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銅鑼武者  作者: 二笠
4/5

スキル

武士は食わねど高楊枝と言うが、武者デーモンはどうだろうか。


「食えねえな」


追放刑に会い、飛ばされた森の中で湖を見つけ、蔦に括り付けた虫を使って、バスフィッシングのように70センチくらいの魚っぽい何かを丸一日かけて手に入れる事に成功した。もう夜明けである。何者にも襲われていないのが不思議である。


段々と目が落ちくぼんできた魚?を焼くために、平らで真ん中だけ凹んでいる石板を敷いて、枯れ葉や蔦などを利用して棒を高速回転させた摩擦熱から発火させようと努力してみた。予想以上の速さで成功し、度々、棒がへし折れる事故が起きたが火の確保に成功。


枝に刺した魚を焼いてみたが、魚は体内から泡と溶解液らしき何かを溢し始めて骨だけになってしまった。


「内臓を取り出して焼いたのにダメ、ということは・・・肉そのものがアウト?」


絶望である。


草は知識が無いから食べられない。

鳥はこれまで一羽も見ていない。地上を歩く動物も見ていない。よって肉は確保不能。

唯一ある水は目の前の湖から大量確保可能。


「餓死エンドなんて・・・ご無体な・・・腹減ったよ神様」


少なくともあの金髪に言ったのではないだろうが、無神論者が神に縋る時はまだ余裕がある時が殆どである。


「くそっ、道具を見直すか。スキットル、ドラムスティック(仮)、兜(器代わりになる)、着火用の石板」


それぞれを並べて何が出来るのかを考えてみた。ダメだった。

相棒であるスティックは本当に武者が知っているスティックなのか、管理者とやらに挿げ替えられていないか不安なのだ。

何となくスティックで尻の下の岩を叩いてみるが、あの聖剣とやらを叩いた時と同様に、ドゥンとバスドラに似た音がした。


「これも不思議だよなぁ・・・今のところ不思議アイテムは相棒(仮)だけか」


今度はスキットルを叩く。同じように低温が響く。

お次は骨だけになった魚?の頭骨を叩く。


テンッ。


「えっ」


先程とは違ってスネアに近い音が鳴った。同じように地面を叩くと重低音が響いた。


「つまり、金属や土といった地面から出来ているものはバスになるのか?生物はスネア?」


じゃあハットは何だ?と武者ドラマーは湖へ向かった。水を叩くためだ。


テンッ。


「はっ?ちょっと待って、生物・・・?この水が生物???」


意味が解らない。微生物のせいか?あと、水面を叩いただけで溶解魚が寄って来たぞ。

テンテンテテンッと水面を叩くと、仄暗い水底から数匹が上がって来た。ハーメルンの笛吹きのように岸に誘導すると、そのまま素手で掴み取る。遅いのだ。魚の動きが。


「剣も遅かったよな。何か、この世界って案外チョロいのか?」


今、まさに餓死しそうになっている男のセリフとは思えない。

呑気野郎は何を思ったのか石板の上に魚の一匹を置き、頭部を手掴みで引き千切り、内臓を書き出して磨いておいた骨で同種の魚の身を剥がしてツミレのようにしていった。


加工過程で手についたツミレ肉の破片をジッと見ている。おもむろにその指をくわえた。


「・・・・・うめえ」


余程の高温にしなければ食用に耐えられるのかもしれない。朝日と共に武者デーモンが魚を頬張る姿はシュールだった。



***



住居と食事、そして訓練環境を与えられて、やはりというかなんというか・・・ノーベ・ソドラ連合王国の戦力として迎えられた。相変わらず王族からの扱いは悪く、日本で言うところの国会議員に該当する人たちからも扱いが悪い。最初の数日に挨拶されてから会ってないけど。


それ以外の兵士さんや城で務めてる使用人のみんなはやさしくしてくれている。時々、常識がかみ合わないことがあるくらいで、道徳観念や倫理観に大きな違いは無かった。


私たちは勇者だ。

勇者とは召喚によって異世界から呼び出され、最初からスキルを持って即戦力としてさまざまな場所で活躍できるらしい。事実、戦闘に関するスキルは少ないものの、生産業や文化面で活躍できる人も多かった。


本来スキルというのは、人生を通して死に物狂いで鍛錬を行い、人間国宝と呼ばれるまでに至ると手に入るものらしい。テンプレよろしく、人に羨まれ、嫌われ、好かれ、色々あって姿を消した人も2~3人出た。消されたのか、自分から姿を消したのかは不明だ。


「武者ドラさん無事かな・・・」


いつものように、訓練環境として用意され、国が用意したサポート要員に囲まれながら食事をとる。私の呟きには誰も返さない。サポート要員とは名ばかりの監視員だから。逃げ出したひとが出た以上、折角召喚した勇者を逃さないように囲っているんだろう。


私のスキルは『正答』だった。


これは問題に対する正しい理解を得て、更に任意の誰かに同じ理解をインプリントするかのように、私の持っている情報を理解させることが可能というスキルだった。体と体が接触さえできれば、私がスキルで理解した事を他人に学習させられるという事だ。


努力する人を馬鹿にしたようなスキルだが、情報は一人にしか渡せないし、今のところは理解させるのに一日以上かかっている。その間は食事も出来ないし、トイレにも行けないので、同性の人とトイレに篭もりながらスキルを発動するしかない。結局試した時は途中でキャンセルしてトイレに行ったけどね・・・。


武者ドラさんにも何らかのスキルがあるのだろう。でないと、あの強さは理解できない。彼が叩き折った聖剣も、完璧に対応して見せた剣技も、連合王国最強の剣と剣士なのだそうだ。アレがスキルじゃなかったとしたら、武者ドラさんは人間を辞めている可能性もありそうだ。顔。鬼みたいだったからね。


朝ごはんを食べたら、今日も国立図書館で難解な文字が並ぶ古書の解読をやらなければいけない。匙を投げられた買い得と、私のスキルトレーニングの両立なのだそうだ。内容を見るに古代の兵器関連が多いから、それをそのまま伝えてはいない部分も多い。むしろそっちに頭を使う事が多いので、私としては真っ当にスキルトレーニングに専念できる場所とは言い難い。


他の日本人?

もう何週間も会ってないな・・・。

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