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銅鑼武者  作者: 二笠
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在り様

俺は今、スダダデデデンと水面の動きで微妙に異なる音の違いを楽しんでいる。僅かなチューニングの違いよりも繊細に、そして大胆に変わっていく音の変化と、それを扱えつつある自分に感動している。


「ふぉぁあああああぉぁ!」


問題は足がお留守になっている所と、ハイハットの響きを聞けない部分なんだが・・・代わりの素材は見つかっていない。鬱憤を晴らすように空中を切るが、空気を引き裂くようにヒュバッと鳴らすだけだ。


「ああぃゃっ!」


だがしかし、異世界二日目にして俺は新たな境地を切り開いた。


ッシャァァン!


振りぬいたその右腕の方から、美しい音が鳴り響いた。天高く何処までも広がるような音が二日ぶりの再来を伝えてくれる。


「き、きたっ」


揃ったッ!!ドラムセットがついに!


湖畔からシュバッと立ち上がり、スティックを両手に俺は仁王立ちをした。そしていつも座っている岩を睨みつけ、足元の食い散らかした魚の残骸を見やる。いける。土はバス、空はハット、水と生物はスネア。


だがここで問題がある。俺のスティックは二本しかない。本来のドラムセットにはフットスタンプが出来るように、バスの近くにはもう一つの手があるべきだ。しかし、ここは異世界。


「生身で・・・再現するしかないか」


そして俺の修行は始まった。


スティックで岩を削り出して椅子の形にするのは楽勝だった。叩空ハットも十割で鳴らせるようになった。スネアは空中を飛ぶ虫を叩けるようになったし、挙句の果てに素足でバスを鳴らせるようになった。アレ以来、俺は靴を履いていない。


そして三年が過ぎる頃、俺の手には既にスティックが握られていない。ジョン・ボーナムのように素手で再現できるようになったのだ。しかも俺の音は指の一本一本から再現できる為、ツインドラム以上の連弾が可能になっている。


ドドド、ドドドドシャ、ダドスタ、ダドスタ、ドスタ、タン、ドシャダダダドダァン!この間、僅か1秒未満。


「今日も叩き切ったぜ・・・」


今の俺は岩になど座っていない。中国拳法の站椿よろしく、空気椅子の姿勢を保っている。これがもっともリラックスできるとでも言わんばかりのスタイルだと信じられるのだ。


タ、シャン!


指を二本動かすだけで自在に音が出せる。否、音は俺の一部だ。微細な空気の動きの変化で、声で喋るように発音できるようになっている。俺の指が俺の声だ。


コレガ(タタタン)

サイコウ(スダシャン)

ナンダゼ!(シャダン)


今日も今日とて、感無量である。



***



二年目に魔王は居ない事が判明してから一年。私は城を脱出し、国を出奔して冒険者兼商人となった。正答スキルのお陰か、案外簡単に魔法を覚える事が出来たからだ。知識はあの国の禁書庫も含めて網羅してある。魔導書、技術書、恋愛小説まで閲覧できる内容は全て閲覧した。その全てを覚えている私の存在は、あの国にとって放置できない存在だろう。


だから強くなった。大魔導士と呼ばれる程に様々な魔法と道具を使い、地球で習った護身術の合気道を基に、様々な拳法を修めた。今では身一つで暗殺者を躱せるようになっている。且つて一緒に転移してきた連中も、私以外で生き残っている者、行方不明な者、死を確認した者はそれぞれ把握している。だからなんだという話でもあるのだが・・・。


「とうに希望など捨ててますよ・・・」


当時城に残った者は全員、私と共に出奔しているか、殺されたかしている。諸外国で生き残って、復讐を果たそうと戦争まで起こした同郷人もいる。お陰であの国は今も戦乱の最中だ。私は関わっていないが。


生き残った者は全員、戦いの中に身を窶している。戦いの役に立たないと思われていた者ほど生き残っているというのは皮肉だ。彼らは今も民の生活に溶け込み、一市民として生活しているふりをして、どこかで裏社会と関わっている。ただ一つの目的のために。


「いつになれば、ですか」


連絡用に受け取った紙片を魔法で燃やす。


彼らは今も、あの世界に帰還する事を諦めていないらしい。


私はもう諦めた。


そういえば、彼はどうしているだろうか。


ああ、何となく生き残って居そうな気がする。


また街を出る。魔法で移動距離を稼いでいるから、私一人なら馬車の数倍の速さで移動できる。


行方不明者が全員見つかったら、諦めてた気持ちも再燃するのだろうか?


ふと、故郷の両親の顔が浮かんだ気がした。

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