8094 1
爛々とした太陽が黄色の機体を照らす。まだ新品な機体は太陽の光を受けて、黄色というより黄金に輝いていた。
パイロットスーツを着たクララは真正面から黄色の機体、アードラーを見据える。
「まぁ、今日はアードラーに乗って軽く飛ぶだけだから。そんなに気張るなよ」
そう言うエーレントもパイロットスーツを着てどこか緊張していた。――エーレントはやっと自分の機体を手に入れたばかりだ。
エーレントは通常のヴルムと型が一緒の最近つくられた製造機番号8094の担当となった。武器収容数が増えて今までより操縦の手間がかかる。
ちなみにエーレントが上手くいけば新しく8094を元に型がつくられる。
クララはスッと深く深呼吸をする。
確かに私は軽く飛ぶだけだけれど……エーレント伍長と飛ぶように言われている。それはすなわち私の操縦次第でエーレント伍長の良し悪し、新しい型がつくられるかが決まる。
クララはエーレントの言葉に反して強く頷く。そこに「それじゃあ始めましょうか」と声がかかった。
声をかけてきた人物は少尉のロイヒテ・エリーテだ。ロイヒテはクララがシュティルとはじめて会ったときのように軍服を着ている。ただ色は黒でなく白だ。そして銀のフレーム眼鏡がその白の軍服と似合っている。
クンペル曹長ではなくロイヒテ少尉がこの場を仕切っているのはおそらく少尉という立場が一番戦場に出るからだろうな、とクララは一人頷く。
「ほら、行くぞ」
いつまで経ってもアードラーに乗る気配がないクララをエーレントは静かに小突く。
「す、すみません」
クララは軽くフッと息を吐いて、アードラーの足の横に立つ。アードラーの足が縦に開いてクララはその中にある椅子に座った。四点式ズィッヒャーベルトが下り自動的にお腹周辺にあるバックルにカチリと収まる。……が今日はいつもと違っていた。
妙にベルトがしっくりくる――。
そう思っている間にも椅子が上昇し、クララは操縦席に着く。赤いボタンを押してエンジンをつけて、ヘッドフォンを装着する。
「クララさん、聞こえますか」
「はっ!」
ロイヒテの声がヘッドフォンから聞こえクララは背筋を正す。
「ベルトの調子はどうですか。シャル整備曹長が調整したと言っていましたが」
「は、はい。かなりいいです」
クララは女性の為、男性より筋肉がつきにくく体も硬くない。よってシャルはクララのベルトを通常のものより柔らかいものに変更した。もちろん衝撃をきちんと吸収するベルトを採用している。
「エーレント伍長は大丈夫ですか」
ロイヒテの言葉にクララは隣のヴルムを見る。
「はい。問題ありません」
「それじゃあまずは軽く飛ぶところから始めましょう」
先にヴルムを飛ばしたのはエーレントだ。非常に安定しながら空へ上がっていく。
よし。私も――。
クララは一気に速度を上げてアードラーを飛ばす。――だが、すぐにハッとして速度を落としてエーレントの隣に機体をつける。
エーレント伍長の機体に合わせるとかなり遅い。でも……これでいいんだ。
前の戦いではエーレント伍長を置いていってしまったから。せっかく今回からアードラーに乗せてもらうけれど。アードラーの速度に慣れつつも、通常のヴルムの速度に合わせることも私の課題だ。
「それじゃあその場で前後左右に一回転をお願いします」
ロイヒテの言葉にクララは器用に左板の矢印を操ってその場で左右にアードラーを回転させる。だがエーレントは操作が通常のヴルムより複雑で動作が五秒程遅れる。
エーレント伍長は通常のヴルムに慣れてしまっている。いきなり機能の増えた操縦席を操るのだろう難しいのだろう。けれど――。
五秒は意外と長い。操作に五秒もかかっていたら命取りになる。
クララはなかなか思い通りに動かない製造機番号8094に自分のことのように歯ぎしりをする。
最初にエーレント伍長と会ったときはいろいろとあったけれど。接していくうちに分かっていくものがあった。エーレント伍長はかなり努力家だ。あとほんの少し経てば完璧に操縦できるのに……。
そう思いながらも気持ちを切り替えてクララは縦にアードラー回転させる。クララはかなりの速度で前後に機体を回転させた。
通常のヴルムに合わせるところは合わせて……。
せっかくアードラーに乗ったのだから機体のいい部分は生かしてあげたい――。
そう思ってアードラーを回転させると重い負荷が体にかかった。
「くっ」
思わずクララは声を上げてしまう。だがその中でクララはしっかりと目を見開いた。それにベルトが柔らかいのにしっかりと締まって体を支えてくれていることで、クララは安心してアードラーを回転させた。
かなりの負荷はあったが華麗にアードラーを回転させることができ、クララは絶好調である。
クララは鼻で荒く息を吐き出すと隣のエーレントの機体を見る。
エーレントの機体は遅くゆっくりと回転を始める。先程と大幅に遅れて二十秒近くは経過してしまっている。けれどもかなり安定して前後回転した。
「!!!」
そこでクララはやっとエーレントの意図に気付く。
……なるほど。エーレント伍長は私と正反対で速さよりまずは正確性をとったのか。まずは操縦の難しい8094をきちんと乗れるとアピールするところから始めるみたいだ。
クララは思わず頬を緩めてしまう。
やっぱりエーレント伍長は凄い。普通の人は先のことをそこまで考えられない。この人はもうちょっと周りから評価されてもいいと思う。
「それでは周辺を軽く移動してください」
ロイヒテの言葉にクララはハッとして先に動いたエーレントの機体に続く。クララは相変わらずあえて速度をエーレントに合わせ、後ろをついていく。
エーレントの機体8094は回転など操作が複雑な部分になるとぎこちなくなるが、普通に飛ぶ分には全く問題はない。だがこれもエーレントの操縦技能があってのことなのだろう。
十分程飛んだところで「今日はここまで」とロイヒテの声がかかりクララとエーレントは機体を地面に降ろした。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。レビュー・感想お待ちしております。
今回はロイヒテ少尉について少し解説を。多分この先出ないかなーという設定だけ。
ロイヒテは立場が下のものでも敬語で話をしています。これは相手に気を遣っているから……とかではなく、そのほうが落ち着くからです。
ロイヒテもなかなかの上流階級出身でマナーはもちろん、言葉遣いもみっちり家庭教師に教わっています。なので急に乱雑な言葉遣いは出来ないのです。
ただこの丁寧な言葉遣いが戦争ではかなり役に立っていて、部下たちはどんな窮地に追い込まれていてもロイヒテの柔らかい口調を聞くと冷静に対処できる……のだとか。




