講義 2
「――仕方がなかったんですよ」
気がつけばクララは言葉を発してしまっていた。
っ! やってしまった……。
周囲の視線が一斉にクララに突き刺さる。クララはおでこをおさえたいのを堪え、必死に頭を働かせた。
このままじゃレーゲン国を追放になった時と同じになってしまう。でも……。
クララはグッと机の下で拳をつくりながら口を開く。
「もしアルム国がベルク国に協力していたら、アルム国もベルク国と同様に攻められてしまいます」
「でもなぁ。だからといってこの国を攻める必要なんてないじゃないか!」
「……」
周りの声にクララは言葉を返せない。
アルム国は大国だ。人の数でいったらアルム国の方が上だが、武器そのものが人の量と合わないのなら意味がない。だからベルク国に攻め入るのは難しいと判断したのは分かる。
が……。何故わざわざフルーク国を攻めるのか。それが分からない……。
「さて。ここで講師の出番かな」
クンペルは「まぁまぁ」と周囲をなだめてからクララにウインクを飛ばす。
「!」
結構周囲を騒がせてしまったのに。なんだか良くやったと褒められているみたいだ。
クララは複雑な感情を抱きつつ、クンペルの講義に耳を傾ける。
「何故フルーク国に攻め入るのか。それは西にあるトリューベ国にある。トリューベ国に行くには三つの連続する山があるだろう」
そのクンペルの言葉にクララはハッとする。
もしかしてその山が……。
そう思ったのはクララだけでなく周りも同じだ。一気に周囲がまた騒がしくなったのも気にせず、クンペルは「皆が思っている通りだ」と口を開く。
「あの山はわずかだが鉄鉱石が取れる。そして鉄鉱石の所有権はフルーク国とトリューベ国が互いに条約を結んで半々ということになっている」
その説明にクララはあれ? と首を傾げる。そしてそれはクンペルの後ろにいた助手のエーレントもそうだった。
クンペルは「さて」と首を傾げていたエーレントに顔を向ける。
「エーレント伍長。何やら疑問点があるようだが」
「はっ。我が国はトリューベ国との関係があまりよくなかったはずです」
クララはエーレントの言葉に大きく頷く。
レーゲン国でも有名な話だった。山を挟んでいるとはいえ、隣同士。いつ小競り合いが始まるか分からないって。それなのにトリューベ国が条約を破棄しないでいるのは……何かトリューベ国に思惑が。
そうクララがいろいろと思案しているとクンペルは「そうだ」とエーレントからクララ達に向き直る。
「トリューベ国と関係が悪い。――そう思わせることにフルーク王はなさった」
!? フルーク王が!?
辺りがシーンと静まり返る。一際クンペルの声が講義室に響き渡る。
「そもそもフルーク国とトリューベ国の関係はかなり良好なんだ。だがアルム国がこちらに戦争を吹っ掛けてきたことで変わった。アルム国はこのフルーク国を侵略した後、トリューベ国に乗り込み鉱山を乗っ取る手はずだろう。この場合、トリューベ国がとる政策は我が国と手を取るか、アルム国と同盟を結んでしまうかのどちらか。そこでフルーク王は考えた」
全員がクンペルの話に夢中で聞き入る。
「フルーク国としてはトリューベ国とアルム国が手を結ぶのは避けたい。鉱山をとられたくはないし、西の国と戦争となると南と東から海を渡ってくるアルム国と挟み撃ちになる。そこで策だ――」
ゴクリ、とクララは唾を飲む。
「フルーク国とトリューベ国は秘密裏に和平条約を結んだものの、トリューベ国と関係が悪いと思わせることにしたんだ。そうすればトリューベ国はフルーク国に手を出せない。それにトリューベ国もフルーク国と関係性が悪いと思わせておくことが出来る。だからアルム国にとってはわざわざ侵略するよりも同盟を結ぼう、と思わせておくことが出来る」
クンペルの言葉に周囲がわぁっと大きな歓声を上げる。それとは対照的にクララはどんどん冷静になっていった。
「…………」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は鉄の解説パート2です。
小説の中の鉄の作り方もそこまで現代と方法は変わりません。鉄鉱石から鉄を作っています。ただ現代と同じく、鉄鉱石に鉄以外の不純物が含まれているため石炭と石灰石を混ぜて高温で熱する必要があります。
現代と違うのは高温で熱する機械(高炉)がコンパクトになっている点。なのでそこまで大きな製作所でなくても、中小くらいの製作所でも作ることができます。いくつもの企業が鉄業界に参入できるので独占市場(業界で競争相手が少ないこと。独り勝ち)でなくなり、競争に勝ち抜くために日々企業は様々なものを生み出しています。




