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8094 2

 それからクララとエーレントはお互いに組んで、何日間も機体に乗り込んだ。

 エーレントはかなりゆっくりではあるが着実に製造機8094を乗りこなしていった。そしてそれはクララも同様だ。クララもアードラーの速度と通常のヴルムの速度、どちらも違和感なく切り替えることが出来ていた。


「それでは今日はここまでにしましょう」


 ロイヒテの声がヘッドフォンから聞こえてきてクララとエーレントは機体をアラートハンガーに入れる。二人は機体を下りるとロイヒテの前に敬礼する。


「二人ともお疲れさまでした。自室に戻ってゆっくり休んでください……と言いたいところですが。エーレント伍長は少し残っていただけますか」

「は、はいっ!」


 自分一人だけ呼び出されてエーレントは険しい顔を浮かべる。一方のクララは後ろ髪を引かれながらアラートハンガーから出た。だが自室には戻らない。クララは肩の力を抜いて入り口近くの壁にもたれかかった。


 ロイヒテ少尉がエーレント伍長だけを残したのには意味があるんだろう。私に聞かせたくない話があるんだろうけど。でも私だって――。この国の一員なのに――。


 クララはエーレントと飛行訓練をこなしていくうちに自然とフルーク国が自分の故郷、と思えるようになっていた。だからこそ悔しい。


 自分には秘密事項を伝えられないほど信用がないのか、それとも秘密事項を受け止められないほどの気弱と思われているのか……。


 クララは壁にもたれかかりながら、それでも、と思わずにはいられない。


 私は他国から来たけれどこの国のために尽くしているし。それにそんなに気弱でもない。


 クララはグッと拳をつくる。


 エーレント伍長に聞いてみよう。私に話せる内容なら話してくれるだろうし。エーレント伍長なら私のことも分かっているはずだから、私がそんなに気弱じゃないことも知っているはず。

 それでも教えてもらえないなら。その時は仕方がない。諦めるしかない。


 クララが数分間その場で待っていると、ギギギギギと岩の壁が左右に分かれてエーレントが出てくる。

 エーレントはクララを見つけると「何してるんだ」と声を大にした。


「エーレント伍長、お疲れ様です。その……。ロイヒテ少尉との話が気になって。待たせていただきました」

「あー…………」


 エーレントは宙を仰ぐと深くため息を吐いてクララを見た。


「特に大した話じゃないんだ。製造機番号8094を元に本格的に新しい機体がつくられることになったんだ。それでその機体を俺にって」

「……」


 ここまでは至って普通の話だ。


「俺がその機体を上手く操って戦果を挙げることができれば……昇進できるらしい……」

「……」


 やっぱり普通の話だ。それなのにどうしてこんなにエーレント伍長は話しづらそうなんだろうか。


 そんなクララの疑問に答える様にエーレントは「たぶんロイヒテ少尉は……」と言葉を続ける。


「クララに昇進の話が来ないから言いづらかったんじゃないか」

「…………え? そんなこと?」


 クララは思わず素っ頓狂な声を上げる。それに今度はエーレントが「はぁ!? そんなことって」と変な声を上げた。


「私はそもそも他国の人間ですし」

「……そういえばそうだったな。すっかり忘れてた」

「ですからなかなか昇進できないのも分かっていましたし」


 それなのに。何の階級も無いただの一兵卒の私が専用の機体をもらっている方が異例だろうし。


 エーレントは「そうか」と軽く目を閉じる。そして再びクララを真正面から見た。


「すまなかったな」

「? あの? 何がですか」

「だからその…………。ちゃんと信じてやれなくて」

「! いえ。別にエーレント伍長のせいでは」


「ありません」と口を開く前に「まぁとにかくよろしく頼むよ」と遮られた。


「これから実践があったときもクララと組むらしいからな」

「はっ!」


 クララはほっこりとした気持ちを言葉に乗せて元気よく答えた。


ここまで読んでいただいてありがとうございます!


だんだんとエーレント伍長に愛着が湧いてきてしまったなぁ。実は最初はかませ犬くらいのモブキャラ設定だったのですが、なんだかこの作品にとって欠かせないキャラに成長してしまいました。

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