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銅鑼武者  作者: 二笠
3/5

代償?

結論から言うと、足元の紫の魔法陣?が輝いて武者は何処かへと転移させられてしまった。強制追放、国外追放だろうか?これが追放刑って奴か、と武者ドラマーは一人、森の中にあった湖のほとりで佇んでいた。尻の下の岩は冷たく、ひんやりと体温を奪っていく。夏場用のレザーパンツなので効果倍増である。


「取れねぇ。でも唇がマット加工のレザーって新鮮だな」


境遇を儚んで、夢幻かを確認するために自分の顔を摩っているのではない。「単におもしれーから」だ。呑気でアホである。ただ、追放刑にされた原因としては明白なので、これを脱ぐことが出来なければ、この異世界?の何処に行っても同じ扱いを受けることになってしまう。


「毎回のように水場の近くって訳じゃないだろうしなぁ・・・取れねぇ」


水面を眺めて自分の状態を確かめた時には目を疑っていた。武者の顔はマットレザー(黒)に変化しており、表情筋に合わせて各部位が問題なく動く。不気味の谷とかを軽く飛び越えて、作り物の違和感は皆無だ。


「眉毛とまつ毛と頭髪をロスト。代償がキツ過ぎませんかね?あの金髪に文句も言いたいけど、無理っぽいよな」


大切なものを失う。あの金髪はそう言っていた。確かに薄毛に悩んでいた俺は、命の次くらい、そしてドラムセットよりも上位で頭髪を大切にしていた。月のケアコストは万単位だ。延命処置に必死だとかは誰にも言わせない。そんなこと言われたら世界中の同志にハゲラルネットワークを用いて情報共有してやる。そして発言した奴を社会的ストレスで勧誘してやろう。なぁに、死にはしない。少しだけ毛根が疲弊するだけだ。


などと下らない事を考える余裕はあるらしく、武者ドラマーは岩の上に座って虫を括り付けた縄紐を手に、獲物が掛かるのをじっと待っていた。




***勇者サイド:一人称***




目の前が紫色一色になると、武者ドラムさんの姿は消えていた。確かに顔が気持ち悪かったけど、いきなり襲い掛かる程だろうか。いや、それくらいに怖い何かがあるって事なのかもしれない。


私は彼が武者ドラムという名前で、もうつべのストリーマーとして活動している事を知っている。ライブは毎週のようにペリキュアを見た後で視聴しているし、アーカイブや企画動画も飽きずに見返している。確かに彼は日本人だったはずだ。あの顔以外は特徴が合っているし、声も同じだった。


ただ、この場所だけが異質なんだ。だからドラムスティックで剣を折ってしまうし、鎧も粉々にしてしまうんだと思う。それに彼らは私達を勇者と呼んでいた。良くある異世界召喚物のセオリーかと思ったけれど、国王が死んでからは彼らが私達を見る目に変化があったように思う。


異世界召喚には理解がある方だと自認している。そういう、オタクっぽい人間の枠に当てはまると思うし、武者ドラムさんが演奏していたゲーム音楽も実機プレイでゲームクリアしたものが多いから好きになった。そう言った自分を隠すためでもあるけれど、他者の機微にはかなり敏い方だと思う。


殆ど初対面だから変化に気付きにくかったけれど、最初はもっと穏やかな顔をしていた。アレは王を殺された憎しみじゃなくて、差別と侮蔑の目だ。アレが本性だとは思いたくないけど警戒したほうが良いな。


「あ、あの」


小声で隣に居た女性が私に声を掛けて来た。顔を向けると再び小声で続ける。


「小鳥遊メイルさんですよね?三分鎧クッキングメイクの」


思わず顔をそむけたくなった。三分鎧クッキングメイクというのは私が動画アップロードだけを行っている、もうつべのチャンネル名でもある。まるで鎧を顔に装備したかのように、三分で別人になるメイクの参考動画を色々と上げている。その中には〇暮閣下になれるメイクなどのネタ系も多く、あまり吹聴できるようなチャンネルではない。


素顔を出しているし、かわいいーなどとコメントが来るが、こんなヒラメ顔のすっぴんを見て言っているのだから、逆に胃が痛くなるんですよ。だから、余り突っ込んでくれるなという苦笑いで返した。


「どうも・・・それより今は黙っていた方が良いですよ。彼らを刺激しない方が良さそうです」


「?」


サイコパスかな?異世界人とは言え、人が死んでるんですよ!

私たちの事を勇者呼びしていた事から、「あの勇者使えねぇ!」「死ね!」「折角召喚したのに役立たずが!」とか言われて憎しみを心の内で育てているのかもしれません。完全に逆恨みか八つ当たりだと思うんですが。それを正直に言うと爆発するんだろうなぁ。


「とにかく静かにしておきましょう・・・」


「はいっ」


見た目、高校生だから、私より5つ年下くらいだろうか。これでコスプレしたOLですとか言われたら、どれだけ童顔なんだとキレるかもしれない。


心の内で軽い溜息を吐きながら、何かの魔法で武者ドラムさんを消し去った人が、疲弊して膝を着いた状態から立ち上がり、私達を案内してくれた。尚、王族らしき方々からは終止睨まれていた。早々に他地域に行きたいですね。


そう考えつつ前髪を顔の横で弄る癖が発動するが、いつものように指でシュルシュルと遊べなかった。精神的に追い詰められているんだろうか。指先が器用なのは自慢だっただけに、少しだけショックだ。

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