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新たな家を探して

 クララはドレスのまま座席に乗り込み、鍵を差し込む。ブルル……とエンジンのかかる音がする。


 普通の令嬢は車の運転はしない。専用の運転手がいる。それはクララも同じだったが、クララの場合趣味の範囲で空陸家庭用自動車を乗り回していた。


 クララは思い切りペダルを踏む。と、車は勢いよく上空に上がっていく。


 婚約破棄されたというのに、雲一つない青空。快晴だ。なんというかとんだ皮肉、だよね。

 とりあえずは……。


 クララは頭の中で世界地図を広げる。


 海の見える田舎でのんびり暮らしたいなぁ。それでいてレーゲン国と敵対していない国となると……。

 山を四つ越えた先に海があったはず。その海を越えた先の国で過ごそうかな。それだけ距離が離れていればレーゲン国のこともあまり興味はないだろうし。


 クララは頭の中でルートを描いた後、ハンドルを左に回す。

 まだ下の景色は鉄で出来たビルがいくつも立ち並んでいる。


 昔から見ていたレーゲン国の街並み。でも、今日でお別れ。そんなに寂しくはないけれど。でも、母さんとはちゃんとお別れをしたかったな。


 クララは後ろ髪を引かれながら車を急上昇させて一気に山を越える。山を越えた先は別の国だ。レーゲン国と隣接しているからか、あまり国同士の関係はよくない。

 クララはハンドルの横にあるレバーを引いて車体をなるべく上昇させてから、アクセルを思いきり踏む。


 見つかったら面倒そうだし。早いとこ通り抜けなくちゃ。


 街の景色は国が隣同士だからか、レーゲン国と似ている。違うところといえば、レーゲン国より高層ビルが多いところぐらいだった。


 クララは街の様子を横目に見つつ、アクセルを踏んで国境を越える。


 そこから特に問題もなく国々を越えていく。目の前には目指していた海が見え始めていた。


「さて、問題はここから」


 海を渡った先の国で私が受け入れられるかどうか……。


 クララは少し手に汗を搔きながらハンドルを強めに握る。


 といっても受け入れられなくては私の生きる道はないわけだけど。


 綺麗、とは言い難い濁った海を渡る。ところどころにビニール袋や発泡スチロールが浮かんでいる。


 やがてクララの目の前に一つの大陸が見えてきた。街並みはクララのいたレーゲン国と違い、建物が低い。何よりビルではなく、古臭いレンガ造りだ。


 ちょっと文明が遅れているのかな。


 クララがそんなことを思ったのは、レーゲン国の歴史の一つにレンガ造りの建物が主流だった時代があったからだ。

 クララは遠目で車を降ろせそうな場所を探す。


 その時――。


 カンカンカン、と甲高い鐘の音が海の国に響き渡った。


「!」


 車の中、しかも上空にいるクララにも聞こえるくらいの騒音だ。


 次いでゴゴゴゴゴゴゴと爆音を鳴らしながら、海に隣接しているコンクリートの地面が割れ始める。いや、地面がスライドしているようだった。

 スライドした地面から鈍い銀色の機械が出てくる。

 その銀色の機械にクララは見覚えがあった。


 かなり巨大でドラゴンの形をした機械、いや機体。目元は鋭く、口はドラゴンの牙を模してギザギザとしている。両肩には大砲。背には銃と刀を装備している。下半身は空中を動き回れるように大量のエンジンを搭載しているため太くずっしりとしており、中でも目を引くのは空中でバランスをとるための尾。

 ――空中用戦闘機械兵器、ヴルム。


「!」


 空中用戦闘機械兵器ヴルムだと気付いた瞬間、クララの脳内に嫌な想像が巡る。


 もしかしてスパイとか、襲撃にきたとか……嫌な勘違いされている!? 今から踵を返すのは――――無理だ。それなら……。


 クララは車を減速させて、なるべく空中に留まる。


 敵じゃない、と認めてもらうしかない。


 コンクリートから一機、二機とヴルムは空へ上がる。合計五機のヴルムがクララに近づいてくる。だがどうも様子がおかしい。

 ヴルムはクララを囲むどころか、やけにゆっくりと近づいてきている。


 警戒されているのか?


 クララは目を細めてヴルムの出方を伺う。そのうち一つの機体が可笑しな動きをしていることに気付いた。銀色の機体だらけの中、一つだけ真っ黒に塗装されている機体だ。

 黒い機体はヴルムの赤い目を不規則な感覚で光らせている。


「これって……何かの暗号、だよね」


 となると、考えられるのは――。第三信号。


 第三信号は言語を通じず、会話する方法の一つ。三番目に開発された方法だから文字通り第三信号と呼ばれている。

 第一信号は文字を暗号化し、暗号を書いた紙を相手に渡すことで会話をする。第二信号は話し言葉を暗号化し、会話をする。そして第三信号は言語でなく、何か物を叩いて音を出しその音の間隔で会話をするというものだ。


 黒い機体が第三信号の応用をしているとすると……。


 クララはヴルムの赤い光の間隔を数える。


 ええと……。

 ニ、ゲ、ロ……。ウ、シ、ロ。ウ、シ、ロ……。


「……後ろ?」


 クララはバックミラーで後ろの様子を確認する。


「!!!」


 後ろに白のヴルムが八機――いた。


「は!?」


 前に五機、後ろに八機。挟み撃ち状態だ。その間にも黒いヴルムはハヤクニゲロと暗号を出してくる。

 が、クララには逃げようにも挟み撃ち状態で動きようがない。


 ハンドルを握っている手に汗がぽたりと落ちた――。


 ディァァァァァン!!!


「!!!」


 それと同タイミングで鼓膜が破けそうな爆発音が鳴る。


 クララは耳を塞ぎたいのを堪え、必死にハンドルを右に回した。クララの目の前が爆発によって白く染まる。


クララのいる世界の文明(主に科学や工学)は私達のいる現実世界よりちょっと進んだ世界、くらいです。

私達というより日本と違うのは、民主制でなく王様や王子様が政治を治める君主制ということくらいですかね。ただクララのいるレーゲン国が君主制なだけで、民主制も少数ではあるけれどいます。

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