人初めてですよ、もしかして絶望しすぎて頭おかしくなりました?外だし、治癒魔法使えますよ。まだ耐性がついてないから効きすぎちゃうかもですけど。あ、ちなみにうちの王国にはエルフはいないです。」
早口でオドオドしながらセリアが焦っている。
「えー、エルフいないの〜ざんねーーーん。いいよ、大丈夫。元々俺あっちの世界?に未練とかあんま無いから」
軽く笑いながら腕を頭に組み、街の噴水のようなところに慎太郎は腰をかけた。セリアはそんな慎太郎の隣に座り、呼吸を落ち着かせたあと、口を開いた。
「では、改めて、ようこそ『夢幻界』へ。」
第三章【1人目】
あれから1週間が経過した。
慎太郎は、1週間で王国をセリアと共に探索し、17年生きてきた中でそれはどれも新鮮な経験で、美しかった。
今は、セリアの家の2階に住んでいる。
俺が1週間でわかった情報をまとめるとこうだ。
まずこの世界は元々居た世界と表裏一体の関係を成している。
お互いに間接的に時には直接的に干渉、影響し合うということだ。
では、何によって影響されているのか。
それは現実世界の人の持つ〝夢〟と〝希望〟
概念的エネルギーによって影響されあっているらしい。
その辺の話はまだ難しくて分からんが、1番の目玉はやっぱり魔法だ。
このメノハマ王国では、王国敷地内であれば規定内の魔力に抑えれば、自由に使用出来る。
ただし、重要な建築物内や、一部地域を除いてだ。魔力は運動神経と一緒だ。才能があるやつもいれば無い奴もいる。
スポーツと一緒で色んな種類があるし、流派もある。習得するだけなら簡単だ。
今は手にするものを光の刀に変えれるぜ!これしか出来ないけど…。
だけど基本は元の世界と変わらない。
みんな働いたり勉強したり生活のために生きている。そして最後に、最も重要な事。
それは、俺がここに来た理由。
あの本に導かれた理由。
あっちの世界では何を書いているか分からなかった本も、こっちでは不思議に日本語に変換されている。
セリア曰く、意思疎通の簡易魔法を自分にかけてくれたらしい。
そこにはこう記してあった〝第2のゲートを壊せ、それが汝に与えられた使命〟
読めたのは1ページ目だけで次のページの文字はそのままだ。これに関してはセリアもよく分からないと言っていたし、あまり詳しくは教えてくれなかった。理由は分からないままだ。
「まあでも、何もしなくてのんびりと、魔法の本とか読んだり練習したりして、セリアの飯も食えて、悪くないなこっちの生活。このままのんびりって訳にもだし、仕事でもしてみっかな?色々とセリアにも面倒かけてるし。」
「ただいま〜」
セリアが帰ってきた。セリアは図書館で働く賢者である。
慎太郎は2回から軽く〝おかえり〟と返した。
「俺さ、仕事しようと思ってんだけど、なんか、出来るのある??」
「仕事?別にしなくてもいいんじゃないの?私お金困ってないし、こっち来ちゃったんだからしばらくはゆっくりすれば?」
「なんか、意外といきなり暇になったら気分上がんなくなっちまうんだな」
しばらくセリアが黙って天井を見上げる。
「剣士なんてどう?慎ちゃん夢使いだし、下級のクエストこなす位なら今すぐにでも出来そう」
「ん?剣士?いやいや、この前一緒にギルド行った時すんげー怖かったよ、ちびるかと思った。あの人ら只者じゃないだろ、バウンディングハンターなんて俺には無理だよ、コンビニとかないの?」
(ん?いまユメツカイ?っていったな。なんだそれ。)
「こんびに?ってなーに?とりあえず、、」
「ちょいまち!」
慎太郎はセリアの声をかき消した。
「せりたん今、俺の事〝ユメツカイ〟って言ったよな、だから俺が剣士に向いてるとかなんとか。それって何なんだ?」
セリアは何故か少し困惑したような顔つきをしている。慎太郎は相変わらずあっけらかんな表情でセリアに問う。
「まさか慎ちゃんが、仕事したいなんて言い出すと思わなかったし、本当はもうちょっと経ってから説明しようと思ってたんだけど、夢使いっていうのは、あっちの世界から来た特別な魔力を持ってる人の事を言うの。」
セリアの顔はまだ少し曇っているように見える。慎太郎は頭を掻きながらセリアの話を聞いている。
「それっていい事って事だよな?早く伝えてくれても全然良かったじゃん〜そんでそんで、俺って強いってこと?ワクワク」
セリアはさっきの表情とは打って変わって笑みを浮かべて慎太郎に答えた。
「そう!慎ちゃん強いってこと!他の人よりも魔力が数倍もある可能性を秘めてるの!」
「すげーじゃん!これあれじゃん!アニメでよく見る無敵系主人公的な?チート的な?それでハーレム的な?ぎゃっはっはっは!」
慎太郎は続ける
「あ、そうそう、てか言葉があるってことは俺の他にもそのユメツカイっていう、現実から来たやつとか居たりするん?」
セリアの表情がコロコロ変わる、今度はまたなにか重い表情だ。
「そうね、居るわ。でも今この国にいるのはあなたを合わせてたった2人だけになってしまった。」
セリアの表情がさらに暗くなる。慎太郎はそれに気づいていない。
「俺その人と会ってみたい!だって仲良くなれそうじゃんか!今どこにいるんだ?」
「ギルドに居るわ、1人でね。彼が所属していたギルドは尽く彼以外解散、全滅しているいわく付きのヤツよ。もし会いたいなら、私が一緒に行ってあげる。」
セリアの表情は元の柔らかい表情に戻っている。
慎太郎はやっと2階から降りてきて、ソファーに腰かけた。
「なにそれこーわ。だけどやっぱ会いたいな、どういう心境なんだろう。てか地味に女の子期待してたわクッソ」
「早速行きましょうか、私もうお腹ぺこぺこ。丁度いいから今夜はギルドで食べて帰りましょう。」
「よっしゃー!初めての異世界外食〜楽しみ楽しみ〜♡」
2人は家を後にし、夜の街に出向いた。
慎太郎は、セリアと外を歩きながらふと哀愁に浸っていた。
(もう1週間も経つのか、まだ慣れないことも多いし、食べ物もどんな味がすんのか分からないのが多かったり、覚えることも色々多いけど、こんな神秘的で綺麗な街、親切なせりたんもいるし、例えもう1人のユメツカイが怖いやつだったとして殺されたとしても悔いねえかも)
歩いている途中、セリアは街灯に手を回して一回転して見せた。
「もう着くよ、慎ちゃん、この街好き?後悔、してない?」
「まだわかんないけど、今んとこ好きだよ!せりたんもいるし、人は優しいし。後悔なんてしてももう遅いんじゃね、帰れねえんだし(笑)」
慎太郎は前を見ながら話している、セリアは慎太郎の横顔を見続けている。こっちにも季節はあるらしく、今は秋、いい季節だ。
日本の秋よりもいい。涼しくて、雨は一年に2度ほどしか降 らないらしい。街の匂いも、何故か心を落ち着かせてくれる。
「それもそうかもね。慎ちゃんから後悔してないって聞けて、ちょっと安心した。大丈夫、何があっても慎ちゃんがこの国の中にいる限り、私が守るから。」
「何真剣な顔付きしてキザっぽいこと言っちゃって、普通逆だろそれ言うの、てかそんなに俺の事す、」
その刹那、強烈な破裂音とともに慎太郎の右の頬に衝撃が走った。
「バカなこと言ってないで、ほら、着いたわよ。奥に1人で大剣置いて座ってるあの白髪の男よ。名前は〝ゼファー・クロウリー〟この国じゃ唯一のSランク剣士よ。まあ、この辺は平和だからってのもあるけどね。」
「国によってランクが違うのか?」
「そうよ、呼び方も。強さも。判断基準はその地域や国によって選別されてるわ。ほら、私待っててあげるから、話しかけに行けば?」
(今思えば、最初で会った時は敬語で、お淑やかな美人お姉さんって思ってたのに、まさかタメで、1週間でこうも態度変わるもんかねえ…(苦笑))
緊張しながらも慎太郎は、ゼファーが座るカウンターへと歩いて行った。
するとふとさっきまで騒がしかったギルド内が静まり返った。
(なんだぁ、やっぱヤベー奴なのかあいつ、俺騙されてんのか?顔は見えないが白髪で長髪。大柄だ、ありゃ190くらいあるな)
「何だ。名乗れ、そして用があるなら簡潔に話せ。俺はあまり人と話すのが好きじゃない。特にこの国ではな。」
野太い声がギルドに反響した。それでも慎太郎は足をとめなかった。
「初めまして、藤井慎太郎です!自分もあっちから来たユメツカイなんすよ、それで、もし良ければお話をと。」
次の瞬間ギルドにいたハンターたち全員の手が一斉に止まった。
「お前ら、今日はすまんが、今から俺の貸切だ。」
ゼファーがそう言うと、見るからに屈強な男たちは何も言わずにただ店を立ち去った。異様な雰囲気がギルド内に漂っている。バーテンダーやウエイトレスもただ粛々と、業務をこなしているだけだ。
「誰から聞いた」
「えっと、俺まだこっち来て1週間なんですけど、セリアって子に色々教えて貰ってるんです。それであなたのことを知ったし、俺も今剣の練習してて、一緒にハンターになって仲良くなりたいなあ…みたいな…」
やっと拝めた顔色も一切変えず、深く濃い青の目はただグラスを眺めていた。ゼファーが口を開く。
「俺にはこっちに来た時の記憶も、前の世界の記憶もない。覚えているのは、妙な本を持っていたってことだ。こっちに来る時に無くしちまったがな。お前は持ってんのか?」
(なんだよ、意外と喋ってくれるいいお兄さんじゃん、酒っぽいの飲んでるし、20とかそんくらいかな?)
「持ってますよ!えっと一応持ってきてて確かここに…あった!」
本をやっと見つけて、出した瞬間ゼファーは途端に顔をこちらに向けて、本を慎太郎の手から取った。
ゼファーは五分ほどその本を眺めていた、ただ、眺めていた。めくっては返し、めくっては返し、全部のページを見終わったゼファーは本をカウンターの上に優しく置いた。
「なんかよくわかんないんすよね俺もそれ、その本のせいでこっちまで飛ばされちゃったっぽいし…なんのこと書いてるかさっぱりだし、読めないし。」
「お前、死ぬぞ。」
「え?は?」
「何度も言わせるな、お前はあと1ヶ月と3週間以内に確実に死ぬ」
(何言ってんだこの人、もしかして別の意味でもやばめな人だったりしたのか、もしやからかったなセリアのやつ)
「ちょっと何言ってんのか…僕が死ぬんですか?なんで死ぬんですか?」
「お前、冗談を言ってるとでも思ってるだろ。これ以上わざわざ俺に喋らせるな。気分が悪くなる前に、帰れ。せいぜい余生を楽しめ。」
(何だこの言い方ムカつくなこいつ、けどこえー、帰ろ。けど、もしそれがホントだったら…この人、嘘ついてるようには見えねえぞ。俺もともと嘘見破るの得意なんだよ。)
「どうしたら聞かせてくれますか、俺が死ぬ理由。」
「7000万セル」
「7000万セルって。そんな、日本円よりレート10倍なんですから、7億なんて無理っすよ…わかりました、後でセリアたんにそのことについて聞いてみます。ごめんなさい、急に話しかけて、それでは。」
(セリアに聞けばなんでも解決するから別にこんな奴にわざわざ今聞く必要ねえだろ。話がほんとだとしても1ヶ月以上あるらしいし?あー、嫌な奴だった。)
慎太郎は振り返り、ギルドの出口の方へ体を向けた。
「もう一つだけ方法があった」
二度と聞かないだろうと思っていた野太い声がまたギルドに響く。
「ちなみに…?なんですか?」
「今日、今、俺に剣で勝つことだ。」
「いやいやいやいやいやいやいやいや、そんなそんな、ゼファーさん。僕誰とも戦ったりしたことないし、しかも貴方様なんかと戦ったら殺されちゃいますよ…あはは…それでは…。」
慎太郎が逃げるように帰ろうとした時、気がつくとセリアが後ろの小さな円卓に座って足を組んでいた。
「あんたってケチなのね。教えてあげなさいよそんくらい。酒なら1杯くらい奢ってあげるわ。特別にね。」
さらにセリアは続ける
「Sランクのハンター様でここのギルド長のあんたが、年下のガキ相手に金で請求って、聞いててちょっとあなたのイメージ変わっちゃった。いつも1人ぼっちで、なんて言うの。惨め。せっかくこの人が友達になるって言ってくれてんのに」
(やめてくれセリア…こえええよおおお、確かにお前は強いかもだけど、そんなに言ったら後で飛び火が。だし家に帰ってもう明日ゆっくり教えてよおおお)
「まあまあ、セリアたん、落ち着いて落ち着いて、ソードマスターさんも色々あるのよ。家帰ろうぜ、このことについては明日ゆっくり良かったら教えてくれよ」
「…」
さっきまであんなに威勢が良かったセリアが黙りこくっている。
「この女にそれはできねえ。」
ゼファーが久しぶりに口を開く。
(煽り耐性強いのね良かったあ)
「どういう意味ですか?」
「その女は攻撃、治癒魔法くらいの物体に直接干渉する魔法の使い手ではまあそこそこかもしれねえが、認識魔法に関しては素人だ。
仮に鍛錬したとしてもこの本全部読めるようになるには、30年かかるかもな。
お前はもう死んでる。それにだ、この国には認識魔法を使える人間がいねえ。
もともと、認識魔法は生まれ持った家系の血を引いてないと使えねえ魔法だ。だからお前は、詰んでるってことだ。」
(すげーーーーーー、いっぱい喋ってくれるじゃん、なんかちょっと可愛く見えてきたかも〜。肝心な答えはわかんねえしまあ、セリアの表情見るとガチっぽいな)
「あとそこの女」
(まだ喋んのかーい。おしゃべりだいちゅきじゃん。)
「なに」
「貴様俺に酒をおごるなどとふざけた事抜かしてたな」
(いや沸点どこやねん)
「それが何か」
「貴様のせいでこの男は今日死ぬ。お前が男だったら今頃微塵だ、セリア。」
「ちょちょちょちょ、え、えーーーー!!??いやもう僕ら帰りますから、ね、せりたんももうネムネムだもんねー?俺もめっちゃ眠いわ、帰ろ帰ろー!お邪魔しました!」
「駄目だ、それは俺が許さない」
「おいセリア、お前が怒らせたんだからな!お前がちゃんと謝んねーと!っていねええええええええええ!!!!!!」
(終わった…やっぱ俺、騙されてたんか。なんで騙されてたんかも分からんけどさ。
てか、今日、俺死ぬのか。
なんか不思議と冷静だな。そうだよな、俺はずっと、生きてる真似事をして生きてきただけだ、実際は死んでたも同然。
名誉な事じゃねえか、異世界に行けて、強いひとに殺されるんだろ?なんか、漫画とかでありそうな名誉な死?ってやつ?出来んじゃん。
俺、最後は…)
「駄目だ…俺は、まだ死ねん。俺はまだ、ここにいたい。この世界でもう一度、やり直したいんだ…クソみたいな人生を、ここで…!」
「だったら何だ」
「最初で最後の決闘だ、ゼファー。ワンチャンお前が負けたら俺の部下になれよな!」
(駄目だ震えちまう、怖い。)
「ギルドの地下なら上級魔法を使ってもバレない、着いてこい。せいぜい苦しまないように一瞬で終わらせてやる。」
2人はギルドの隠し扉から現れた長い階段を降りていった。
そこには血の痕跡が床に散らばる10畳ほどの正方形の部屋があった。
ゼファーは愛用の大剣を左手に持ち、右手を遊ばせている。いつ切られるか分からない。
戦いはもう、始まっていた。
「丸腰か、威勢がいいのかバカなのか。勝負を諦めてる奴を切るのは気が引けるが…お前の運命を呪え」
ゼファーは全身から殺気を放っていて、一瞬の隙も見せていない。強く握りしめた大剣はピクリとも動いていない。
慎太郎が地下室で初めて口を開いた。それまで慎太郎は立ちつくしていただけだった。
「丸腰じゃない、ここに鉄パイプが落ちてる。」
(やっべえ啖呵切っちまってるよ…けど、ビビって死ぬよりかは…!)
慎太郎は落ちている錆び付いた鉄パイプを手に取ると気を集中し始めた。慎太郎の周りに白紫のオーラがモワモワと蠢いている。
「へえ、オーラ出せるくらいには力あんだな。1週間で頑張ったもんだ、褒めてやる。」
ゼファーは依然として余裕綽々で殺気を放っている。
「はっ、馬鹿の一つ覚えだけどな。1発くらいカマしてやるよ。」
(ほんとに死ぬなこれ…てかこの魔法適当にセリアのラボで見つけた本に載ってたやつだし、もしかしたら光るだけで全く戦闘で役に立たねえとか?ヤケクソだな。クソ……)
「お前から攻撃するまで俺は手を出ししない。来る時は親に感謝でもして向かってこい。」
ゼファーは一切型を変えていない。
ゼファーの殺気は益々増していっていた。慎太郎は詠唱の為の準備をしている。
鍛錬を積めばつむほどに、早く詠唱する準備を完了させたり、中にはごく稀に無詠唱で上級魔法を扱う者もいる。
しかし今の慎太郎には最低でも、3分必要だった。
(集中しろ。セリアに教わった、気を一点に集め、基礎魔力をそこに上乗せするイメージ。)
「〝聖なる光よ、闇を照らし、我を導け〟」
突如慎太郎が両手に握りしめた鉄パイプが物凄い光で発光し始め、それはやがて形さえも桜白色に光る日本刀の形に変わった。
(前やった時と違う、なんでこんなに魔力が増幅されてるんだ?)
今まで1ミリも動かなかったゼファーが大剣を揺らして、口を開いた。
「貴様、なぜその魔法を使える…!」
ゼファーの額から汗が2滴、ツーっと頬を通過した。
「なんでって、これしか知らないし、これしか練習してないから。」
「そうか。楽しくなってきたな、精々1分持ってくれよ。」
(なんのことだ?さっぱり分からん。)
「ホントに斬りかかっていいんだよな、痛いかもだぞ〜俺の攻撃!」
慎太郎はまだ刀を持つ手が微小に震えており、顔も強ばって固まったままだが、間合いをジリジリと縮めた。
そして。
「どりゃあああ!!!!!」
気の抜けてるような抜けてないような、とにかく情けなくも叫びながら慎太郎はゼファーに刀身を振るった。
ゼファーは慎太郎からの攻撃を大剣で防いだ。物凄い轟音が鳴り響いた。
ゼファーはそれをかるがるしく跳ね除け、慎太郎を元いた場所まで吹き飛ばした。
(ぐっ…だめだ、やっぱりレベルが違いすぎる。これがSランク。到底及ぶ気がしない。
死ぬのか俺。こんなのありかよ!異世界転生だぜ?ファンタジーだぜ?
こんな数日間で意味のわからん大男に斬り殺されて死ぬ。なんだそりゃ、まだエルフとかケモ耳とか見てねえのに…)
「言い残す言葉はないか。」
ゼファーがそう言うと慎太郎は即答した。
「その言葉、お前にそのまま返すぜ。」
(このまま奴に切られたら、次で死ぬ。気をもっと集中させろ。最後まで、かっこよく死んでやるんだ、せめて傷1つでもつけてやらあ!)
2人が同時に互いの方向に向かって剣先を向け、一斉にぶつかり合った。
2人の剣は大きく音をあげ、それがなん連撃も続く。ゼファーは消して力を抜いているつもりはなかった。
ゼファーは内心動揺していた。
(この男、魔力の放出量が尋常ではない。こいつが使っている魔法は、間違いない。『夜光流派』の特級魔法。しかもかなりの精度で使いこなせている。何もんだこいつ。)
しばらく剣を振りあったふたりだが、ゼファーが1度後ろに退き、真面目な趣で慎太郎にを見つめた。
「決着をつける必要は無い。終わりにしよう。答えなら、話してやる。」
続く。