襲撃 2
クララはアードラーに乗り込んで一気に空へ舞い上がる。恐いことには恐いが今のクララは興奮状態にあった。
私一人に国民の命がかかっているんだ。
クララは空から地上を見る。街は瓦礫状態だが前回より大幅ではない。まだ立て直せる状況だ。
「クララ、聞こえるか」
唐突に曹長のクンペルの声がヘッドフォンから聞こえる。
「はい」
「エーレントの元へ向かってくれ」
「え?」
正面の画面の左上に地図が表示させる。黄と白の点が浮かんでいる。黄色の点はクララ、白色の点はエーレントの場所を示している。
黄と白の点の間がかなり空いていることにクララは思わず首を傾げた。
……?
そういえば……とクララは後ろの画面を見る。画面には何も映らない。エーレントが後ろから着いて来ているものだと思っていたが、アードラーの速度が速く着いていけなかったようだ。
そんなに勢いよく飛び出した覚えはなかったけれど。
クララは気持ちを切り替えて「はっ」と返事をする。
「ところで曹長は」
「俺は他の人の援護で精一杯でして」
「曹長、敬語が出てます」
クンペルはゴホンと軽く咳払いすると「ともかく」と話を続ける。
「エーレントが多勢の敵に囲まれている。かといって援軍はやれない。階級が上の者はそれぞれ交戦中。下の者を援軍に送れば無駄死にになる。クララなら大丈夫だろう。頼むぞ」
――頼むぞ。
その言葉に心がホッと温かくなる。
少なくとも私は無駄死にしないと思ってくれている。それがとても嬉しい。
クララはにやけた顔を引き締めた。
「はっ。お任せを」
クララは一気に速度を上げて来た道を引き返した。
数秒、クララの目に白のヴルムが映る。それもかなりの数だ。その白のヴルムの中にかろうじてエーレントの乗っている銀のヴルムが見えた。
白のヴルムはニ十機を超える。対するこちらはクララがエーレントと共に戦ったとしてもたったの二機だ。
敵に囲まれていると曹長は言っていたけれど。ここまでとは聞いてないっ。でも。だからと言って。エーレント伍長を見捨てることは出来ない。それに「頼む」という言葉を裏切るわけにもいかない。
クララはスッと息を吸い込んで覚悟を決めた。銃を敵に向けて構える。そして一気に撃った。一発目、見事に一機撃墜。二発目、当たりはするものの敵に動きを読まれ銃弾が肩に掠っただけだった。
「クララ! 戻ってきたか。見捨てられたかと思った」
「すみません!!!」
クララは敵の様子を注意深く見ながらヘッドフォンから聞こえるエーレントの声に耳を澄ます。
「とはいえ、やつら俺がアードラーとわずかに離れた隙を狙われた。やつらの狙い通りだったわけだ」
エーレントはすぐさまクララの介入で混乱している敵に銃を向ける。さすがは伍長とクララは思ったものの、その考えはすぐに取り消すことになる。エーレントは銃を敵に向けて撃つものの躱されてしまう。というのも相手のヴルムの方がフルーク国のものよりもわずかに早いのである。
クララは思わず眉をしかめた。
私が前に出るのが一番いい。けれどアードラーには重大な欠陥がある。それは……。防御力。一撃撃たれてしまうだけでも致命傷になる。この防御力で前に出てニ十機と戦うのは分が悪い。
「クララ!」
エーレントから通信が入る。
「クララは俺の護衛を頼む」
「え!? ですがっ」
クララが反論しようとすると「話を聞け」と一喝される。
「俺が攻撃しても躱されるのは分かっている。アードラーの方が早いのは敵にもバレているだろう。だからアードラーが先行してくる、と普通なら考えるはずだ。だから裏を突く。俺がそのまま敵を攻撃、躱されたところをクララが一気に叩いてくれ」
クララはゴクリと唾を飲みこんで「はっ」と返す。その途端にエーレントは敵に突っ込んでいく。
「!」
クララはエーレントのヴルムを追い越さぬように速度調整しながら後ろにピッタリとつく。
エーレントはひとつの機体に狙いを定め、銃の引き金を引く。が、やはり相手の方が早い。敵はエーレントの動きを読んで躱していく。
クララは敵のヴルムに囲まれないよう時に速度を上げ敵と距離を取りながら、エーレントが狙いを定めた敵の機体の背後に回り込んだ。
――ここだっ。
クララは目を凝らして敵のヴルムの頭を狙い、撃った。ヘッドフォン越しに鋭い乾いた音が聞こえ、敵の白いヴルムは地面に急降下していく。
当たった!
クララがわずかに興奮状態の中、エーレントの「このまま全機撃ち落すぞ」という声がやけにはっきりと聞こえた。
いつも読んでいただいてありがとうございます!
一応恋愛ものでもあるんだけどなーと思いながらここまで来てしまいました。あれ?なんかイチャイチャもしてないどころか、お相手が誰だか分からないぞ、と。いや私の中では決まっているのですが。果たしてそれでいいのか分からなくなってきました。