戦争に巻き込まれました
あまりの衝撃に視界が白く染まる。それでもクララはなんとか目を開けて状況を観察する。
どうも白のヴルムが先に攻撃を仕掛けたらしい。ミサイルを向かいの銀のヴルムに向けて撃ったが、クララの存在に惑わされて狙いを外したようだ。
これってもしかしなくても、戦争中……だよね。しかも真っ最中。
クララはゴクリと唾を飲みこむ。
冗談じゃない。私、ただ巻き込まれただけの一般市民なのに。
そう心の中で毒づいている間にも、白のヴルムは次々と砲撃してくる。しかも今度はクララに向かって、だ。
白のヴルムはクララが敵側だと判断していた。
「っ!」
クララは悲鳴をあげる間もなく、ハンドルを右、左とすばやく動かし、ギリギリのところで弾を避けていく。
クララは動体視力が人より優れていた。准将である父に半ば強制的に剣術を習っていたためというのもあるが、生まれつき動体視力はかなり良かった。
右、左と驚異的な集中力も合わさって次々に弾を避ける。だが動体視力と集中力があっても、ただただ弾を避けるのは長くは続かない。
いくつもの砲撃を交わしたその先に真正面から一発の弾丸が迫る。
「!!!」
駄目だ。避けきれない。――死ぬっ!!!
覚悟を決めてギュッと目を閉じた。
その時――、黒い何かが車のフロントガラスをさっと横切った。
「!」
車に急接近してきたのは信号を送ってきた黒いヴルムだ。黒のヴルムは車の前に立って盾を取り出し、クララに打たれた砲撃を防ぐ。
もしかしなくても助けてくれた?
クララは黒のヴルムをジッと見つめる。黒のヴルムはクララを庇いながら、次々と相手に向かって銃を撃っていく。そのうちの一発が見事命中し、鉄を溶かしながら白いヴルムは海に落ちた。
その後も白のヴルムはこちらに向けて砲撃してくるが黒のヴルムは変わらずクララを盾で庇い、銃で相手を牽制していく。
逃げるなら今だ――。
クララはアクセルを踏んで車を勢いよく転回させる。
とにかく安全な所に着陸させよう。空よりも陸を走った方がまだ安全だ。
波打ち際に車を止めようと着陸態勢に入った。脇目も振らずひたすらにアクセルを踏んで、車を降下させていく。
だがまた爆発音が間近で聞こえ、車が激しく揺れた。
「!!!」
クララはハンドルを握り車体を真っすぐに保とうとする。が、車はガクガクとふらつき車内は煙臭くなってくる。
車のエンジン部分に弾がかすったのだ。
クララはそうとも知らず、爆発の衝撃でどこか破損したのかとサイドミラーとバックミラーに視線を向ける。
とくに異常はなさそうだけれど……。
そう思った瞬間、車がガクッと一層激しく揺れてフロントガラスが下にある海を向く。
「えっ!」
クララは焦りながら思い切りペダルを踏むが、反応は一切ない。そして叫ぶ間もなく車は地面に墜落した。
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今回は空陸家庭用自動車の解説、というかちょっとした小話を。
空陸家庭用自動車は飛びながらのバック走行はできません。というよりもバックの性能がいらなかったの方が正しいです。なのでバックするときはハンドルを握って転回させる必要があります。
もちろん地上ではバック可能です。