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アードラー 1

 黒の機体、『ティーガー』が発進口に着く。と黒のパイロットスーツを着たシュティルが素早く足から機体へ乗り込んだ。一瞬だったがクララの目にはパイロットスーツの胸元に太陽の刺繍が銀の糸でされているのが見えた。


 数秒後シュティルが操縦席に座ったのか、ビービーと警報音が鳴りシュティルの声が辺りに響き渡る。


「ドイシェアイマンダー、ドイシェアイマンダー。アラートハンガー天井の開放を頼む」

「了解」


 クンペルが返事をすると、ゴゴゴゴゴゴゴとクララのいる真上の天井がスライドしていく。

 そして爆発音に似た音を連続で響かせながら、シュティルの乗った黒い機体は空に舞い上がる。ティーガーが離れたところで、天井はまた轟音を響かせながら閉じた。


「お二人はこちらへ」


 クララがポカンと天井を見ているとクンペルが話しかけてきた。


「あ、あの。ここって」

「ここはアラートハンガー。緊急時にすぐに戦闘機を発進させられるようになっている格納庫です。さ、疑問は後にしてこちらへ」


 クンペルは少し離れたところにある木で出来た扉へ駆け足をする。クララはいまいち状況が掴めていないながらもトイアーの手を引いてクンペルに着いていこうとする。だが……。


「やだぁぁぁぁぁ!!!」

「!!!」


 トイアーが急に泣き叫び、クララの手を振りほどいた。


「ど、どうしたの」

「おかーしゃんっ!!! おかーしゃんはどこぉ~!!!」

「っ」


 先程まで笑っていたものの、トイアーはさすがに様子がおかしいと思ったのかギャン泣きしている。


「ちょ、ちょっと。落ち着いて。トイアーちゃん」

「おかぁ~しゃん」


 トイアーはジタバタと手足を動かしたかと思うと、クララに背を向け走り出してしまう。クララが「待って」と声をかける前にトイアーは地下通路へと駆けて行ってしまう。


「え……ちょっと!」


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。追いかけるべき、なのかな。


 クララが躊躇しているとクンペルが「クララさんは一旦避難しましょう」と声をかける。


 でも……。


 クララはクンペルとトイアーを交互に見る。そしてクンペルに背を向けた。


「クララさんっ!」


 クンペルのクララを呼ぶ声がやけに大きく耳に届く。


 でも。このまま放ってもおけない!


 クララは強く地面を蹴る。トイアーのかなり小さくなってしまった背中を追いかける。トイアーは来た道を真っすぐ駆けていた。

 しばらくするとトイアーは地上へかかっている梯子を上り始めていた。


 ここ、多分、私達が地下通路に入る前に飛び降りた場所だ。


「ちょ、ちょっと待って。ねぇ!!!」


 クララはトイアーに必死に呼びかけるが、トイアーは上へ進むのを止めない。


「もうっ!」


 クララもトイアーを追って梯子に足をかける。だがトイアーは既に頂点まで達し、地上へと戻る蓋を両手でグッと押している。さすがに重いのかなかなか開かないようだ。


 今だ。今のうちに距離を縮めて……。


 クララは一歩一歩梯子を上っていく。その間にトイアーは少しずつ少しずつ蓋をずらしていっている。どうやら蓋を開けるよりずらした方が早いと気付いたらしい。

 クララは速度を上げる。

 だが……。

 ガラガラと高い音を立てて、地上の光が広がっていく。


 マズい!


 と思った時には遅かった。ほんのわずかな隙間からトイアーは身をよじって地上に出てしまった。


「あぁ!!!」


 クララはガンガンと音を立てながら今まで以上に必死に上る。上る。頭の中は血、血、血――。

 瓦礫の下敷きになったトイアーの母親を思い出す。


 連れ戻さなくちゃ。なんとしてでもっ。


 クララはわずかな隙間に手を突っ込んで蓋を半分までずらした。そこから一気に地上に這い出した。

 トイアーは砂埃の中を淀みなく真っすぐ進んでいってしまう。


「待って」


 クララはトイアーを追いかけようと一歩踏み出した。その瞬間、凄まじい爆音が響きクララの長い髪が舞い上がる。

 空には白のヴルムとフルーク国の銀のヴルムが火花を散らしながら銃撃戦をしている。だが戦いは決着が着かず、敵に当たらなかった砲撃が地上で逃げ惑う人々を吹き飛ばしていった。


「っ」


 爆風の連続でクララは足をなかなか踏み出すことが出来ない。それなのにトイアーは前へ前へ進んでいってしまう。


 無理だ。このままじゃ……。このままじゃ……。トイアーちゃんを連れ戻せないっ。


「クララさん!」


 いつの間にかクンペルが追いかけてきていたらしい。クンペルは地下通路から声をかけてきた。


「一度戻りましょう! あなたまでこの状況で外に出てしまったら!」

「っ」


 クララはグッと拳を握る。頭の中にはまだ真っ赤な血がこびりついていた。


 そうは言われてもここでトイアーちゃんを逃したら二度と見つからないかもしれない。けれどこのまま進んでしまったら今度は私が戻れなくなってしまうかもしれない。

 そのどちらもごめんだ。


 ――覚悟を決めろ――


 クララは唇を噛んで梯子を三歩下りて蓋を閉じた。そこから一気に下に降りる。


「クララさん、良かった。戻ってきてくれて」

「クンペルさん。急いで戻りましょう」

「え……。ああ、はい」

「それから空いている機体を貸してください」

「あ、はい。……って、ええ!?」


 クンペルが戸惑っている中、クララは駆け足でアラートハンガーへ戻る。その後ろをクンペルがすぐに着いてきた。


「ちょっと待って下さい。空いている機体なんてないですよ。そもそもあったら俺が乗っています」

「!」


 そりゃそうだ。


 クララはゆっくりと歩みを止めてクンペルの方へ振り返る。


 それでも。このまま何もせずただ子供を見殺しにするのは――嫌だ。


「何かっ、何かないんですか。何でもいいんです。調整中でも。本当に何でも」

「――――」


 透明電線が傷つけられたのか、チカチカとCCFL蛍光灯が点滅する。

 クンペルの口だけが上手く見えない。息づかいだけが聞こえる。


「あるにはありますが。速すぎて誰も乗りこなせない機体です」

「それってもしかして。黄色の……」

「『アードラー』です。というかよく知っていますね」


 ! やっぱり……。


 クララは震える右手を左手で抑えながら、一人頷いた。


「『アードラー』に乗ります。それは――私の機体です」


おそらくこの先書くことないので。地下通路の簡単な説明を。


地下通路はクララがフルーク国に来るおよそ百年前に建設された比較的に新しいものである。入り口は七つ。そのうち三つは同じ地下にある基地から通路へ繋がっている。他四つは街中の地面に紛れ、有事の際には通路から基地やアラートハンガーに直結するようになっている。

通路には防音、耐震加工の他にCCFL蛍光管が均等に設置され非常に明るい。通路の横幅は500mmと狭く作られ、これは万が一敵国が通路内に侵入した際に取り囲まれないようにするためとそれと併用してすぐに侵入者の位置を特定できるようにする為である。

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