◆十三 真実と使命と ⑤
「メウ……ねじまきと一緒にあの宇宙ロケットへ向かえ。そこにお前の使命がある」
「使命……?」
「いまここにいる、お前にしかできねえことだ……そこから先は、ねじまきが知ってる」
「ねじまきが?」
ねじまきは小さく頷く。
「メウ……頼まれてくれるか」
どこか申し訳なさそうに、けれど切望するかのように、キュボーが僕に願う。
キュボーのそんな声を聞くのは、初めてだった。
「……わかった。なんだかよくわからないけど、できることならやる。どの道もう助かりそうもないし、この義足も有効活用するよ」
「馬鹿言いやがって」
その呟きはまるで心残りが解けたかのようだった。
ふと焦げ臭いにおいを感じた。
キュボーの身体から白煙が昇り始める。
電磁棒を使ったときのような、電気の暴れる音が聞こえる。
――キュボーが、壊れてしまう。
「キュボー……!」
「遅かったな」
キュボーは勝ち誇ったような声でそう呟いた。
「真実を話すことは禁じられていてな。話した途端、自動プログラムで勝手に壊れるようになっている」
「それがわかっていて、お前……」
「なあに、いずれこうなっていたさ」
キュボーの声がおかしくなり始めた。
高くなったり低くなったり、安定しない。
ぎこちない。
「メウ……お前はスピンカの存在を信じきれないと言ったが……その存在は、俺が証明してやる」
「え?」
「言ったろ、俺は航空宇宙局の出身だって。俺をつくったのはスピンカだ」
そうだ、なぜ気付かなかったのだろう。
いま思えば不自然だった。
キュボーはスピンカのことをよく話題にしたし、どこか懐かしむような、まるで見知っているかのような語り口が多かった。
単にメカ・サピエンスだから僕の記憶を覗き見たのだとばかり思っていた。
そうだ、そもそもスピンカは探査用メカ・サピエンスの開発をしていたのだ。
胸の奥が熱を帯びていく。
「ああ……やっと、言えた……」
ほっとしたような、哀切漂う声でキュボーが呟く。
「もうひとつ、確かなことがあるぜ」
僕はじっとキュボーの言葉を待った。
「メウ……俺はお前を愛している」
「……」
「ひとりのメカ・サピエンスとして、いまここにいるお前を愛している。お前が本当はだれであろうとな」
「――僕もだ、キュボー」
口をついて、言葉が出る。
「僕もお前を愛している、キュボー」
これは偽りではない。
確かにいま、僕の胸にある真実だ。
「メウ……」
「何を言っても言い足りない。お前の存在に僕はずっと助けられてきた。僕がここまで生きられてきたのは、スピンカとの記憶だけじゃない。お前がいたからなんだ、キュボー。こんなクソみたいな仕事でも、お前と一緒なら楽しかった……」
「……嬉しいよ、メウ……」
そのキュボーの声は――スピンカの声、そのものだった。
「ねじまき……メウを、頼んだぞ」
「わかりました……」
空気を読んでいたのか、それまで気配を消していたねじまきが静かに答える。
この二人のあいだにはいつのまにか、奇妙な友情のようなものがあるようだった。
「じゃあな、相棒……」
そして、キュボーの身体はバラバラに崩れた。
屑鉄の塊――キュボーが散々モグラの死骸に対して言っていたのと、同じ状態。
それを見て、僕はもう何も言うべきものを持たなかった。




