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お断りします

「え、嫌ですけど」


 クララは冷徹に返す。


 助けてもらったことには素直に感謝している。けれどヴルムを操縦してまでも恩返しするほどか、と言われるとそうは思わない。


 クララはゴクリと唾を飲みこんで真っすぐに前を見る。


「ちなみになんですけど。断ったら投獄とか処刑されるとか、ですか」

「いや。そこまではしないよ」とグランツ。


「今のフルーク国にはレーゲン国を相手にする余裕はないからな」

「そう、ですか」


 国を追い出されたから今の私はレーゲン国とは無関係なんだけど。とは思ったものの、ひとまずクララはホッと息を吐き出す。


「それにしても」とグランツはシュティルに目を向ける。


「見事に振られてしまったな」

「いえ、そうでもないですよ。まだ分かりませんから」


 そう言ってシュティルは不気味な微笑みを浮かべる。


「っ」


 なんだか嫌な予感がする。


 クララはゲッと眉だけを寄せた。シュティルはというと胸ポケットから小型の冊子を取り出す。


「これを読んでおいてくれ」

「?」


 冊子を渡されクララは首を傾げながら中を開く。と、中にはヴルムの簡単な操縦方法とヴルムの種類が載っている。

 ヴルムの種類の項にはシュティルの乗っていた黒のヴルムもあり、「V(ファオ)-T(テー)11(エルフ) ティーガー」と記載されていた。他のヴルムに比べて重量がかなり重い。


 クララがペラペラと冊子をめくっていると「ここを見てくれ」とシュティルがヴルムの中のとある一機を指差す。指差したのはヴルムにはあり得ないド派手な黄色の機体だった。


「「V(ファオ)-A(アー)3(ドライ) アードラー」君の機体だ」

「…………は?」


 君の機体!?


 突然の発言にクララは身を乗り出した。


「私、お断りしましたよね!?」

「今の君はそうだが、先のことは分からないだろう」

「いやいや。乗りませんって」


 そうクララが拒否しているにも関わらず、シュティルは話し続ける。


「「アードラー」は最速の機体としてつくられている。だがそれゆえに弊害があってな。誰も乗りこなせないんだ。速すぎて敵機を撃墜するに至らない。それどころか障害物を避けきれず自滅することもあった」

「……」

「そんな時、君が現れた。ただの空陸用自動車でヴルムの砲撃をかわす君に」


 つまりは私の動体視力だったらその最速の機体を乗りこなせるはずだ、と言いたいらしい。


 クララは眉をしかめる。


 そう言われても無理なものは無理だ。准将の父にある程度は鍛えられているが、ヴルムに乗ったことないし。ヴルムの操縦方法なんて教えられなかったし。そんな全く部外者で別の国から来た人間が軍隊に入っても、他の人たちは良い顔をしないだろう。


 シュティルは「まぁ、今すぐとは言わない。ただ考えていてほしいだけだ」とやっと立ち上がる。

 続いてグランツも「もちろん強要するつもりはないからね」と言葉をかける。


「話を聞く限り、クララ嬢はついこの前まで王妃候補だったわけだろう。突然そんなこと言われても困るだろうしね」

「……すみません」


 グランツは苦い顔したクララに優しく微笑みかける。


「それはそれとしてクララ嬢。怪我が治ったら一緒に城下町にデートしに行かないか」

「へ?」

「実は婚約者を探していてな。クララ嬢なら相手として不足ないだろう」

「え、え!?」


 勝手に話が進んでいく!?


 クララがポカンとしていると「フルーク王、クララをからかうのもほどほどに」とシュティルが二人の間に割り込む。


「別にからかってはいないさ。シュティル大佐もクララ嬢なら王妃として申し分ないと思うだろう?」

「それはクララがフルーク国の出身だったら大賛成しますよ。ですがクララは他国の者です。ただでさえクララを隊に引き入れるのに難航しそうなのに、いきなり王妃だなんて民衆が黙っていませんよ」

「いや、ですから私は軍隊に入りませんって」


 そう呟いたクララの言葉はシュティルの「それにデートしている余裕なんてないでしょう」という声にかき消される。


「本来ならここにいる時間も惜しいのですから。奴らの対応に追われて」


 奴らって――。砲撃を仕掛けてきた白のヴルムのこと、だよね。


「おっと。それもそうだったな。やることが山積みだったんだ」


 グランツは盛大にため息を吐いてから、クララに苦笑いをこぼす。


「それじゃあまた」


 そう言ってからグランツは手をヒラヒラと振って部屋から出ていった。部屋にはクララとシュティルだけが残される。


 なんだか気まずい。


 クララが少しシュティルから視線を外すと「安心しろ」と声が聞こえてくる。


「え?」

「今すぐ君を軍隊に入れようという気はない。せめて君の怪我が治るまで待つつもりだ」

「だから! 私は入るつもりはありませんって」


 この人、話聞かないな。


「それはそれとして怪我が治ったら城下町を見に行くか」

「ええ!?」


 グランツと同じことを言われる。


 人生最大のモテ期ってわけでもないだろうし……。


 クララは思わず眉をひそめた。シュティルはそんなクララの様子に気付いていないのか、「フルーク国とレーゲン国じゃ、景色も違うだろうしな」と話し続ける。


「それにいい店を知っている」

「はぁ」

「基地内も一度見ておくべきだろうしな」

「だから私は……。もう、このやり取り疲れましたよ」


 クララは盛大にため息を吐いた。


今日はヴルムの外観についてです。


『新たな家を探して』でも書きましたが見た目はまんまドラゴン、という感じです。ただ結構太いというかずんぐりむっくりしています。大量のミサイルを搭載しているのでどうしてもそうならざるを得なかった、という設定。

イメージはメカゴジラに近いかも…。

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