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残したもの 3

 それから数日してエーレントの葬儀が行われた。といっても少人数での葬儀だ。エーレントの身内はすでに亡くなっていたので、軍の一部の上司と部下しかいない。

 クララはエーレントが亡くなる数日前から一緒にいたこともあって、葬儀に呼ばれていた。


 ロイヒテ少尉にクンペル曹長……。


 見知った顔を見かけてクララはホッと息を吐く。


 フルーク王やシュティル大佐は……さすがにいない。二人とも、自身のやるべきことで手一杯。かなり階級が上の人の葬儀にしか来られないんだろう。


「では、これより火葬に入ります」


 涙声で司会をしている人物が告げる。司会をしているのは、小柄で笑顔が穏やかな兵長のランツェだ。クララはランツェと直接話したことはないが、一見穏やかに見えて有事の際はキビキビ動く人物だとは聞いている。


 ロイヒテとクンペルがいくつもある麻袋のうちの一つに近づいていく。クララも二人を追って麻袋を後ろから覗き込む。

 麻袋の人物は全身を包帯に巻かれていて顔が見えなかった。パイロットスーツは新品のものを着せられていて、余計にエーレントの死体が酷い有様だったのだろうと感じさせられる。


 ……エーレント伍長。どうか安らかに――。


 クララは目を閉じてただただ冥福を祈る。

 しばらくすると死体処理班が麻袋を次々と大きな竈に入れていく。竈は石畳で囲われていて、かなり巨大だ。

 麻袋が竈に放り込まれるたびに熱風がクララの頬を撫でる。


 ランツェが「この国の為に戦ったものに、敬礼!」と声をかけると、一同敬礼する。クララはワンテンポ遅れて敬礼をした。




 クララは燃え盛る炎をジッと見ていた。


 結構あっけなかったな……。


 周りはすぐ帰るものや、しばらく炎を見てから帰るもの。周囲と話してから帰るもの。それぞれだ。


「クララさん」


 そんな中、声をかけてきたのは少尉のロイヒテだ。


「ロイヒテ少尉。お疲れ様です」

「実はクララさんにお話がありまして……」


 ロイヒテの少し困った顔を見て、クララは「場所を変えた方がいいですか」と自分から提案する。


「ええ、そうしていただけると助かります」


 ロイヒテの後をクララは着いていく。葬儀場から出て少し歩くと、親族控え室がある。ロイヒテがそこに入っていったのを、クララも「失礼します」と言いながら入っていった。


 中はいたってシンプルで長机と椅子だけしか置かれていない。


 エーレント伍長に身内がいなかったから机と椅子しかないのかもしれないけれど。身内のいる葬儀の時は料理や甘味が出て、もっと賑やかになるのかもしれない……。


 クララは思わず地面に視線を落とす。


「それで」


 ロイヒテが話始めたのに反応して、クララはハッと顔を上げる。


「実はクララさんに昇進の話がきていまして」

「……え」


 何の話だろうとは思っていたけれど。まさか昇級の話だったなんて。


「実は兵長にどうかって話が出ているんです」

「!」


 クララは思わず目を泳がせてしまう。というのも昇級するのにはあまりに早すぎたからだ。


 私、まだフルーク国に来てから一年も経っていないし。トイアーちゃんのことは別として。正式な実戦経験は二回しかない。それに。


「今のランツェ兵長はどうなるんですか」

「ランツェ兵長は伍長に昇進です」

「…………」


 クララは再び地面に視線を落とした。


「…………それって。エーレント伍長が亡くなったから、ですか」

「……」


 クララの鋭い質問にロイヒテはわずかに黙り込む。だがすぐに「――そうです」と答えた。


「今回の戦争でかなりの人数が死にましたから。それは軍の上位層もそうでして。今、人手不足に陥っています」

「ですが……。私にはまだ早いと思っているのですが。それに。私には分隊を任せられるほど、他の人との関わりも薄いですし」

「クララさんの懸念はもっともだと思います」


 そう言ってロイヒテもわずかに目線を下げた。


「ですが。だからといって、所属年数が経っている人を優先して昇進させるわけにはいかないんです」

「?」


 ロイヒテはわずかに小さくため息を吐いてから、ゆっくりと話を始める。


「軍への所属年数が長いからといって、リーダーシップがとれるかというとそういうわけではないですから。人によっては指示されるがまま動いた方がベストだという方もいます。それに。昇進して上の立場になったら好き放題して、自分のお気に入りの部下だけ優遇して、そうでないものには酷い扱いをする……という方もいます。なので人手不足だからといって誰でも昇進させる、というわけではないんです」


 そうは言っても……。


 クララは首をなかなか縦に振れない。そんなクララを励ますようにロイヒテは言葉を続ける。


「クララさんならその点は大丈夫だと。いろいろな方に言われています」

「いろいろな方?」


 クララは思わず首を傾げる。


「クンペル曹長、シュティル大佐。それにシュティル大佐から王も認めている、と聞いています。それにきっと」


 そう言ってロイヒテは上空を見つめる。


「きっと――エーレント伍長も」


 クララもロイヒテと同じく上を見る。上空には壁しかない。それでもなんとなく上空を見つめるしかなかった。


「エーレント伍長に昇進の話をした時に、クララさんの昇進はどうなのかと言っていましたし」

「え……」


 そういえば昇進の話を言いづらそうにしていたっけ。


「エーレント伍長は人を理由なく傷つけることをしません。まぁ、クララさんが軍に入った時に突っかかっていったのは、彼なりに納得がいかないことがあったんでしょうけれども。……とにかく。エーレント伍長には人を見る目がありましたから。きっとクララさんの昇進を後追いしてくださるはずです」


 クララはそっと目を閉じる。エーレント伍長の顔を思い出そうとするが、もうぼんやりとしか思い出せなくなっていた。


 エーレント伍長――。あの時は私は他国から来たから昇進できないと言ったけれど。でも。エーレント伍長が私の昇進のことも気にかけてくれていたのなら。


 クララは目を開く。


「分かりました。私、やってみます」


ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は階級の話について。一応フルーク国だとこんな感じです。


新兵→二等兵→一等兵→上等兵→兵長→伍長→軍曹→曹長→(准尉)→少尉→中尉→大尉→少佐→中佐→大佐→(准将)→少将→中将→大将

※( )の部分はレーゲン国で使用されている階級です。フルーク国では使われていません。


クララの昇進についてですが。通常の兵士が上等兵になるためには二年くらいかかるので、クララは相当な出世です!ちなみに今のクララの階級は二等兵なりたて。

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