無気力
クララはクンペルのヴルムと共に、無事にアラートハンガーに辿り着いた。アードラーから降りたクララはふらふらと地面に座り込んだ。俯いたまま顔を上げられない。
クンペルはハッとして、すぐにヴルムから降りてクララの元へ駆け寄る。
「大丈夫か」
「っ…………」
何も答えられない。ヒューヒューと掠れた息しか出ない。
クンペルはそんなクララを見かねて、トントンと優しく背を叩く。しばらくすると呼吸が落ち着きを取り戻してクララは「すみ、ま……せん」と言葉を発することができた。
「……トは……。エーレント……。エーレント、伍長……は」
「……」
クンペルはクララの背を叩きながら、静かに首を振った。
「残念だが。あの様子じゃ……」
フックスが燃え盛る場面が脳裏に蘇って、クララは再び沈黙してしまう。
こういう時、涙を流せたら楽なんだろうけれど。長年レーゲン国の王妃候補として振る舞っていたから、どこか自制が働いてしまう。
悲しいのに、辛いのに、泣けない――。
それにやはり現実味がない。エーレント伍長が死んだ、と分かっているのに。現実感がなくて……。
クララは顔を上げようとするも力が入らない。
心では顔を上げなきゃ、立ち上がらなきゃ、と焦っているのに。体に力が入らない。
「あ、れ……。すみません。体が、動かな、くて」
「いや。しばらくはそこに座っていた方がいい」
クンペルはこういう対処に慣れている。クララのように親しい人が亡くなって呆然となる人をたくさん見てきた。こういう人には休息と時間が必要だ。
クンペルは「水でも持ってくる」とクララの側からゆっくりと立ち上がる。
クララは俯きながらもクンペルの言葉に頷いた。
クンペルを待っている間、次々と負傷したヴルムがアラートハンガーに戻ってくる。俯いているクララには状況が分からないが、周囲の声から相当酷い怪我を負った人が救急室に運ばれていくのが分かる。
「…………」
ここにいたら邪魔だと分かりつつも、未だに体を起こすことは出来ない。
そのうちにクンペルが「水、持ってきた」と少し息を切らしてやって来た。
私を一人にしてはいけない、とかなりの早足でやって来てくれたんだろうな……。
「飲めそうか」とクンペルはコップを差し出す。クララは頷いて、手を震わせながらコップを受け取った。
ゆっくりとコップを傾けて唇をつけ、冷たい水を飲みこむ。
クララは徐々に落ち着いてきて長く息を吐きだした。
「ありがとうございました。おかげで少し……落ち着きました」
とはいえ。まだ体は動かないけれど。
そこに「そんなところで座ってどうした」と声をかけられる。長身で黒のパイロットスーツを着たシュティル大佐だ。
「それはっ……」
エーレントのことを話そうとする。だが意志とは関係なく、体が勝手に口を噤んでしまう。そんなクララを見て、シュティルはおもむろにクララの背に腕を回した。そのままクララを抱き上げる。所謂お姫様抱っこの状態だ。
「! 大佐っ!」
思わず声を大にすると「なんだ。元気そうじゃないか」と返される。そのままシュティルはクララの耳元に口を近付ける。
「そこにいつまでも座られると正直迷惑だ。軍の志気にも関わる」
「っ」
シュティルの言葉にクララはグッと黙って頷いた。
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なかなか例を見ない、全然嬉しくないお姫様抱っこの回でした。この先もちょくちょく少女漫画っぽい展開がくる予定ですが……甘くならないと思います……。




