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エースパイロット目指します  1

 講義が終わってクララは深くため息を吐きながら地下階段を下りていく。


 結局。あの盛り上がりの中、思っていることを口に出すのは憚られて……。言い出せなかった。


 クララはもう一度深いため息を吐く。地下五階まで下りて、自室まで歩いていく。と、自室の前に腕を組んだシュティルがいた。


「!」


 クララは思わず二、三歩後ろに下がる。だがシュティルがクララを見逃すはずもなく、シュティルに「どこに行くんだ」と声をかけられた。


「い、いえ。特に何も」


 クララは曖昧に笑ってやり過ごす。シュティルは「まぁいい」と言ってからクララの自室を親指で指差した。


「それより部屋に入れてくれないか」

「…………え?」


 クララは思わず自身の腕を抱き締める。


 な、な、な。何を。何を言っているの、大佐は!? 私達は上司と部下の関係性だけれども。それ以前に! 男と女であって。だからっ!


「ぜっっっっっっったいに!!! イヤです!!!」

「……何を勘違いしているか知らないが。俺には嫌がる女を襲う変な趣味はない」

「………………へ?」


クララが余程素っ頓狂な声を出していたのか、シュティルは「ふっ」と笑みをこぼした。


「とにかく部屋に入れてくれないか。ここで長話する方が良くないだろう」


 確かに。


 クララは周囲をよくよく見渡してからこっそりとシュティルを招き入れた。

 シュティルはクララの部屋を見渡すと簡素なベッドに腰を下ろした。


「それにしてもずいぶん質素というかなんというか」


 クララの部屋には何も可愛らしいものはない。部屋の真ん中にちょっとした机と椅子、端にベッド。その反対側に簡易シャワー室が設けられている。

 クララは自分の部屋だというのに恐る恐る真ん中の椅子に腰を下ろしてから「仕方ないじゃないですか。ここに来たばっかりだし。それに毎日毎日忙しいんだから」と口を尖らせる。

 実際、軍に入ってからというもの毎日訓練だったのだから買い物に行く時間もなかった。


「それで。その。大佐は私にどんなお話が」


 普通は大佐が私みたいな新米兵士に直接話にくるなんてあり得ない。はじめの頃ならいざ知らず――。


 シュティルはゴホンと咳払いをしてから「クンペル曹長がクララの様子が変だったといっていたものだからな」と口を開く。


「いえ、特に変わりは」


 そうクララが反論する前に「いや、違うな」とシュティルは人差し指でおでこをトントンと叩いた。


「クララのことだ。我が国の違和感に何か気付いたんじゃないかと思ってな」

「…………」


 クララはわずかに目線を下げる。


 大佐がそういうってことはやっぱり。この国、巧妙に隠し事をしてるんだ――。


 クララは視線を上げてシュティルと真正面から向き合った。


「トリューベ国と秘密裏に和平条約を結んだんですよね」

「ああ」

「表面上はトリューベ国と仲が悪いように見せかけて、裏では仲が良いって」

「ああ」

「でも……」


 クララはスッと息を吸う。


「それって一番得をするのはトリューベ国、ですよね」

「……」


 今まで頷いていたシュティルが黙り込む。クララは言葉を続けた。


「もしフルーク国がアルム国に勝てば勝ったでトリューベ国は自国の資源や人を失わずに敵を退けることができます。フルーク国が負けたとしてもアルム国は疲弊した状態ですからトリューベ国からアルム国に先手を打てば自国を守ることだけでなく、アルム国も手に入りますし。それに――」

「……それに?」

「言いづらいのですが」


 クララは横に視線をずらした。けれどもクララは再びしっかりとシュティルを見た。それは無意識のうちにクララの中にシュティルへの信頼があったからだ。


 大佐なら受け止められる。いやむしろ分かっているはず。――……条約なんて簡単に破られてしまうなんてことは。


「トリューベ国が条約を破ってこの国に攻め入ることだって出来ます。フルーク国もアルム国と同様に疲弊していますし、そこを攻め込めば鉱山を奪い取れます」


 シュティルは「ふむ」と呟いて口元に笑みを浮かべた。


「さすがだな。他の新兵のようにそう簡単に騙されてはくれないか」

「……すみません」

「いや」


 シュティルは笑みを引っ込めると「それで」と声を一段階低くしてクララに問いかける。


「それでクララはこの国が嫌いになったか」

「?」


 急にどうしてそんな私情の入ったような質問を? しかもそんな真剣に?


 一瞬クララは首を傾げる。が。


「――!」


 すぐにハッとした。


 これはもしかして――愛国心を疑われている?


 シュティルの鋭い視線がクララに突き刺さる。クララはその視線を受け止めてゆっくりと口を開いた。


「いえ。私はこの国も、人も好きですよ」

「本当か」


 強く頷く。


「レーゲン国から追い出されてこの国の軍人に半ば強制的になってしまいましたけど。今ではそれで良かったって言えるんです。なんだかんだで皆さんに良くしてもらっていますし。それに私、決めたんです」

「……」


 クララはトイアーを助けるためにアードラーに最初に乗った時を思い出す。あの時、引き金を引いたのはレーゲン国の王子フルヒトとの婚約破棄を思い出して……だった。


 レーゲン国から追い出されて。何でもないように振る舞っていたけれど。アードラーに乗ってよく分かった。私はフルヒト王の王妃という立場にかなり固執していた。

 それはきっと、もっと自分が人に頼られる存在になりたかったから――。


「決めたんです。レーゲン国への当てつけに、あいつは王妃にしておいた方がまだ良かったって思えるくらいのエースパイロットになってやるって」


 そう言ってクララはぺろりと小さく舌を出した。


いつも読んでいただきありがとうございます。


今回、クララは国や世界は関係なく自分のためにエースパイロットになることを決意しますが。たぶん、女性ってそんな感じじゃないかと。

ガンダムなどの男性主人公キャラは世界平和など、大きいもののために戦うことが多いと思うのですが。セーラームーンなどの女性主人公キャラってご近所さんや自分と近しい人を守るために戦っているような気がするんですよね……。

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