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講義 1

 クララは西側の地下三階にある部屋の前に立っていた。手に持って入る地図を広げてマジマジと見つめる。


 ここで間違いはない、はず。


 今日から講義に参加することになったが講義室が分からず、クララは右往左往していた。

 地図には『講義室』と書かれているが、部屋の前にはそれらしき看板も記載も何もない。というよりも地下通路は入り組んでいて、部屋に看板も何もないので迷いやすい構造になっている。


「……」


 ずっとここにいるわけにもいかないし。とりあえず入ってみよう。


 クララは扉に手をかける。その瞬間、「ここで何やってるんだ」と声をかけられた。


「!」


 ハッとしてすぐに後ろを振り返る。と伍長のエーレントがいた。クララはすぐに敬礼のポーズをとる。


「お疲れ様です。エーレント伍長」

「ああ。それでここで何をしてた」

「実は……。講義室を探していて」


 するとエーレントは「ああ、今日だったか」と呟く。


「講義室は二個左の部屋だ」


 クララは「ありがとうございます」とお辞儀をしてから移動していく。が、その真後ろをエーレントが同じ速度で着いてくる。

 クララが五歩歩けばエーレントも五歩、三歩歩けば三歩。


「……」

「……」

「…………あのー。エーレント伍長?」


 クララは後ろを振り返る。


「どうして着いてくるんですか」

「俺も講義室に用がある」


 それならそうと早く言ってほしいのだけど。


 クララはぷくっと頬を膨らませたいのを我慢して、二個左の部屋へ移動する。そして思いきり部屋の戸を開けた。


「!」


 天井が妙に明るくクララは思わず目を細めた。徐々に目が明るさに慣れてきて部屋全体の様子が見えてくる。

 長机が左右に分かれて列をなしている。長机にはまだらに人が座っている。座っているのはほぼ全員が鍛錬場にいた人物だ。

 部屋にいる人物の何人かがクララを注視する。が、後ろにエーレントがいるのを見るとクララからサッと目を離した。


 エーレンとはわざとらしくゴホンと一つ咳をすると「クララも早く席に座れ」と空いている席を顎で指す。

 クララは「はっ」と真面目に返すもあれ? と思わず首を傾げた。


「エーレント伍長は何をしに?」

「俺は講師」

「講師!?」

「……の助手だ」

「…………」


 助手かいっ!


 思わずつっこみたくなってしまうのをグッと堪え、クララは前の空いている席に座った。


 エーレント伍長が助手ということは。講師はそれ以上の階級の人物……。そうすると必然的に。


 そこまで考えた時に講義室の戸が開いて見知った人物が部屋の後ろから前へ進み出る。


「それじゃあ講義を始めよう」


 そう言ったのは曹長のクンペルだ。


 やっぱり……。


「それではこの国の歴史から。エーレント伍長。地図を展開させてくれ」


 エーレントは掌にすっぽりとおさまる大きさの小型ビデオを起動させる。とクンペルの立っている壁にフルーク国とその周辺の絵が映し出される。


「この国は最初、小さな部落の集まりだった。小さな部落同士での争いが絶えない時代を終わらせ、小国ながらも一つの国として成り立たせたのはその当時一番強いと言われた武人の参謀だ」


 クララは思わず目を輝かせてしまう。


 レーゲン国にいた時、周辺国のある程度知識は身につけているけれど。実際にこうして話を聞くと知らなかったことが見えてくる。

 今の話もクララには知らなかったことの一つだ。


「参謀の第一フルーク王が国を成立させてから数百年。このフルーク国は小さな争いはあれど表面上は平和を保っていたのだが。その均衡が崩れたのが数年前だ」


 クンペルはフルーク国をまずは指差し、そこから下へ地図をなぞっていく。指は海を越え、アルム国を指す。


「アルム国の総帥がフルーク王に支援を持ちかけてきた。アルム国は大国だが、今はかなりの資源不足に陥っている。それを支援してほしいとのことだったが、我が国は断った。そこでアルム国は武力で資源をとりにきた、というわけだな」


 クンペルの講義に周囲が騒がしくなる。それもそうだ。この言い方では武力を使ったアルム国が悪いのに、フルーク国の方が悪く聞こえてしまう。

 エーレントは「静かに! 曹長の講義中だ!」と一喝する。周囲が静かになってからエーレントはクンペルに視線をやり続きを促した。

 クンペルはゴホン、と一つ咳払いをしてから険しい顔をする。


「アルム国が今陥っているのはアイゼンエンデ(鉄の終わり)だ」

「!」


 ここでやっとクララにも話が見えてきた。


 アルム国は大国だが、鉱山がない。つまり鉄を自国だけで調達ができない。だから輸入に頼っているはずだ。たしか。今、一番鉄鉱石がとれる国は……。


 クンペルはアルム国から西南にある大陸を指差す。


「アルム国は鉄の大半をこのベルク国から買っている」


 クンペルは大陸の真ん中にある小国を指した。この小国こそベルク国だ。大きさはアルム国とほぼ同じである。


「だがベルク国はアルム国に対して鉄の輸出を規制したんだ。というのもベルム国が周辺国から攻め入られた時に、アルム国が手を貸さなかったからだ。同盟国にも関わらず」


 その説明にまた周囲が騒がしくなる。


「なんで手を貸さなかったんだ」「そのせいでこっちまで」とあちこちから非難の声が上がる。


 クララは深くため息を吐いた。そして気付いた時には思わず「――仕方がなかったんですよ」と口走ってしまっていた。


 その不敬な言葉に周りが示し合わせたように静かになる。


「!!!」


 やってしまった……。


いつも応援していただいてありがとうございます。


 今回は小説の世界の中の鉄についての解説です。

 戦争ものということで鉄はヴルムなどの軍事兵器に多く使われていますが、現代と同じくいろいろなところで使われます。自動車はもちろんのこと、レーゲン国や他の国ではビル。あとはコンクリートや橋なんかも。身近なところだと包丁、フライパンなどの料理器具ですね。

 なのでアルム国は現在身近な鉄を使ったものの生産や道路整備をほぼ中断して、ヴルムの開発にあてております。

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