整備 3
クララがアードラーから降りる。ランツェは既に機体から降りている。
残念だけど部下にはいいところを見せられなかった。だけれど。とてもいい経験が出来た。
クララは小走りでランツェ伍長に近づく。
「ランツェ伍長!」
「クララさん。先程は」
「申し訳ありませんでした!」
ランツェの言葉を遮り、クララは深く頭を下げた。
「思わず頭に血が上ってしまい、失礼なことを……」
「いえ。こちらこそ何の説明もなく。クララさんが怒るのも当然のことで」
「いえ。それはランツェ伍長が私の為を思って」
「いえ。私が悪くて」
「いえ。私の方が」
「私が」
二人でペコペコと頭を下げていると、ゴホンとシャルがわざとらしく咳払い。
「それでどうだったのかしら。新しい機体は」
「それは……」
クララが答える前に「前の方がいいでしょうね」とランツェが答えた。
「クララさんがアードラーに乗っているところを遠目で見たことがありますが。こんなに反応は遅くなかったはずです」
そう言ってランツェはクララを見る。その視線にクララは「やっぱり」と思う。
ランツェ伍長はわざとああいう態度に出たんだ。戦場では相手がこちらを待ってくれるなんてことはない。唐突に攻撃を受ける。だから盾が重くなったアードラーが咄嗟の場合でも動けるか試してくれた。
クララもシャルに頷く。
「私も同じ考えです。操縦桿を動かしてからアードラーが動くまで約一秒の間が空いています。私がまだ慣れていないのも悪いのですが。客観的に見ても、この一秒は速さが持ち味のアードラーにとって欠点になるかと」
「…………」
シャルは手に顎を乗せたまま俯いてしまう。
もしかして。怒らせてしまった?
クララはヒヤヒヤとしながらシャルの様子を伺う。するとシャルは突然ハッとして顔を上げ、キラキラとした瞳をこちらに向けてきた。シャルはクララの手を優しく包み込む。
「!?」
「そうよねっ! これで完成なんて甘い。まだまだ改良が必要だわ」
「えっと」
「やっぱり軽さ重視にするべきね。でも、今の指摘だと欠点が重さとは限らない気もするわ。操縦桿から機体にかけての繋ぎの部分が上手くいっていないのかもしれないわ。そもそもどうして上手くいかなくなったのかしら。ああ、やっぱりもう一度アードラーを整備して……ブツブツブツブツ」
「えーっと」
シャルは再び顎に手を乗せ、クララに背を向けアードラーの方へ向かって行ってしまう。その様子を見てクンペルが「気にするな」と声をかけてきた。
「昔からああなると手をつけられなくなるんだ」
「は、はぁ」
クララは曖昧に返事をする。
クララはシャルの後ろ姿を見送るクンペルを見て「あの」と声をかける。
「昔から、ということは。シャル整備曹長とはかなり長い付き合いなのですか」
「ああ。かなりな。シャル整備曹長とは幼い頃からの付き合いなんだ」
「え!」
思わず声を上げてしまうものの、妙に納得した。
シャル整備曹長のことをよく知っていたし、二人ともかなり親しい雰囲気だったし。
「家が近所で、子どもの頃はよく遊んでいたな。シャル整備曹長が婚約破棄されてからは、二人とも軍に入ることになって。……まぁ、幼馴染の腐れ縁だ」
幼馴染の腐れ縁――。
その言葉にクララはハッと後ろを振り向いた。
幼馴染といえば、メッサ―とフランツィスカの二人だ。そしてクララは第九部隊のことを長らく放置してしまっている。
クンペルはクララが焦り始めたのを見て「実習はこのあたりでいいよな。解散しよう」と声をかけてくれた。クララはクンペルとランツェに頭を下げる。
「すみません。ありがとうございます。お言葉に甘えてこの場は失礼します」
クララは足早で第九部隊の元へ向かう。
私はいいところを見せられなかったけれど。ランツェ伍長の立ち回りはとても素晴らしい物だった。三人にとってもいい経験になったはず。
クララは三人の前に立つ。
「今日はここまでにしましょう。お休みなのに呼び出してしまってすみませんでした。では、解散」
手早く解散を命じると、三人共生真面目に「「「はっ」」」と答えた。
いつも応援していただき、ありがとうございます。
次回からは心理戦というか、心理描写というか。そっちのほうがメインになっていきます。
ちなみに。シャル整備曹長とクンぺル曹長は幼馴染ではありますが。恋愛関係ではないです。本当に腐れ縁でこうなっているわけですが、周囲からはバリバリ恋愛関係と思われています。




