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歯車の街のねじまき  作者: 奇村兆子
◆十四 「正体」
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◆十四 「正体」 ①

 僕はねじまきと一緒にキュボーの墓をつくった。

 その亡骸を丁寧に土で埋め、キュボーの盾を墓石代わりにした。

 そして静かに祈りを捧げた。

 僕はこのとき初めて黙祷というものを理解した――気がする。

「じゃあ、行ってくるよ」

 それからキュボーの言った通り、ねじまきと宇宙ロケットに向かった。

 ねじまきに訊きたいことがたくさんあった。

 ねじまきの雰囲気は以前と何か違っていた。

 訳知り顔で、キュボーが話した真実にも動じず静かにしていた。

 僕の知らないあいだに何があったのか。

 もしかして、自分の記憶を取り戻したのか。

 それはどんな記憶なのか――けれども僕は、何も訊かなかった。


 遠くからそのシルエットがよく見えていた宇宙ロケットは、いざ目の前に来てみるとあまりに巨大で、視界に入りきらない。

 たしか全長は350メートルを超えるのだったか。こんなに大きいのに実際に宇宙に出るのは先端のほんのわずかな部分で、あとはそのための燃料とブースターに過ぎない。いかに宇宙に出るのが大変なことかというのがよくわかる。

 それにしても、なぜこんなものがここにあるのかわからない。

 わからないけれども、地下とはそういう場所なのだろう――そう強引に納得する。

「メウさん」

 一緒に宇宙ロケットを見上げていたねじまきが、ようやく思い切ったように言葉を発した。

「わたし、頭に付いてるこれ、何だかわかったんです」

「何だったの?」

「……見てて」

 ねじまきの巻き鍵がくるくると回転し始める。

 すると宇宙ロケットの中央に扉が現れ、そこから階段のようなものが伸びてきた。

「まさか、君が?」

「ええ。なんかわたし、こういうことできちゃうみたいで……」

 出会ったときに見せたような不思議ちゃんじみた感じで、ねじまきが照れ笑う。

「行きましょう」

 そう言って、ねじまきは階段に足をかけた。僕もその後に続く。

「……自分の記憶、思い出したの?」

「思い出したというか、理解したというか……キュボーさんと同じように、わたしもこの場所に来てロックが外れたみたいです」

「……子役のときの記憶も?」

「正確には……わたしのモデルになった人が、子役でした」

「モデル?」

「……」

 ねじまきは答えず、先へ進む。

 僕は黙ってついていく。

 階段を上り終え、扉に辿り着く。

 いよいよ僕たちは宇宙ロケット内部に足を踏み入れた。

「うわっ……」

 足元が急にふわりとした。

 身体が、浮かぶ。

 バランスを崩した僕の手を、ねじまきが掴んで引っ張ってくれる。

「ここは無重力なので、気を付けてください」

「……宇宙に来たみたいだ」

「ええ……」

「ここからどこに?」

「操縦席に行きます」

 ねじまきはこの場所についてよく知っているかのように、僕を案内する。

 お互いに何か言いたいけれど、何も言えない。

 慎重に言葉を、声の調子を、タイミングを選ばないと、何もかも噛み合わなくなってしまう――そんな緊張感が漂っていた。

 やがて分厚い扉の前に辿り着いた。

 この先に操縦席があるそうだ。

「――ねじまき。君はいったいだれ?」

 僕はあらゆる準備を内に整えて、ようやくその問いを口にした。

 ねじまきは僕に振り向くと、切なげな微笑みを見せる。

「ねじまき、というのは正確にはわたし個人の名前ではありません」

「え?」

「代名詞というか……まあ、役名みたいなものです。わたしに与えられた本当の名前は――オウムアムア」

 そう聞いて、僕は息を呑んだ。

 脳裏に、スピンカと話したあの夜の記憶が再生される。

「遠い過去からの使者……」

「ええ……」

 ねじまき――オウムアムアが、少し嬉しそうに目を細める。

「わたしは、ここで生まれました」

「ここで、生まれた……」

「わたしの使命は、メウさんをここに連れてくること。そして、あなたにこの身体を届けることだった……」

「身体を……?」

「いつか、冗談みたいに言いましたけど……これ、本当にわたしの本体なんです」

 そう言って彼女は、頭の巻き鍵に触れる。

「シールドマシンを動かしたのもわたしです」

「……そういえば、君は初日からあれを見ていたな」

 今更もう何も驚きはしない。

「覚えてましたか」

「覚えてるよ」

「……嬉しい」

 彼女は静かに、頭の巻き鍵を取り外した。

「――!」

 その瞬間、僕の作業着がコンバットモードに変形する。

「わたしは――モグラです」

 はっきりとした口調で、彼女はそう告白した。

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