◆十二 再興七五周年記念式典 ①
ついに再興七五周年の記念日を迎えた。
地上ではそろそろ式典が開催される頃だろう。
この日のために、僕たち配管工は三か月間もモグラが頻出する基幹部の配管に当たらねばならなかった。
結局まだ回り切れていないところがあり、休日返上で仕事をしている。
それだけこの地下施設が巨大だということだ。
地上での記念日など地下の者たちには関係ないのだ。
「こんな大事な日に地下にいるなんて……」
記念日を楽しみにしていたねじまきはすっかり不貞腐れている。
「仕方ないよ。地上の街のエネルギーを支えているのはここなんだから。だれかがちゃんと見ていないといけない」
「一生に一度なのになあ」
「まあ、確かに式典を見れないのは残念だね。こっちはいつもと変わりないし」
「豪華なパレードに、音楽隊の演奏、夜は花火とプロジェクションマッピング……あと何でしたっけ。何か大仕掛けがあるんですよね」
「さあ。偉い人が眠い話をしたり、皆で聖歌でも歌ったり、マラソン大会とかやったりするんじゃないかなあ」
「なんか、適当な言い方」
「あんまり興味がなかったから、具体的に何をするのかよく知らないんだよね。エネルギーはたくさん使うらしいけど」
「あいにくだが、地上は雨の予報が出てるぜ」
キュボーが割り込む。
「えー、そんな……」
「パレードは雨天決行の予定だがな、土砂降りだって話だ」
「えー……」
「別に、僕らには関係ないだろ。いいじゃないか。中止になったって」
「ひどい! 楽しみにしてた人たちだっているんです! あーあ、いろんなお店見て回りたかったなあ……」
「お店?」
「最近、ハンドメイドに凝ってるんです。七五周年記念ですし、きっと腕によりをかけた品物が並ぶと思うんですよ」
「へえ……」
ねじまきには悪いけれど、僕は地上で記念式典を見るよりもこうしてねじまきやキュボーと過ごしていたい。
だから、つい。
「僕はいまみたいに三人でいるほうがいいけどね」
と口に出していた。
はっとしたときにはすでに遅し。
ねじまきがあらまあというふうに手で口を覆い、キュボーを突っついていた。
「キュボーさん、いまの聞きました? メウさんがついにデレましたよ」
「やかましいお前は。仕事しろ」
こんな日々が、明日からも変わらず続いてくれたらと僕は思っていた。
――けれど、その願いは叶わない。
ふと、足元に振動が伝わってきた。
遠くで雷が鳴っているような音がする。
「え、なに、地震……?」
「いや、地震の揺れじゃないぞ、これ」
何か大きな機械が動いているような轟きを感じる。
「メウ、ねじまき、何かが接近してくるぞ」
「何かって?」
「わからん。何か大きなものだ」
軋むような音が近付いてくる。
金切声のような――。
「――メウ、下がれ!」
キュボーの声に僕はさっとその場を離れる。
ねじまきが寄ってくる。
次の瞬間、先ほどまで作業していた壁に大きくひびが入り、割れて、崩れた。
そしてその奥から、何かとてつもなく大きくて黒い円が顔を覗かせる。
その表面にはいくつもの刃が同心円状に配されている。
「シールドマシン!?」
紛れもなく、地下でよく見かけるあの機械だった。
この地下施設を建造する際に使用され、その後埋められて放置されていた円柱型の大型機械。
それがなぜ動いているんだ。
「危ないぞ、二人とももっと下がれ!」
キュボーの怒号に、僕とねじまきはシールドマシンから距離を取る。
地面が揺れて、うまく歩けない。
排熱で空気も歪む。
シールドマシンは僕たちには目もくれずにその場を横切り、轟音を立てて芋虫のように伸縮しながら、その巨体からは信じられないスピードで向かいの壁をぶち抜いていく。
真新しい巨大な穴と大量の土砂を残し、シールドマシンは去っていった。
「……シールドマシンって、あんなに速く動くものなの?」
「一日数十メートル進むのがやっとの機械だぞ。あれはもう……別の何かだ」
皆揃って呆然としていたのも束の間。
まもなく、ザッ――と無線のノイズが入る。
《各班、注意して聞いてください! こちら本部、緊急の事態です! 現在、基幹部の複数の場所にて異常が発生!》
「異常……?」
《各所に廃棄されたシールドマシンが次々に起動し、勝手に地中を掘り進んでいます! 確認できるだけで、三十機!》
何を言っているのか、意味が分からなかった。
実際にいま目の前を通り過ぎていったとはいえ、シールドマシンが起動して、勝手に動く……?
《このままでは施設に甚大なダメージが発生します。配管工は直ちに付近のシールドマシンを破壊してください! 手段は問いません、整備部や開発部にも強力な武器を手配させます、以上!》
無線は一方的に途切れた。
勝手に動き出したシールドマシンを破壊せよというミッションが生じたようだ。
まだうまく呑み込めないが、どうやら相当なことになっているらしい。
もう少し詳細を訊こうと本部に呼びかけてみたものの返事がない。
ただ、シールドマシンの位置情報だけが送られてくる。
ものすごい数だ。
「無茶言いやがるな」
ややあって、キュボーが呟く。
「えっと……」
ねじまきはどう反応したらいいのかわからないようでおろおろしている。
「キュボー、シールドマシンが勝手に動くなんてことある? しかも長い間放ったらかしにされてたものがさ。電源と動力をいったいどこから得ているんだ」
「さあな……だがどうやらそれを考えている暇はないらしい。行くしかないぞ、二人とも」
「……仕方ない。ねじまき」
「はい……」
ねじまきはただ頷く。
向かうしかない。
地下施設に甚大なダメージが生じるということは、地上の街がエネルギー源を失うことを意味する。
それはつまり、死だ。
僕たちは通路を急ぎ、シールドマシンの行方を追う。




