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銅鑼武者  作者: 二笠
2/5

武者デーモン

「・・・なさい・・・おきなさい・・・起きなさい!」


段々と剣呑として来た声色が武者ドラマーの耳に聞こえてくる。耳元で大声を上げられれば目を覚ますのは必然。そんな事をする奴の機嫌が悪いのも必然。第一声に困るなぁと思うのも必然。


「誰だお前」


起きたら俺の部屋に金髪金眼の長髪野郎が武者ドラマーを睨んで立っていた。真っ白な背景をバックに、ベッドで寝ている男を見下ろし、否、見下しつつ無体で無礼な第一声に気分を害したようだ。というか俺の部屋じゃない。どこだ此処は?しかし状況から言って不法侵入の非があるのは金髪の方である。武者は納得がいかない。


「私が誰なのかなど、どうでもよい事です。用件を伝えます」


捲し立てるように発現した金髪は、氷のような目で武者を見下しながら言葉を続けた。


「あなたは我々の管理する世界に召喚されました。その際、毎度の如く、我々に多大な迷惑が掛かっておりますので、通行料としてあなた方の大切なものを一つ頂いています。以上です。それでは」


「は?」


振り返りつつ姿が薄くなった金髪は、武者の前で姿を消した。有無を言わさず消えていった金髪に聞きたい事は沢山あるが、もはやそれは叶わない。真っ白だった背景は徐々に色と形を現し、周囲に見覚えのあるスーツや、ブランドロゴの入ったジャージ、去年流行ったらしい服装の男女が現れた。


足元には紫色に輝く模様があり、模様の向こうの景色はレンガの壁と水色ドレスにティアラを頭に乗せた女が複数。そして赤く豪奢な巨漢とその周囲には黒い鎧を着た人間が脇役のように侍っている。というより囲まれている。


「あれ?ここどこ?」


「なに、なんなの!?ユウトどこいったの?ユウト!?」


「・・・」


「これって・・・まさか・・・・・」


「あぁ・・・」


様々な年代、様々な服装の男女が中央の紫模様の上に20人程度。彼らは殆どが黙りつつ、一部は子供か恋人かが消えた事でパニックになっている女性もいる。何かを納得している学生服を着た男の子達はニヤニヤと、ティアラを被ったドレス女たちを眺めている。


その中でも最も異質なのは武者ドラマー。

鬼面。見慣れない兜。レザーの赤と黒。指抜き手袋の中二感。そして汗だくで腰に刺したスティックが二本。片手には持ったまま寝てしまったのか、大き目のスキットルが銀ギラの光を反射している。


一斉に黒い鎧達とドレス女たちの視線が彼に集まった。無理もない。


「馬鹿な!なぜ魔物が!」


「勇者達を避難させろ!話はそれからだ!」


突然に喧々囂々となりながら、同郷っぽい皆さんは無理矢理に腕を引っ張られ、武者ドラマーの周囲からは人が消えた。紫の台にオンリーワンステージである。ワンマンライブはドラマーでもありなんだっけかと、当の本人はそれを見て、やけに冷静になりながらぐるりと周囲を見渡していた。


「・・・・・うん。違うから。魔物じゃないから。ていうか作り物なのは見れば解るだろ」


自分の顔を指さしながら、近くの黒鎧の一人に話しかける武者。だが、本人は気付いていない。その面の口元が動いている事に。レザーの質感に近付けた黒い鬼面は、とてもしなやかに且つ美しく恐ろし気にその表情を動かしていた。


「黙れ。デーモンが」


シャリンと音を鳴らしながら黒い鎧の男は、銀色の剣を引き抜いた。


この世界の常識として、デーモンは一体で街を滅ぼす程度の脅威度であるため、優先駆除対象だ。デーモン研究家の言葉が黒鎧の脳内に「デーモンは楽しいから街を滅ぼすんだよ。実際に私たちデーモン研究家の何人かは、駆除される前のデーモンに質問しているからね。答えを聞いたうえで生き残っているのは運が良かっただけだ・・・」とリフレインしていた。であるならば、目の前のデーモン(仮)も何処から現れたのか。召喚魔法に紛れ込む形で、現在地の王都を滅ぼすつもりなのか。そうに違いない。街の結界を超える方法として、召喚魔法を利用したのかもしれない。それよりも今は、と思い直しながら銀の聖剣を構えた。


「おっ・・・その音、まじ、ってーか本物にしか見えないんだけど・・・ははっ」


「問答無用。悪しき魔物よ。どうやって紛れたかは知らぬが、我が聖剣で滅ぼしてくれる!」


物騒な事を言いつつ、五メートルはあったはずの距離を、重量感たっぷりの鎧男が飛び掛かる。剣の長さは一メートルを超え、剣身は太く、どう見ても両手用の大剣です。死にます。きっと体がロールケーキみたいに切り分けられてしまうんだろう。


やけにゆっくりとした跳躍を見つつ、武者ドラマーは黒鎧を眺めていた。だが、何もしないと、このまま死んでしまう。腰のスティックを何故か取り出し、本人の自意識の中ではゆっくりと、体を動かして回避を選択した。不思議と自然に体が動き、振り下ろされた剣に当たらないようにスティックと体を退かす。


聖剣とやらは紫色に発光した地面に叩きつけられ、やけに深く、そして長く、地面を割った。派手な音がした後で後ろを振り返りつつ黒鎧から離れると、地面から続いて壁、天井へと切れ込みが伸びていた。


「こっわ・・・」


「おのれぁ!」


忌々し気に叫びつつ、中学の時に倣った胴抜きのような感じで横に一閃された。そこで考える余裕があった事に疑問は感じなかったが、さてどうする。


答1:ジャンプして避ける。運動不足の武者に一メートル以上を跳躍しろと?不可能だ。

答2:しゃがんで避ける。若干斜めになっているのと、合わせて軌道を変えられて切断されそうだから無理だ。

答3:受ける。どうやって?


それは自然に不自然な動きをしていた。片手に持った一本のスティックを、陽炎のように迫ってくる剣に当てた。きっとスティックは切断されるだろう。武者はそう思って異常にゆったりとした時間の中で自分を責めていた。これじゃ、ただの自殺だろうと。


ドゥム!と音が響いた。まるでバスドラを鳴らしたかのような、重く響く音だ。いや、何で金属に木の棒を叩きつけて、折れないどころかカンって音じゃないんだと、武者は困惑した。物理法則なんてあったもんじゃねえな。


「くっ!?面妖な!!!」


「・・・」


一番驚いているのは武者である。俺も面妖でござる!と言いたかったと、場違いな事を考えていた。

試しに自分の足を叩いてみる。当然、視線は目の前の黒鎧から外さない。


ぺしっと軽い音がした。

普通だ。普通の音がした。

自分以外とならドラムの音が出るのだろうか。


それから何合か剣と打ちあい、剣とスティックがぶつかるとバスドラの音が響き渡り、やがて剣が折れた。「嘘だろ」と言いながら武者がそれを目で追う。宙に舞う剣先と、落着していく銀色の刃。お届け先は国王の頭だった。


「へぐっ」


「おとっ!?」


「あなた!!!」


「いやああああああ!?」


多分、きっと王族なのだろう。全員が被りやすいサークレットやティアラを被っているし。周りに居る若い成人男性は息子だろうか。難儀な物である。国王暗殺犯の誕生だ。偶然に偶然が重なったからと言って、都合よく死に過ぎでは無いだろうか。


軽く溜息をつき、呆けた黒鎧の鳩尾あたりにスティックを突き入れた。何故かそうしないといけない気がした。

レイピアのように突き放されたそれは、ハイハットが鳴った気がしつつ鎧に当たった瞬間にインパクト部分から罅が入り、腹から全身の末端へとやがて崩れていった。鎧下が丸出しになり、聖剣使いの元黒鎧は一歩後退る。


「貴様、一体何者だ!?上位デーモンですら、これほどの装備破壊魔法に足る魔力は持っていない筈・・・!」


「魔法?」


武者としては、「魔法があるのかよ!?いいなー!オラ、わくわくしてきたぞっ!」程度の反応だったのだが、黒鎧の耳には「魔法で破壊したのだよ?見て判らないのかね」としか意訳されなかった。熱くなった頭で聞いた事と、発言した内容から「既に街を襲って帰って来た足で、お前の相手をしてるんだよ」と焦りからくる脳内補完で勝手に危機的状況になっていた。


「ばかなっ、そんな訳が!」


黒鎧はあからさまに動揺し始め、国王らしき者が殺されて動転した王子っぽい人が寄生を上げて襲い掛かって来た。同じようにスティックで剣を弾くと、その剣を持っていた王子の右目を剣身の刃が叩きつけられて引き裂いた。ありゃ失明レベルでは・・・などと考えつつ、武者は脱出ルートを考えた。

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