フックス 3
クンペル曹長の一声で味方の銀のヴルムが、敵を取り囲む。
そうか、これを狙っていたのか。
クララはあっという間に陣形を作っていくクンペル曹長を見て思わず感心してしまう。
エーレント伍長が連絡をとってから、すぐにクンペル曹長が来たし。おそらく私達は囮……だったんだろうな。そしてその囮作戦は上手くいった、と。
さすがクンペル曹長。いや。フルーク王――――。
「エーレント伍長、クララ」
ヘッドフォンからクンペル曹長の声が聞こえ、一気に体に緊張が走る。
「こちらは外側から囲み込む。二人は内側から叩いてくれ」
「「はっ」」
クンペル曹長率いる部隊が敵を三百六十度取り囲むと、一気に攻撃を仕掛ける。敵は徐々にこちらの後方に下がっていく。
そこをクララとエーレントはお互いに背中合わせになって追いつめていく。
敵は左右にも後方にも逃れられず、機体が次々と地面に墜落していく。
クララは一瞬下に目を移した。
機体が落ちるたびに爆発が起きて辺りが赤く染まる。人はいない。
こうなることを見通して避難指示は出していたんだろう。これなら気負わず敵を撃ち落とせる。
しばらくすると一機の白いヴルムがこちら側に突っ込んでくる。
「!」
このままだと殺られると思って、数の少ないこちら側に突撃したようだ。
「エーレント伍長!」
クララが声をかけるとエーレントは「分かっている」とフックスの武器を素早く切り替える。
クララの乗っているアードラーと同じ、短距離タイプのライフルを取り出した。
敵のヴルムがエーレントの機体に近づくと同時に、エーレントはライフルを撃つ。見事一発で仕留め、白のヴルムは地面に墜落していく。
「よしっ」とエーレントが小声で呟いた。だが、そうは上手くいかない。
先程の機体を真似してか、それとも上からの指示があったのか。次々と敵がこちらに迫ってくる。
「っ!」
クララに一層緊張感が走る。
「落ち着け」
そんなクララをたしなめるようにヘッドフォンからクンペルが声をかける。
「こっちが有利なのには変わらない。こちらの部隊にとっては敵は背を向けている状態だ。二人は上手く敵を引きつけてくれ」
「「はっ」」
クララは思わずゴクリと唾を飲みこむ。
サラッと言われたけど。かなり難しいことを指示された……よね。
そうは言っても今はその指示に従うしかない。
エーレントが銃を撃ちながら上空に舞い上がる。
「!」
クララはエーレントの動きに瞬時に合わせる。操縦桿を強く握り一気に敵の下に潜りこんだ。
左右はクンペル曹長達が上手くやってくれる、とエーレント伍長は判断したんだろう。
エーレントは上から敵を撃ち倒していく。対してクララはエーレントの向かい側にまわり、下から敵を撃った。
上下から攻められて敵は混乱している。そこをさらにクンペル率いる部隊が左右から潰しにかかる。
クンペル達の部隊から背を向けていた敵は一気に壊滅状態に陥る。
クララは微かな高揚感の中、下から銃を撃っては敵を撃ち落とし、墜落してくるヴルムを猛スピードでかわす。
動体視力の良いクララと、速度の速いアードラーだからこそ出来る技だ。
「エーレント伍長、クララ」とクンペルから再び声がかかる。
「ここからはこちらの部隊に合流してくれ」
「「はっ」」
クララ達を取り巻くヴルムはもうまばらになっている。
ようやく合流の合図がかかり、クララは一気に機体をクンペルのところを向かわせようとする。が、グッと堪えた。
ここで前回と同じ失敗を繰り返すわけにはいかない……。
クララの頭にあったのは前の戦いのときに思いきり発進してしまい、エーレントを置いてきぼりにしてしまったことだ。あの時のエーレントは周りを敵に囲まれてかなりの窮地に陥っていた。
あれと同じ失敗を繰り返しては駄目だ。
クララはフックスに合わせながらクンペルの元へ着実に向かって行く。だが……。敵もそうはさせまいと猛スピードで目の前に立ち塞がる。
「くっ!」
敵の数はかなり少なくなっている。ここで踵を返して撤退すればいいものの、まだ戦うつもりらしい。
クララとエーレントは同時に武器を構える。
「自軍に当てないようにだけ気をつけろよ」
「はい」
エーレントの言葉に一層気を引き締めて銃を構えた。
その瞬間、目の前が光った――。強烈な光にクララは目を開けることが出来ない。
まさか閃光弾をこちらに目がけて撃ってきた!?
「がっ……」
エーレントの呻き声がヘッドフォンからわずかに聞こえる。
「エーレント伍長!」
クララは数回瞬きをしてからやっと瞼を開く。隣のフックスに視線を向ける。だが……――いない。
「…………?」
一瞬、思考が止まる。だがすぐにハッとして地面に目線を落とした。
フォルムが通常のヴルムより頑丈な銀色の機体が潰れている。
「あれは…………フックス。エーレント伍長が乗っているはず、の……」
ここまで読んでくださってありがとうございます。感想、レビューいただけたらめちゃくちゃ嬉しいです。
今回はあえて余計なことは書きません。余韻と、この先どうなるんだろうとワクワクしながらお待ちいただけたらなーと思っております。




