◆一 ある配管工の日常 ④
本部に戻ると、何人かの配管工の死体が並べられていた。
胸に大穴が空いた者、足がなくなった者、深い裂傷を負った者。
「パル班のタリラン、オピード班のオピード、同じくオピード班のノーライ」
キュボーがそれぞれの名前を読み上げる。
「報告によるとタリランは自殺、他の二人はショック死だとよ。オピード班は壊滅だな。次はトットが班長か」
「……今日はひどいな」
「怪我人も多いぜ。生き残りはしたが部品を失った奴がちらほらいやがる」
「命あっての何とやら……こいつらの人生は何だったんだろうな」
「メウ、それはお前が考えても仕方がないことだ」
「……そうだな」
そう、考えても意味のないことだ。
「これがあと三か月も続くのか……」
それでも、憂鬱な気持ちは渦巻くばかりだ。
再興七五周年の記念式典とやらをここにいるどれだけの配管工が迎えられるのか。
今日の出来事について報告書を提出した頃、他の配管工たちが持ち場からぞろぞろと戻ってきた。
もう終業時間だ。
「終わりの会を始める。者ども、整列!」
事務室から部長が現れ、僕たちをパルスで整列させる。
「今日も一日、ご苦労! 無駄口叩いてないでさっさと並ばんか、クズども!」
居丈高に声を張り上げる様は、昔の映画に登場する軍人を連想させる。
しかし彼の仕事は朝の会と終わりの会にこうして何か喋ることだけだ。
「悲しいお知らせがある。本日の作業でパル班のタリラン、メウ班のカンチュロ、オピード班のオピード、同じくオピード班のノーライの四名が亡くなった」
悲しいというのは言葉だけで、その表情も演技であることはわかっている。
「黙祷!」
その合図で皆目を閉じて首を垂れ、僕もそれに倣う。
僕はこの黙祷というのが苦手だ。
黙って目を閉じて、それでどうすればいいのかいつもわからない。
亡くなった対象に祈るとか、語りかけるとか言われるが、僕には何も言葉がない。
カンチュロに対しても特に思うことはなかった。
「――黙祷終わり!」
沈黙は嫌いではないが、黙祷はほんの数秒程度で済ませられるので落ち着くこともできない。
どうにも居心地の悪い時間だ。
だれもが当たり前のようにしていることが、僕にはいまいちわからないことがしばしばある。
きっと、僕は人よりずっと鈍感なのだろう。
「以後、オピード班は生き残ったトットを班長とし、トット班として再編する」
「やっぱりな」
キュボーが横で呟く。
まあ、そうだろうなとは僕も思っていた。
「基幹部の仕事は厳しいが、亡くなった四名に恥じぬ仕事ぶりを期待する。以上、解散! さようなら、また明日!」
それで部長はすたすたと事務室に戻っていく。
配管工たちはその場にたむろしたり、地べたに座って何か喋ったり、寝転んだりし始める。
「じゃあな」
「ああ」
別れを告げ、キュボーは住処である整備部の格納庫へと向かった。
僕はロッカールームで締め付けの強い作業着と格闘した後、不安定なエレベーターで地上へと戻った。
ビルの隙間に沈みゆく夕陽を確かめて長い溜息をついたとき、ようやく今日の仕事が終わったことを実感できた。
続きは翌週2月8日(月)投稿予定です。