襲撃 5
クララはホッと息を吐いてヘッドフォンを外した。ピピッと低い音が鳴り椅子が急降下する。数秒の内にヴルムの足が開き強烈な光が差し込んでくる。アラートハンガーの照明だ。クララは目を細めながら立ち上がった。すると誰かが光の中からこちらに向かって手を差し出しているのが見える。
「?」
クララは首を傾げながらも手を取ってヴルムから出た。
「っ」
クララは光の中に意外な人物を見る。
「エーレント伍長!?」
目の前にエーレントの不服そうな顔があった。
何故……?
クララが再び首を傾げると「クララ、お前なぁ」とエーレントは眉を寄せた。
「よくも俺を置いていったな」
「っ!」
忘れてたっ!
周りを敵に囲まれたことしかクララの頭にはなかった。エーレントと一緒に戦場に出たのに置いてけぼりにしたことなど頭から消え去ってしまってた。
クララは「すみません」と口を開くがエーレントはなおも言葉を続ける。
「それに命令無視もしたしな」
「う……。それは」
エーレントがこの場を離脱しろと言った時だ。あの場合は仕方がなかったと思うけれど、とクララはほんの少し口を尖らせる。
「だが」とエーレントは少し俯いた。
「クララのおかげで助かったよ」
「っ!」
クララは思わずまじまじとエーレントを見てしまう。エーレントは俯いてはいるが、顔を赤らめているのが見て取れる。どうやら照れているようだった。
「いえ」
クララは穏やかに微笑む。
「私の方もエーレント伍長のおかげで助かりました。それに……。今回一番活躍されたのはシュティル大佐ですし」
目の前が赤黒く染まったあの光景……。今思い出しても背中に鳥肌が立つ。
そう思っているのはクララだけでなくエーレントも同じだった。だがエーレントはまた違う意味で背中に鳥肌が立っていた。
あの銃もそうだが、何より凄いのはシュティル大佐だ。あの戦況をすぐにひっくり返すことの出来る作戦力。やはり若くして大佐になっただけある。
エーレントはクララに対して「そうだな」と頷くと、「なんだ。楽しそうだな」と声をかけてきた人物がいる。
噂をすれば何とやら。シュティルだ。
エーレントが先に敬礼し、クララも一歩遅れて敬礼する。
「先程は助かりました」
エーレントがそう言うとシュティルは「いや。こちらこそ助けに来るのが遅くなって悪かったな」と返す。シュティルはクララへと視線を移す。
「ずいぶん仲良くなったな」
「はい。おかげさまで」
「それにアードラーの操縦も見事だった」
「っ!!! あ、ありがとうございます!」
エーレントとシュティル両方から認められ、クララの頬はだらしなく緩む。
「それにしても困ったな。あの国には」
そう言ってシュティルはおでこを人差し指でトントンと叩く。
「ええ、本当に」と返すエーレント違い、クララは思わず「あの国?」と尋ねてしまう。
「おまっ! まさか知らないのか!」
エーレントがギョッとした顔でクララを見る。
「すみません。特に聞いてなかったもので」
戦争相手を知らずにヴルムに乗っていたのならそりゃびっくりするよね。もちろん今まで相手を知ろうともしなかった自分がいけないのだけれども。
クララは苦笑いを返した。
「エーレント伍長。そう怒らないでやってくれ。相手も教えずに軍人にしてしまったのは俺だからな」
そう言ってシュティルはクララに頭を下げた。
「すまなかったな。そのくらいの情報は教えるべきだった」
「大佐っ。顔を上げて下さい。別に私は……」
気にしていない、と言われると。嘘になってしまうけれど。けれど。アードラーに乗ると決めたのも軍人になると決めたのも。――最終的に全部自分だ。
クララはグッと拳を握る。
シュティルは顔を上げて「すまないな」と軽く微笑む。笑った顔はやはりどこか子供っぽい。
「本当はきちんと講義もあるんだがな。クララにはその余裕もなかったな」
そう言ってシュティルは笑みを引っ込めるとスッと鋭い目をしてクララを見た。
「この国を襲撃してきているのはアルム国だ」
いつも読んでくださってありがとうございます!感想、レポート、批評、なんでもお待ちしております。
やっと襲撃編終わって、次回はこの国の政治やら経済面を補足していけたらな…と思っています。




