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助けられました

「ゔ……」


 体の節々が痛む。

 クララはズキズキと背中や腰への痛みを感じながら、うとうとと目を開けた。


「……」


 クララの部屋にあるキラキラとしたシャンデリアがない。質素な木の屋根に電球がついている。


 ここは……。


 クララは身を起こして辺りを見ようとするが。


「いっ!!!」


 体が痛んで再びベッドに体を倒す。顔だけは動くので、なんとか部屋の様子は見られた。

 部屋にはクララが寝ているベッドの他に小さな机と椅子がある。他にも大きな棚があり、瓶に入った液体がいくつも並んでいる。


 私、一体何があったんだっけ。


 クララは部屋を見渡しながら、靄のかかっている頭でなんとか考える。


 たしかヴルムに囲まれて隙をついて逃げようとして――。


「っ!!!」


 撃たれた――。


 思わずビクリと体を震わせる。

 その時、コンコンと控えめにノック音が響く。


「!」

「入るぞ」

「えっ」


 クララが返事を返す前に黒の軍服を身に纏った男性が入ってきた。細身ではあるが、腕や腹筋にしっかりと筋肉がついている。眼光は鋭く、二十歳前後とクララと同年代そうなのにおでこに薄く皺が出来ていた。

 男性は御盆に水と食事を持っている。


「なんだ、起きたのか」

「あ、あの」


 クララが戸惑っている中、男性は小さな机に御盆を乗せて「起きれそうか」と水の入ったコップを持つ。

 クララは困惑しながらも首を振る。すると男性は一度コップを床に置き、クララの背中に手を回してきた。


「っ!!!」


 男性はクララの体をゆっくりと起こす。


「いろいろと聞きたいことはあるだろうが、今はとりあえず腹ごしらえが先だ。三日三晩寝込んでいたからな」

「三日!?」


 そんなに長い間寝込んでいたの!?


 男性は再びコップを持ってクララの口に近づける。


「っ! じ、自分で飲めますから」

「……そうか?」


 男性はクララの手にコップを持たせた。クララは震える手でコップを唇に持っていき、ゆっくりと喉に水を流しこむ。


 冷たい。けど、美味しい。


 ゴクゴクと夢中になって水を飲み干してしまう。


 どうやらクララ自身も気付かないうちに喉が相当乾いていたらしい。

 クララが水を飲み干すと男性は今度は御粥を持ってきてくれる。いい具合に冷えていてお椀を持っても熱くない。


「い、いただきます」


 スプーンを手に取りそっと御粥を口に運ぶ。


「美味しいっ」

「そうか。なら良かった」


 かつおの出汁がよくきいていて、梅が入っているのかほんのりと酸っぱい。食べやすい温かさだからか、つらつらと喉に入っていく。

 クララは黙々と御粥を口に運び続け、ついに完食する。


「ご馳走さまでした」


 ふぅ、と息を吐く。


「さて、食べ終わったところで聞きたいことがいくつかあるんだが」

「っ!」


 やっぱりスパイとして疑われているとか、敵と思われているとか……。


 クララは思わず両腕を抱えた。それを見て男性は「心配しなくていい。とりあえずは状況説明をしておこうか」と話し始めた。


「俺の名前はシュティル・クロイツァー。黒のヴルムを操縦していた、といえば伝わるか?」

「!!!」


 私に信号を送ってくれて、白のヴルムの攻撃から助けてくれたあの機体――。あの黒のヴルムのパイロットがこの人――。


 自身を助けようとしてくれた人物だと知りクララは少し安心する。と同時にシュティルの顔を改めてマジマジと見る。

 あの時も今も、何故自分を助けてくれたのかよく分からなかった。


「君は俺がせっかく助けようとしていたのに一人だけ逃げて」

「ゔ……」

「しかも逃げたくせに撃たれて墜落し、また俺が助けたわけだ。よく分かったか」

「ゔ……。すみません……。助けていただいてありがとうございました」


 クララが深く頭を下げると、シュティルはあからさまに驚いた顔を見せる。


「あのー」

「いや、すまない。君の素性が分からなくてな」

「え?」

「敵だとかそういうことではなくて。君のドレスが豪華だからいいところのお嬢さんなのかと思いきや、車を運転しているし。運転技術も抜群だからドレスを盗んだ貧しい出自の人物かと思いきや、食事や礼の仕草が洗礼されている。不思議な人物だ」


 クララは普通の令嬢は車を運転しないからなーと思いながら、あえて優雅に微笑む。どういう理由か分からないがシュティルは自身を助けてくれたし、きちんと自己紹介すべきだろうと思った。


「私はクララ・フリューリングと申します。レーゲン国の王子の婚約者だったんですが婚約破棄されまして……。その後いろいろあって国を追い出されて、新しい住処を探して車を運転していました」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。レーゲン国の婚約者で、婚約破棄? 国を追い出された?」


 シュティルは眉をしかめながらおでこをトントンと人差し指で軽く叩く。そして「君、いやクララは王女候補だったというわけか」と唸る。


「だがいいとこの令嬢は車の運転などしないだろう」

「それはまぁ、私の趣味が車の運転でして」

「変わった趣味だな。それに趣味にしてはかなりの運転技術だったが。砲撃をかわすなんてパイロットでも難しいぞ」

「私の父が軍の准将だったんです。その父から剣術を習っていたからかちょっと動体視力がいいんです」

「父が准将? それは凄いな」


 シュティルの言葉にクララはキラキラと目を輝かせる。


「そうなんです。父は凄いんです。父はヴルムの操縦も出来るし、体術も剣術も強いんですよ」

「そうか」


 シュティルがふわっと笑みを浮かべた。キツイ見た目が和らいで、ずいぶん子供っぽくなる。


 笑っていた方が爽やかな好青年って感じで、モテそうだな。


 クララが失礼なことを考えていると、トントンとノックが鳴る。


「はい」とクララではなくシュティルが返事を返す。と、紺色の服に渋い赤色のマントを着た男性が入ってきた。男性はシュティルより少し年上のようだ。

 シュティルが男性を認識すると、素早く部屋の隅に移動し姿勢を正し敬礼をする。

 男性はシュティルをチラリと見てから、クララを見る。


「良かった。目が覚めたようだな」


 そう言って男性は人懐こい笑みを浮かべる。男性はたたずまいが綺麗だった。そのたたずまいにクララは不思議とレーゲン国のフルヒト王子を思い出す。


 私、まだ王子に未練があるのかな……。


 クララが厳しい顔をしていると、男性は勘違いをしたのか「すまないな。自己紹介がまだだった」とベッドにいるクララに跪き、優しく手に触れる。


「俺はグランツ・フルーク。このフルーク国の王だ」

「…………へ? オウ?」


 オウって王?


「そう。王様だ」


 そう言ってグランツはニヒルに笑う。


 ! 王様ってことは……。


 クララはハッとしてベッドから立ち上がろうとする。それをグランツが制した。


「君は怪我をしているんだろ。そのままでいい」

「ですが」

「まぁまぁ」


 グランツになだめられ、あまりこの国の王を煩わせてはいけないとクララはベッドの上で大人しくする。


「あの。私はクララ・フリューリングと申します。この度は助けていただいてありがとうございました」


 クララは深く礼をしてから「ところで」と話を切り出す。


「どうして私を助けてくれたんでしょうか」


 クララがずっと気になっていたのはそれだった。普通ならば敵かもしれない人物を助けはしない。もし助けたとしても一国の王がわざわざ顔を見せはしない。

 そんなクララの疑問を察してか、グランツは「助けたのはクロイツァー大佐だけどね」とシュティルにウインクをしてみせる。


「なんでも大佐は君の運転技術に感心したそうだよ。このまま死なせるのは惜しいって。もちろん君が敵かもしれないというのはあったけど。大佐は体術も強いし、何かあっても大丈夫だろうと思ったんだが……。運転していたのが上等のドレスを着たお嬢様だって聞いてな。俺も一目見たくなったんだよ」


 一国の王様の耳に入るような存在じゃないんだけどな、と思いながらクララは苦笑いをこぼした。クララはシュティルと同じ説明をグランツにもする。


「なるほど。本当にいいとこのお嬢様だったとは。これは当初の計画通りにはいかなさそうだぞ、クロイツァー大佐」

「当初の計画?」


 なんだか嫌な予感がする。


 クララが恐る恐るシュティルを見ると「そうでもないですよ、王」と意味深な笑みを返される。

 シュティルはクララのベッドに片膝をついた。


「な、何ですか!?」


 突然の行動にクララはベッドの上で後ずさる。シュティルはそんなクララの手を取った。


「クララは軍に興味はないか」

「へ?」

「君にヴルムの操縦をしてほしい」


文字数が多くなってしまいました。

今回は特に語る事は無くて。というよりもシュティルもグランツのことも小説内でどういう人物なのか語っていくのでこの先も読んでくださいとしか言うことが出来なくて。


というわけでこの先も読んでください。

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