いざ勝負! 2
クララは深く息を吐きながらヴルムから降りた。目の前には同じく息を吐きながらこちらを睨むエーレントの姿があった。
クンペルはそんなクララとエーレントの間に向かって歩き出す。吸い寄せられるようにクララとエーレントもお互いエーレントに向かって歩き出した。
「「「……」」」
三人で向かい合う。クンペルの下がった眉と対照的に、エーレントの吊り上がった目がクララを睨む。
最初に口を開いたのはクララだ。
「私は負けました……。エーレント伍長の望み通り、アードラーのパイロットを下ります。なんならこの国から出て行きます……」
負けたんだ、私は――。
エーレント伍長の操縦術は凄かった。下からでも攻められる操縦技術、どんな状況でも相手の裏をかくころができ、常に範囲と高度計を気にする冷静さ。クララの敗けた原因は経験の差だった。
それをクララは知っていた。
クララは伏し目がちにエーレントを見る。エーレントはジッとクララを見たかと思うと口を開いた。
「……お前の実力はよく分かった。あの並外れた動体視力はフルーク国に勝利をもたらす。だが負けは負けだろ」
「……はい」
クララは素直に頷く。
「というわけだから、これからの鍛錬場での訓練は人より二倍やれ。まずはその貧相な手足をなんとかしろ」
「え……」
「それからアードラーだけじゃなく違うヴルムにも乗って感覚を慣らしておけ。以上!」
「え……」
次々と予想外の言葉を浴びせられ、クララは口をパクパクと開けるしかできない。そこにクンペルが「今回は伍長の方が一枚上手だったみたいだな」とクララの肩に手を置いた。
「これからもフルーク国のパイロットとしてよろしく頼むよ」
クララはクンペルからエーレントに視線を移した。真正面からエーレントの視線を受け止める。
吊り上がった目は相変わらずだったが、その瞳の中に優しさが見えた気がした。
認められた……ということだよね。
そう思うと胸がキュッと締め付けられる。クララは泣かないよう拳を固く握り、頭を九十度下げた。
「ありがとうございますっ。私、頑張ります。フルーク国で、精一杯っ、頑張ります」
「頼りにしているよ」
クンペルはクララの肩を軽く叩くと「さて」と大声を張り上げた。
「時間をとられたがまだ鍛錬は終わっていないぞ。今からすぐに鍛錬場に戻り、ニ十周再開する」
クララとエーレントはお互いに顔を見合わせてから、より一層大きな声で「「はっ」」と返した。
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
エーレント伍長の性格をどうするか。最後まで悩みましたが、結局悪人になれず。いい人になりました。
次回あたり。久々に王様を出したいなーと思ってはいるけれど。どうかなぁ~。