指導 1
「今日はヴルムの動きを見ます」
クララの目の前には古びた銀のヴルムが三機、そして派手な黄色の機体が一機。もちろん黄色の機体はクララの乗っているアードラーだ。
「あの」
アームングが手を上げる。
「クララ兵長はアードラーに乗るんですか」
「はい」
クララが頷くとアームングはわずかに眉を潜める。アームングには何故アードラーが用意されているのかが分からなかった。
クララはアームングに微笑みかける。
「お恥ずかしながら私は速度調整が苦手で。これは私自身の訓練も兼ねていて……」
アームングは「はぁ」と曖昧な返事をする。
クララは呆れられちゃったかな、と心の中で呟く。
でも。もちろん、それ以外にも理由はあるのだけれど。
クララは「さて」と一つ手を叩く。
「それでは今日やってもらうのは3対1のカラーボール演習です」
カラーボールという言葉でクララは一瞬エーレントのことを思い出す。
またここから始めよう。新しい関係を――。
「皆さんで協力して、私にカラーボールを当てて下さい。当てる場所はどこでも可。あとはこの隊に配属される前にやっている条件と一緒。ヴルムの動ける範囲は二万平米まで。飛翔高さは四百メートル。以上。……それじゃ、各自機体に乗って。私が合図したら開始です」
クララが先にアードラーに乗り込むと、三人はキビキビとヴルムの中に入っていく。アードラーに乗り込むとさっそくクララの前に操縦席が現れる。
実はクララはエーレントが亡くなってからはじめてアードラーに乗る。普通のヴルムには何度か乗って、体を慣らしてきてはいたが。
「……」
アードラーの操縦席を見ても特に取り乱したりしていないし。大丈夫そうだ。
クララは自身を客観的に見ながら操縦席に座った。ビビッと高い音が鳴り、椅子は暗闇の中、ゆっくりと上昇していく。
今回、部下三人の指導にアードラーを持ち出したのはいくつか理由がある。その理由の一つにクララ自身のためというのがあった。苦手な速度調整を克服するため。そしてアードラーに乗って周りが敵に囲まれても、以前と同じように冷静でいられるかどうか。
椅子が上昇を止め、ヘッドフォンが下りてくる。クララはヘッドフォンをつけて十秒ほど待ってから「準備はいいですか?」と問いかけると三人から「「「はっ」」」と返ってくる。
クララは深く深呼吸してから操縦桿を握る。
特に手は震えていない。呼吸の乱れも無い。よし。
クララは思いきり息を吸う。
「それでは始め!」
合図を出したものの誰も動こうとしない。もしかしたら作戦会議でもしているのかもしれないと思いつつ、クララは左ボタン板の上矢印を押しながら、操縦桿をゆっくりと下に引く。
アードラーが上昇するのと同時に、カラーボールを発射した。
「わっ!」
ヘッドフォンからフランツィスカの声が聞こえてくる。と同時に、三者三様の仕方でカラーボールから逃げて散らばっていく。カラーボールは誰にも当たっていない。
さすが。三人共一気にヴルムの速度を上げているし。攻撃されてもパニックになっていない。優秀と言われるだけはある。けれど。
クララは一機に狙いを定めて、速度を上げる。速度を上げてヴルムの後ろに回り込む。
「!」
ヘッドフォンから息をのむ音が聞こえてくる。その様子にクララはメッサ―かアームングかのどっちかだろう、と冷静に考える。
フランツィスカだったら、もうちょっと声を上げたりするはず。フランツィスカは分かりやすいし。
クララは苦笑いを浮かべながら、カラーボールを撃った。咄嗟のことだというのにヴルムは盾を取り出し、カラーボールを防ぐ。
さすがだ。でも……。
そこで追随の手を止めたりはしない。クララも盾を取り出す。そして盾を相手のヴルムの盾に押し付けた。ヴルムはバランスを崩して地面に着地する。
そこを後ろからもう一機のヴルムが突っ込んでくる。
一瞬、エーレントが亡くなった時に敵に取り囲まれた事が脳裏に浮かんだ。が。
違う、違う、違う。あの時とは――。
クララは頭を大きく横に振る。目の前に一気に集中する。標準の機体が出せるギリギリの速度で、後ろからきたヴルムを避ける。だが一息つく暇はない。前方からも別のヴルムが迫ってきている。
「っ……」
クララの頭に血が上る。と同時に何故かキーンと頭が冴えて、相手の動きが遅く見えた。後ろからも先程避けたヴルムも迫ってきている。ヴルム二機がクララを挟む。二機のヴルムは一気にアードラーへカラーボールを撃ちこんできた。
甘い!
クララは左ボタン板の下矢印を押しながら操縦桿を上へ押し上げる。一気にアードラーを下に下げた。その瞬間、ガチャンと派手な音が響き渡る。
「キャッ!」
「お、おい! 大丈夫か」
「な、なんとか」
ヘッドフォンからメッサ―とフランツィスカの声が聞こえてくる。
クララが上空を見ると二機のヴルムがぶつかり合っていた。二機ともカラーボールが当たって、銀と赤のまだら模様になっている。
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
やっぱりアクションシーンは書いていて楽しいです。ムフフフフフ




