フックス 1
クララは自室に戻って椅子に腰かけるとふわぁ、と大あくびをする。
今日も厳しい訓練をこなし、後はお風呂に入って寝るだけだ。……とはいえ。お風呂に入りたくない~。このまま寝ていたい~。でも汗臭いまま寝たくない~。
クララは自分一人なのをいいことにぷらぷらと子供のように足を揺らす。やがて「仕方ないか」と一人呟くと椅子から立ち上がり、パイロットスーツの首元のチャックに手をかけた。その瞬間――。
カンカンカンカンと耳障りな鐘の音が鳴り響く。
「!」
腹まで下げたチャックを一気にまた首元まで上げる。
「――夜襲、夜襲。総員、至急持ち場につけ。繰り返す。夜襲、夜襲。総員、至急持ち場につけ」
「!」
クララは自室を飛び出して地下三階から地下一階までの階段を駆ける。階段には人が集合しているが全員が同じ方向に向かっているのと駆け足なのとで、スラスラとまではいかないがそれなりの速度で進んでいく。数分後アラートハンガーに着くとすでにエーレントが着いていた。
「すみません。遅くなりました」
「いや、クララは一番端の部屋だから時間がかかることは想定していた」
そう言ってエーレントは真っすぐに機体を見据える。そこにはアードラーの他にもう一機、ヴルムがある。色は通常の銀だが、機体のあちこちに武器が取り付けられておりフォルムが頑丈になっている。
この機体、シュティル大佐の「V-T11(エルフ) ティーガー」と似ている……。
するとクンペルが「待たせた」と後ろからやって来た。クララとエーレントはすぐにクンペルの方へ向き直り敬礼をする。
「敵はまだこちらに踏み込めていない。南の海上で留めている状況だ。その南の海上はロイヒテ少尉達が対応して下さることになっている。そこで俺たちは北と西の警戒に当たる」
「警戒だけ、ですか」とクララ。
今まで戦場の中心にいることが多かったから拍子抜けしてしまう。
だがそんなクララと裏腹にクンペルの顔は深刻だ。
「シュティル大佐から聞いた話だとどうもこの夜襲が怪しい、と聞いているらしい」
……と聞いている?
言い回しが気になりながらもクララは耳を傾ける。
「観測ではいつもの襲撃よりヴルムの数が少ないという結果が出ている」
「それってもしかして……。何か罠がある、と」
「挟み撃ちされるのではないかと考えているそうだ」
だとしたら。逆にこちらの数が少ない。私たちだけで北と西を見るのは厳しい。それとも何か策が。
「とにかく。そういうことだ」
クンペルはゴホンと軽く咳をすると二機のヴルムを見上げる。
「クララはアードラーに、そしてエーレントはまだまだ試作段階の機体だが。「V-F1(アイン) フックス」に登場してくれ」
「「!!!」」
クララとエーレントは二人して銀色の機体を見る。クンペルは「お察しの通りフックスは製造機番号8094を元にしてつくられたものだ」とエーレントを見た。
「エーレント伍長、期待しているぞ」
「はっ」
エーレントは力強い返事をしてキビキビとフックスに搭乗する。
クララはふーと長く息を吐いてから気合を入れる。
よしっ、私も……。
すると「クララ」とクンペルから声がかかった。
「はっ」
「クララにも期待している」
「!」
おそらくエーレント伍長と扱いに差をつけないように言ったんだろうけど。それでも。
クララには期待されていることが嬉しかった。
ここまで読んでくださってありがとうございました! 感想、レビューいただけたらめちゃめちゃ嬉しいです。
今回は「V-F1 フックス」解説です。毎度後書きが本編みたいなものになってきているような……。
全高:21メートル
本体重量:89トン
全備重量:126トン
平均飛行速度:200㎞/時
最高飛行速度:290㎞/時
V-F1 フックスは「V-Fシリーズ」の一号目の機体。
シュティルの乗っているティーガーを上手く軽量化できないか考えてつくられた機体。
ヴルムの基本形を元に武器収容数を増やそうと地道に開発が続けられ、8094回目の機体で一度テストを行うこととなった。パイロットのエーレントの操縦技術により特に大きな事故もなく改良が進められ、完成したのが「V-F1 フックス」である。ただしまだまだ試作段階なので以後も改良の余地あり。




