フックス 4
「――――」
何も考えられない。一体、何が起きたのか……。
いや、本当はちゃんとわかっていた。エーレント伍長は敵にやられ、殺されたのだと――。
だが、それを理解するのを頭が拒んでいる。
「……ララ、クララ、クララ!!!」
クンペルが声をかけ続けるが、クララからの応答はない。というよりもクララの耳にはクンペルの声は届いていなかった。
クララの耳にはキーンとした耳鳴りと、燃え盛るフックスしか目に入っていない。
アードラーはずっと動いていない。敵はそんなアードラーに目をつける。
「クララ!」
クンペルはアードラーの前に立ち塞がる。銃で敵を牽制しながらアードラーの左腕を掴んで無理矢理戦線から離脱させようとする。
機体の損傷を恐れて普通なら機体で機体の腕を掴む、ということはしない。が、今回はやむを得ない。
クンペルは「しっかりしろ!」と語りかけるが、相変わらずクララからアクションはない。クンペルはヴルムをフル稼働させてアードラーを移動させる。だが、すでに敵はクララをマークしている。
「おい、クララ!!!」
思わずクンペルは語気が強くなる。その瞬間、敵の白いヴルムがクンペルの前に立ち塞がる。
っ!!! マズい。
咄嗟にクンペルは前に出てアードラーを庇った。その瞬間、銃声音が響いてクンペルの機体が激しく揺れる。
あ、と思った瞬間には機体はバランスを崩し下に落下していく。
俺の人生、ここまで、か……――。
思わず歯ぎしりをした。
「クララ! しっかりしろ! でないとお前も死ぬぞ!」
クンペルはそれだけ言い残してグッと目を閉じた……――。
「クンペル曹長! クンペル曹長!」
誰かが名前を呼んでいる。
クンペルはフッと自虐的に笑った。
天国か地獄か。分からないけど。ここでも「曹長」呼びかぁ……。
「クンペル曹長!!!」
名前を呼ぶ声が一層強くなる。
この女性の声……。
「!!!」
クンペルはハッとして目を開ける。目の前には黄色のヴルム、アードラー。アードラーがクンペルのヴルムの腕を掴んでいた。外装の薄いアードラーは左手がボロボロになってしまっている。
クララはクンペルのヴルムが撃たれてから意識が覚醒した。
「!」
クンペル曹長っ!
気付いた時にはクララはクンペルのヴルムに手を伸ばしていた。エーレントが死んだショックからまだ立ち直っていない。そんなすぐには立ち直れない。
でも。これだけは分かる。――――見知った誰かが死ぬのは嫌だ。
「クララ……さん……」
クンペルの掠れた声が聞こえて、クララは思わず目頭が熱くなる。
「口調が戻っています、クンペル曹長」
そのいつも通りのクララの口調にクンペルはホッと息を吐きだした。
「もう大丈夫なのか」
「………………」
「いや。何でもない」
クンペルは一瞬下の燃え盛るフックスに目を向けた後、冷静に周りの状況を見つめる。敵の数はかなり少ない。だが。
ヴルムのエンジンが先程の銃弾で壊れてしまっている。それに。クララさんのアードラーも。損傷が酷い。となると。
「この場は他に任せて、俺たちは一度戦線を離脱する」
クララは「ですが」と言いかけて口を噤む。クララにも分かっていた。今の機体では満足に戦えない、と。
クララは「はっ」と返す。
「問題は一体どうやって離脱するかだが」
クンペルがそう言った瞬間、敵がこちらに発砲を始める。
「!」
クララは咄嗟にクンペルの乗っているヴルムの腕をとり、銃弾を最高速度で避ける。
「曹長! ここは、私に任せていただけませんか。アードラーの速度ならっ、おそらく、離脱できます!」
クララは銃弾を避けながら、「ただ……」と眉をひそめる。
「クンペル曹長の乗っているヴルムが速度に耐えられるかどうか……」
「……」
クンペルは一瞬考え込む。だが考え込んでいる間にも敵は発砲してくる。冷静に考えている場合ではない。
「クララ! 機体のことは気にせず離脱だ!」
「はっ」
クララは一気に地面スレスレまで降下する。地面に墜落したフックスが燃え盛り溶け始めている。クララはフックスから無理矢理目を背け、最高速度で敵の下を搔い潜る。
敵はアードラーの姿を追えず、一テンポどころか五テンポ程遅れて下に移動する。だがその頃にはアードラーの姿は遠く、黒い点になっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
自分で書いておいてなんですが。自分の考えたキャラクターが死ぬのってこんなに辛いんですね……。とはいえ、小説を書いている人っていい意味で突き抜けたドSかドMしかいないと思っているので。これでいいんです……。




