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いざ勝負! 1

 クララは集団エレベーターにクンペルやエーレントと共に乗り込む。エレベーターはグングンと上がっていく。やがてチンと古びた音が鳴ると、扉が開いて明かりが差し込んだ。

 周囲には家も木もなく、野ざらしの更地が広がっている。


「あのクンペル曹長。ここは……」

「西のヴルム演習場。鍛錬場の上だ」


 クララは「ほう」と息を吐く。これだけの土地があれば演習も目いっぱいできるだろう。そう思ったが。


「本当は障害物があったんだが。この前の襲撃で全てなくなってしまってな」

「っ」

「演習場と住宅街をわける壁もあったんだが。この通りだ」

「そ、それじゃあ」


 本来ならこんなまっさらな更地じゃなくてもっとぐちゃぐちゃした場所だったんだ。


 サアと冷たい風が通り抜ける。砂埃だけが虚しく舞った。クララはそっと目を閉じて心の中で亡くなった人たちの冥福を祈る。


 どうか。安からかに――。


 しばらくするとサクッと土を踏む音がしてクララは思わず目を開けた。隣に立ったのはエーレントだ。


「これでよく分かっただろ。お前みたいなのがヴルムに乗るなんて。この国にとっては不安要素しかないんだよ」

「……」


 クララには言い返せる言葉がない。先程はなんとかこの国でやっていかなきゃと思っていたけれど、こうして戦争の跡地を見てしまうとその意気込みは削がれてしまっていた。

 クンペルはそんなクララの様子を見てか、優しくクララの肩に手を置く。そしてエーレントへ視線を向けた。


「クララが勝ったらとやかく言わない。そういう勝負だ。これは」

「分かっております」

「ならいい」


 クンペルは頷くと視線を後ろに向けた。エーレントとクララもつられて振り返る。するとゴゴゴゴと足元が揺れ、後ろに見える山のちょうど下の地面が割れた。


「っ!」


 地面からはヴルムの銀の頭部が二機見え始める。続いて肩、胴とヴルムの全体像が見え始めた。足まで完全に見えたところで揺れはおさまり、クララはホッと一息つく。だがクララはヴルムを見て少し眉を寄せた。シュティルと戦争に巻き込まれた時と見たヴルムとは違う。この国の銀のヴルムであることに間違いはないが、やけに古びていて損傷している部分もある。


 クララは「あのー」と控えめに手を上げる。


「正式機体じゃないんですか」


 一番気になったのはそこだった。レーゲン国では演習といえども実践を想定されていて、機体も戦争時と同様のものを使用していたからだ。

 だがクンペルは「あ~」と頭をポリポリと掻く。


「フルーク国はそんなに裕福でもなくて。領地も小さいし。だからどうしても演習では使い古された機体になってしまうんだ」

「な、なるほど……」


 クララが頷くとエーレントが「クンペル曹長。そろそろ始めても」と声をかけた。


「あ、ああ。そうだったな。エーレント伍長は分かっていると思うがクララは始めてだから。ルールを一応説明する。勝利条件は先にカラーボールを当てたものとする。当てる場所はどこでもいい。ヴルムの動ける範囲は二万平米まで。前は壁があったが今はないからな。オレがその範囲から出そうになったら通信で合図する。飛翔高さは四百メートル。これはヴルムの気圧高度計と電波高度計を見てくれ」


 クンペルはここまで一息で言い切って、スッと息を吸う。


「それじゃあそれぞれヴルムに」

「「はっ」」




 ヴルムの足が縦に開いて中にある椅子にクララは腰かけた。その瞬間、ピピッと音が鳴りズィッヒャーベルトで体を固定される。

 どうやらこのあたりはアードラーと変わらないらしいとホッとしながら、体が上昇していくのに身を任せる。

 操縦席もアードラーと同じだ。一面ガラス張り。操縦桿にボタン板も同じ。


 クララはフーと長い息を吐いて緊張を和らげる。震える手で赤いエンジンボタンを押した。


 やっぱり……。心の中では虚勢を張ってはいたけれど緊張しているらしい……。この国で自分の居場所を得るためにはエーレント伍長に勝つしかない。


 ボボボボとエンジン音と共にヘッドフォンが下りる。クララは唾を飲みこんでヘッドフォンを装着した。


「エーレント伍長、クララ聞こえるか」


 すぐにクンペルの声がヘッドフォンを通して聞こえてきた。


「はっ」

「はっ」


 エーレントの声に少し遅れてクララも返事をする。


「それではお互い距離を取って」


 その言葉にクララとエーレントはお互い百メートル程離れてから向かい合う。スッとクンペルの息を吸う音が聞こえた。


「はじめ!」


 開始の合図がした瞬間、クララは一気にヴルムを最高速度で急上昇させる。だが。


 お、遅い……。


 一度アードラーに乗ったからか、普通のヴルムの速度に逆に慣れない。

 クララが戸惑っていると出遅れたエーレントが下から次々と赤のカラーボールを撃ってくる。クララは速度に戸惑いつつもしっかりとカラーボールを目視し、次々にカラーボールを避けていく。


「チッ」


 ヘッドフォンからエーレントの舌打ちが聞こえた。

 クララは高度計で速度を規定値ギリギリに保ちながらひとまず五つ連続して青のボールを下に向けて発射する。エーレントはこちらに向かって上昇しながら避けてくる。それどころかクララに向けてカラーボールを撃ってきた。


「!!!」


 強い! 普通はこういう上空戦は相手の下にいる方が不利なのにそれをものともしない。さすが自分で「この中でヴルムの操縦技術が一番上手い」と言うだけはある。

 でも! 負けられない!


 クララは後方に下がりつつ、カラーボールを避ける。

 エーレントはそれを逆手にクララの後方に回ってきた。クララは咄嗟に盾を構える。だがそれをエーレントは読んでおり、カラーボールではなく蹴りを盾に入れてきた。


「っ!」


 衝撃がくる。クララのヴルムはバランスを崩し、エーレントより下に下がってしまう。


 マズいっ!!!


 そう思った時には遅かった。エーレントはここぞとばかりにカラーボールを撃ちまくる。クララは操縦桿を強く握り、この状況をどうにかしようと必死に頭を働かせる。だがエーレントに猛攻撃されて冷静に考えられなくなる。頭では上に上がらなくては、と思っているものの、手が勝手にカラーボールから逃れようと下へ下へ操縦桿を降ろしていく。

 やがてヴルムの足が地に着いた。砂埃がヴルムの衝撃でかすかに舞い上がる。


「終わりだな」

「!」


 エーレントの声がやけにハッキリと聞こえた。クララはグッと下唇を噛む。


 負けられない、負けられない、負けられない――。


 クララは咄嗟にヴルムの左足を上げる。そして思いきり土を蹴り上げた。


「何っ!?」


 両者とも視界が砂埃にまみれる。そんな中クララは最高速度で機体を急上昇させる。エーレントはまだ砂埃の中だ。

 クララはスッと息を吸って銃を構える。砂埃は徐々に薄れていき、相手のヴルムの頭頂部が見え始める。


 今だっ。


 クララは頭頂部を狙ってカラーボールを一発、撃った。見事相手の頭頂部はカラーボールの青に染まった。


 当たった……。勝った。私の勝ち……。


 沸々と実感が湧いてくる。


 私の……勝ちっ。


 グッとガッツポーズをつくった。その時だった。


「クララ、君は失格だ」

「……へ?」


 クンペルの意外な言葉に思わず素っ頓狂な声を出してしまう。


「な、何故ですか」

「高さが超えてしまっている」

「高さ?」


 ………………。


「っ!」


 クララはハッとして高度計を見る。高さは規定されたルールより上の数値だった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。感想、レビュー等いただけたらめちゃくちゃ嬉しいです!



今回は高度計について解説します。


気圧高度計。これはほぼ全ての飛行機に搭載されているものです。地球の大気は上空に行くほど気圧が小さくなっていきます。簡単に言うとその気圧に合わせてメモリが動きます。


電波高度計。これは飛行機の機体の下のほうに電波を送信するアンテナと受信用アンテナの二つがあり、送信アンテナから地上に向けて電波を飛ばすと跳ね返って受信用アンテナにキャッチされます。この時にかかった時間で高度を判定します。


ちなみに現代ではGPSアンテナというのもあるのですが、この世界ではそこまで技術は発展していないということで。登場しておりません。

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