◆十三 真実と使命と ②
「――メウ、そろそろ起きろ」
少しのあいだ気を失っていたらしい。
目が覚めると、そこは広い空間だった。
天井に照明があるようだが、その天井がやけに高い。
見上げるとぽっかりと丸く大きな穴が空いている。
シールドマシンが掘ったのか。
土と鉄臭いにおいがする。
周囲は土砂だらけだ。
身体を起こすと、少し先にシールドマシンが転がっているのに気付いた。停止しているようで、死を迎えたかのように静かだ。
どうやらここは未発見の地下空間らしい。
大きな石像のようなものがいくつも並んでいる。
そのうちの何体かは首や腕がなかったり、地面に倒れたりしている。
神を象った像だろうか。
だとしたら、ここは何らかの宗教施設跡……。
ふと、シールドマシンのさらに向こうに聳え立つ巨大な構造物に気が付いた。
どこかの斜塔のようにやや傾いて地面に埋まっているそれは壊れた柱か何かだろうか。
いや、違う――。
見間違えるはずがないのだ。
巨大な鉛筆のようにも見えるそれは、紛れもなく多段式の宇宙ロケットだ。
それも――かつてスピンカを乗せて飛んだものと同じ形をしている。
直接見たことはないけれど、その宇宙ロケットは何度も打ち上げ事故のニュースで目にしたものだ。
「なんであれが、こんなところに……」
「ようやく気が付いたか」
振り向くと――すぐ後ろにキュボーがいた。
「キュボー、ここは……」
ここはどこだ、と喉から出かかって、僕は息を呑んだ。
キュボーのボディは落盤のせいかその半分ほどが土に埋もれている。
盾がなくなり、装甲のあちこちはひび割れて、しかも僕の近くには千切れた脚部や細かな部品が転がっている。
ひどい損傷だ。
「キュボー、お前……」
「なに、俺は大したことねえよ。頭脳は無事だし、ガワはどうにでもなる」
きっと人間だったら肩をすくめて余裕ぶっているだろう調子でキュボーは答えた。
その声に僕は少し安心する。
「……ねじまきは?」
「そこで寝てる」
キュボーのサブアームが示すほうを見ると、ねじまきはこちらに背を向けて胎児のように丸まっていた。
「命に別状はねえ。お前がねじまきを引き寄せて、俺が盾でお前らを包んだんだ」
「そうか……」
「いろいろ、手伝ってくれてな」
「手伝い?」
「お前の左足、飛んでっちまったからな」
「え……?」
そう言われて自分の左足に目を向ける。
膝の下が見慣れない形になっている。
鋼色をした骨格のような――。
「俺のを使って、義足をつくったんだ」
「まさか……キュボーの脚から?」
「そうだ。お前の回路と適合させてある。不格好だし、慣れるまで時間がかかるだろうが……ちゃんと動くだろ?」
自分の足を失ったという感覚がほとんどないほどに、その左足は完璧に補われていた。
「……お前には、いつも助けられてるな」
「気にすんな。それが俺の仕事だ」
キュボーは素っ気なくそう言うが、その声はいつになく優しい感じだ。
いや、実際のところキュボーはいつだって優しいのだが、あまりそれを表に出さない。
「……左足をなくす夢を見た」
「さっきか?」
「ああ。モグラにやられてね」
「……モグラというのは、スピンカだな」
「うん」
キュボーは続きを待つかのように黙った。
僕は相棒に、このまま純粋に聴いてほしいと思った。
ただ聴いてほしくて、言葉を続けた。
「これまで僕は身体のいろいろな部分を失ってきて、その度に付け替えて……いつかキュボーが言ったみたいに、僕は身体丸ごとだれかと入れ替わっている。僕はいったいだれなんだろう――そんなことを夢のなかで考えて、怖くなった」
仕事仲間に夢の話をするのは奇妙な気分だ。
「そもそも、僕はこの記憶が本当に自分のものかどうか――スピンカの存在さえ信じきれない。それでもすがりつくしかなかった。それを信じられなかったら、僕はこの世界をどう生きればいいのか、わからなかったから」
「……特定のだれかではない、何者でもない自分、ってか」
「そんなときにこの子が……ねじまきが現れた」
「ああ……運命だな」
「運命?」
「そう思っただけだ」
キュボーの口からそんなふんわりとした言葉が出るのは、なんだか少しおかしかった。
けれどそれがいまの僕のこころにあたたかく染み渡る。
「……ところで、キュボー。ここはどこなんだ?」
「さあな。登録されてねえ場所だ。おそらくは基幹部の最下層だろうよ。お前の予想通り、未発見の地下遺跡だ」
「そうか。一応訊くけど、地上の様子は?」
「二十時間前、最後に入った情報だと……ほとんどのエネルギー供給が途絶えたらしい」
「……僕は二十時間寝ていたのか」
「ちょうどいい、目覚ましだ。その足の慣らしも兼ねて、ちょっとその辺を歩いてきな。面白いもんがあるぜ」
「面白いもん? モグラが出るんじゃないの」
「いまさら出ねえよ」
キュボーが妙な返事をした。
「コンバットモードも解除されてるだろ」
「ああ、そういえば……」
ようやく作業着のきつい締め付けがなくなっているのに気付いた。
というか、作業着の存在自体忘れていたかもしれない。
「大丈夫だ。俺のレーダーにも反応はねえ。気楽に行ってきな」
「……わかった」
僕は立ち上がり、義足の慣らしを兼ねて散策を始めた。
確かに、面白いものはあった。
謎の石像やスピンカが乗っていた宇宙ロケットは言うまでもなく、他にもところどころに妙なものが転がっている。
壊れたメカ・サピエンスと思しき機械。
配管工の死体。
何かよくわからない機械類や、年季の入った家電製品や美術品らしきもの、段ボールの箱や衣服のような布切れ、遠い昔の人形やおもちゃのようなものまである。
ここはいったい何なのだろう――そう思いながら僕はキュボーとねじまきのもとへ戻った。




