寮のセンサー
今年就職した私は、社員寮に入ることになった。これがまた古い建物で、廊下が人感センサーなのが無駄に思えて腹が立ち、早く抜け出したい気持ちに駆られる。けど、家賃や水道光熱費が無料なのはありがたい。お金が貯まるまでは頑張ろうと思っていたが……
「あれ」
入寮初日。夕食を食べ、明日から新入社員研修が始まるので早めに解散し、部屋に戻る。そこで部屋の扉に鍵がかからないことに気付く。別に盗まれて困るものがあるわけではないが、まだ同期の連中ともそれほど打ち解けてないので、正直落ち着かない。明日にでも直してもらう事にしよう。
「寝るか」
今日の所はもう寝よう。電気を消し、ベッドで横になる。部屋の位置的に、横になると正面に部屋の出口が目に入る。もちろん扉は閉まっている。やはり鍵がかかっていないのが少し気になるが、やがてウトウトとし始め……
「はっ!?」
気が付くと、体が動かない。金縛りだろうか。出口の方を向いて固まっている。動けず、ただただじっとしていると……部屋の扉が、ゆっくりと開いた。扉の向こうは暗闇で、誰もいない。しかし、突然パッと廊下のライトが点く。そして、誰かが隙間からこちらを見ていた。廊下の明かりを背にしているので顔は暗くて見えない。けど、扉が勝手に開くようなことはあり得ない。つまり、誰かが開けたはずだ。けど、誰が?
「………」
やがて隙間から覗いていた人は消え、廊下の明かりも消える。同時に体も動くようになり、真っ先に半開きの扉を開いて廊下を見渡す。
「誰もいない……」
翌朝。同僚に聞いたが、誰も扉を開けていないと言う。しかし、誰かが覗いていたのは事実だ。寮の管理人に聞いたところ、防犯カメラがあるというので、確認させてもらった。すると……
「……え」
突然私の部屋の扉が開き、廊下の電気が点き、消える。そこには、誰もいなかった。
「自分で開けたんじゃないの?」
そういう管理人だったが、私は動揺して反応できずにいた。おかしいのだ。まず、順番だ。誰かが開けたのなら、廊下の電気が点いて、扉が開く。だが、逆だ。扉が開き、廊下の電気が点いた。これはつまり……私の部屋から、誰かが出て行ったという事になる。
「へ、部屋を変えてもらえませんか!?」
私があまりにも必死だったことと、鍵がかからないことはやはりまずいからか、開いている部屋に移動させてもらうことになり……以降、扉が勝手に開くことは無くなった。あの日こちらを見ていたのは誰だったのか。二度と思い出したくはない。
完