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これはデートですか 1

 何でこんなことになっているんだろう、とクララはシュティルの背中を追う。クララはシュティルに誘われて城下町にやってきていた。


 車に乗っていた時も思っていたが街並みがレーゲン国と全く違う。


 レーゲン国は鉄製の高いビルがあちこちに建っていたが、フルーク国はレンガ造りで建物と建物の間がかなり空いている。

 天候もレーゲン国より暑い。そのせいかレーゲン国の服が重厚につくられているのに対し、フルーク国の人々の服装は半袖半ズボンの軽く通気性の良いものを着ている。


 ちなみに今のクララはレーゲン国の服、しかもドレスを着ていた。だからか周りの人からかなり見られている。


「おっ、着いたぞ」


 シュティルがとある店の前で止まる。レンガの色が一つだけ白になっており「服屋 アプフェル」と刻まれていた。店の窓にはフルーク国の通気性のいい服が映っている。


「そのレーゲン国の服だと暑いだろう。周りから奇怪な目で見られているようだしな」


 そう言ってシュティルは店のドアを開けて、クララを中に招き入れる。


「あら、大佐様がこんなところに来るなんて珍しいわね」

「こちらの令嬢に服を見繕ってほしくてな」


 クララと同い年くらいの店員にジッと見られ、クララは軽く頭を下げる。すると店員はニコリと営業スマイルを浮かべる。


「珍しいお洋服ですね」

「え、ええ。この国に来たのははじめてで」


 クララがそう答えると明らかに店員の顔が鬼のように険しくなる。


「っ!!!」


 思わずクララはギュッとドレスを握り、一歩下がってしまう。それを見ていたシュティルが「大丈夫ですよ」と店員に声をかける。


「この令嬢は我が国のお客さんでこれから軍隊に入隊予定なんだ」

「いえ! 入隊しませんって!」


 そう強く否定しているにも関わらず、店員は「この国の人間になるってわけですね。それじゃあその服は暑いですよね」と再び営業スマイルを浮かべた。


 この国の人間は皆、人の話を聞かないのか……。


 そうしている間にも店員とシュティルは二人で勝手にクララの洋服を決めている。


「今の流行りはこちらなんですが、軍隊に入られるということですし。スタイルもいいのでこちらの方がいいかと」

「ほう。なるほどな」


 もう好きにしてくれ……。


 クララがため息を吐いていると「試着しましょう」と店員が強引に店の裏側へ引っ張っていく。裏にはちょっとした個室が二つあった。個室の中には椅子がポツンと置いてあり、全身が見える姿見が前、右、左と三つ置いてある。


「それじゃあ着替え終わったら声かけてくださいね」

「え!?」


 その言葉と共に店員が個室から出ようとするのを見て、思わずクララは素っ頓狂な声をあげる。


「ど、どうかされましたか?」

「着替えを手伝ってはいただけないんですか」


 レーゲン国というよりもクララの住んでいたフリューリング家では使用人がクララの服を着せていた。そのためクララは一人で着替えをしたことがなかった。


 この国では使用人はいないし。これから一人で着替えていかないといけないんだ……。


 店員は頭の上からつま先までクララを眺め、一人「ああ!」と納得する。


「別の国から来たんですものね。それは着かたが分かりませんよね。すみません。えーとこのドレスは背中のチャックを下ろせばいいのかしら」

「たぶん」


 店員はどうやらはじめての服に戸惑っていると解釈したらしい。クララは特に訂正せずそのまま店員に身を任せる。


 店員はクララに薄い黄色の半袖シャツと黒の半ズボンを渡した。


「例外もありますけれど、この国では服に上半身の服と下半身の服があるんですよ。この国の服は難しいことは特にないので。本当に着るだけですよ」


 クララは店員に支えられながら服を着ていく。

 フルーク国の洋服は穴に手や足を入れるだけの簡単なものだった。


 良かった。これなら一人で着られそう。


 クララはホッと息を吐いた。店員に「お似合いですよ」と言われながら個室を出る。とシュティルと目が合った。


「だいぶ印象が変わるな。その服もよく似合っている」


 そう言ってシュティルは店員から紙袋を受け取った。紙袋にはレーゲン国出来ていたドレスと、今着ている服の色違いが数着入っている。

 シュティルは軍服の胸ポケットから小さな財布を取り出し、カードを店員に出した。


「これで」


 どうやらお会計をしてくれるようだ。


「すみません。出してもらってしまって」

「いや、気にしなくていい。それに君は俺の大切な部下だからな」

「…………」


 いや、もう突っ込まないぞ。それにお会計してもらっているのは本当にありがたいことだし。


 店員はシュティルからカードを預かり、首からかけている鉄の板にタッチしてカードを返す。


 シュティルは店員からカードを受け取ると「さて。行くか」とクララに向き合う。

 クララは恐る恐るシュティルを見る。


「ど、どこにですか」


 前言っていたみたいに基地に連れて行かれるとか。


 クララが警戒しているとシュティルはフッとどこか楽しそうに笑う。


「とりあえず前に言った店にでも行くか。腹減っただろう」


 そう言ってシュティルは服屋を意気揚々と出て行った。


今回はフルーク国とレーゲン国の比較がメインだったので。軽くお互いの国がどんなところなのか解説です。


レーゲン国は寒くて雨が多い国という設定です。カラッと晴れることはほぼないです。なので冒頭クララが車に乗って国を出るときに快晴なのは奇跡というか。本当に皮肉……。

対するフルーク国は年中暑くて基本晴れています。ただ雨が全く降らないわけではなく、海に近いので降ったと思ったら強風を伴う嵐のような雨が降って来るという感じですね。



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