育成 1
クララは息込んでいた。そのためか、無意識のうちに通路を進む足が早足になる。
やっとヴルム演習の日だ。部下三人がはたしてどういう戦略をとってくるのか……。
楽しみで仕方がない。
クララは集団エレベーターに一人で乗り込んで、ヴルム演習場に着く。すると「クララ兵長」とフランチィスカが涙目でこちらに歩いてきた。
この子、軍人としてやっていけるかしら……。
フランチィスカの涙目に自身の母性を感じつつ、クララは「どうしたの?」と表情を引き締める。
「それが……」
フランチィスカの視線の先には、四人の屈強な男性達がヴルムの周りを取り囲んでいるのが見えた。
クララは眉をしかめながら、男性の元へ歩いていく。
なんだか嫌な予感がする。
「すみません。これからヴルム演習に入りますので、危ないですから。退いていただけますか」
なるべく丁寧に伝えたつもりだった。だが四人のうちのとりわけ頑丈な男性がクララと対峙する。
男性は第四部隊の兵長だ。
名前は確か……。そう。ハイト。ハイト兵長だ。
そう考えていたところに「それは出来ないな」と下卑た笑みを浮かべられた。
クララはさらに眉をしかめながら「何故でしょう」と返す。
「なんでも第九部隊は優秀だとか。一日くらい演習時間をもらってもいいでしょう」
「っ」
なんて身勝手な……。
クララはギュッと拳をつくる。
風が砂埃を伴って吹いた。
「退いて下さい」
毅然と振る舞う。だが、ハイトは「ガハハハハハ」と声高らかに笑う。
「第九部隊の兵長、クララ兵長。あなたに言われたくありませんな。そもそも他国から来たあなたを優秀な隊の兵長に据えるなど。上も一体何を考えているのか」
「ちょっと」
いつの間に近くに来ていたのか。フランチィスカがすぐ後ろにいた。メッサー、アームングも一緒である。
フランチィスカが一歩前に出ようとする。だが、クララはそれを手で制した。
部隊が違うとはいえ、ここで部下が上司といざこざを起こすのは良くない。嫌がらせを受けても、上司の方が立場は上だ。部下は強くは出られない……。
なんとか矛先をこっちに向ける方向にいかないと。いや、そもそもそれ以前に――。
クララはハイトの瞳をジッと見る。その瞳に微かに恐れがある。
ああ、そうか。
クララは微かに口元に笑みを浮かべた。
「なるほど。つまりあなた方は出遅れているわけですね」
「はぁ!?」
「違うのですか。私達の演習時間をもらわなければならないほど、切羽詰まっているのだと思いまして」
本当は違う。おそらく、第四部隊はそこまで遅れてはいない。けれどこの部隊編成は他部隊がどうなっているか見えづらいから。自分の部隊が進んでいるか遅れているのか分からない。だから焦る。
クララはハイトの焦った気持ちを利用したのだ。
ハイトは顔を真っ赤にする。かと思えば、急に踵を返した。そして「行くぞ」と部下を率いて去っていく。
去り際に部下の一人が頭を下げていった。
「…………」
部下の中にも、きちんとした礼儀がある人がいるらしい。……部下は部下で大変なんだろうな。
クララはフッと強く息を吐き出す。
さぁ、次は私の番だ――――。
「予定より遅くなりましたが。ヴルム演習を始めましょう」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
薄っすらとこの先の方向性が見えてきました。次回はドキドキの戦闘シーンです。部下がどんな戦略を仕掛けてくるのか、私も楽しみです。




