生きがいを奪われた日
何となく書きたくなったので続く限り連投していきます。よろしくお願いします。
ブラックレザーの黒いロングパンツを履き、ぴっちりした赤いニットの半袖シャツに頭を潜らせた。肌触りはバスケのユニフォームに似ているが、表面の光沢は赤黒いレザーを彷彿とさせる。黒い指ぬきレザー手袋と、表面をマットに仕上げたお手製の黒い鬼のお面を被る。最後にコスプレ用の鎧武者の兜を被り、いざ出陣。
いつものカメラ位置にドラムセットと自分の姿が収まるように座り、配信を開始した。確認用に置いた吊り下げアームのスマホ画面には、開始待ちの人数と「しばらくお待ちください」を書かれた木製の板を持つ武者鎧姿の俺。
今では100人位がコンスタントに視聴してくれるようになった、moutube・・・通称もうつべのライブ配信でコスプレドラマーとして週一配信をしている。
「ニチアサが終わって二度寝しようとしてる、おっきいお子様たち~!おはよう!武者ドラァァァムの時間だぁ!」
お決まりの開始の挨拶と、ドドシャァン!と軽くドラムでも挨拶を行う。内容は月単位でお決まりにしていて、同じ内容を4週やってからアンケ取りしつつセトリを変えていく。そんなネタを前面に押し出しつつも、10代からアマ・プロ関わらず、そこそこの人気を集めてドラムで飯を食わせてもらっている俺がこんな事をやっているのは、某ウィルスでライブ自体が次々と消えたからだ。
喰いつめ浪人と化したドラマーは日々減っていく貯金を見て一大決心し、ストリーマーとしてネタドラマーに見せかけたガチドラマーの腕を披露して、リアルで集めていた称賛をネット上で集める事にした。お小遣いのような小金を受け取れるようにはなったけど、貯金との睨めっこは終わっていない。
「コラボ募集中です!ドラムのお仕事も募集中です!詳しくは概要欄をご参照ください!」
ツータカツータカと小さく叩きながら音を出し、申し訳程度のMCを挟む。偶に売り込みも行う。
「それじゃ今日のラストは・・・ダイファン5のボス戦で流れた名曲!ドッグランの死闘!」
ギターとベースのラインを爆音で流しつつ、ハイハットから16ビートが始まる。うねるグルーヴ。そしてツーバスの音が足から、そしてスネアへ腕からと魂が注入されていく。叩き込まれた魂は地下室に音を響かせ、スピーカから聞こえてくるメロディーラインと共に終幕まで踊り続ける。
両手に握られたスティックが廻り、残像を残しながら叩き、半袖から覗く日本人らしい細マッチョで毛の薄い腕が締めのポーズを決めた。
ドラムセットのアームに取り付けたスマホの画面にはコメントが流れていた。確認した後、最後に無言の一礼をしてムービーエンド。TAS動画じゃないが、毎回一時間フルで叩くと軽くは喋れないくらいに呼吸が乱れる。手元の無線マウスでカメラに映らないノートPCの操作をしてライブ配信が終わった。
「・・・ふぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉぉお!っしゃ!」
感無量である。やっぱり大人数に見られながらの全力プレイは最高だ。カメラ越しでもそれを確認できれば、対面した状況ほどじゃないが込み上げてくる熱情がある。萌える。俺が俺に萌える。コメント欄には毎回のように「変態ドラマー」「キマイ」と言われているが、俺としてはドラムが叩ければそれで良いんだ。
頭部の仮面と兜を取らないまま、地下室のノートPCを置いたテーブル前に行き、沈み込みが激しいソファに腰を叩きつけるように座る。そして無情な願望を無責任に吐いた。
「もうずっとドラム叩いていたい」
革の冷たさが火照った体を癒すようだ。次第に熱が伝わっていくソファを感じながら、深い眠りに落ちていった。
そして武者ドラマーは夢を見る。
夢は醒めると忘れるものだ。
ただ、その時に見た夢は、生涯忘れられない物だった。
だって夢じゃなかったから。