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歯車の街のねじまき  作者: 奇村兆子
◆五 ねじまき2
12/47

◆五 ねじまき2 ①

 ねじまきが僕の班に加わってから数日が経った。

 彼女もだいぶ仕事に慣れてきて、任せられる作業が増えてきた。

 幸いにもいまのところ、小型のモグラにしか遭遇していない。

 他の班も大型のモグラには遭遇していないらしい。だから死傷者もいない。

 ――このままこれが続いてくれたらいいが。


 僕たち配管工は、この街の地下深くに鎮座する巨大なエネルギー生産施設の配管をメンテナンスしている。

 七五年前に人々の記憶から消えた、未だ謎の多い過去の遺物。

 ねじまきは知りたがりな性格で、仕事の合間にこの地下施設をちらちら見回して研究しているようだった。

 今日向かったところはかつて探査部が発見した遺跡のひとつだ。

 ここにも大小さまざまな配管が通っており、そのひとつひとつが現在もエネルギーの生産に関わっているという。細い道を抜けた先に大きなホールが広がっており、人が住めそうな大きさの箱が同心円状に並んでいる。その中心で大きな柱が地面と天井とを貫通していて、その有様はつっかえ棒にも見える。

「なんか、街みたいですね」

「実際、ここに住んでたんじゃないかなあ」

「えー」

「住居跡とか、宗教施設の跡とかが見つかってるって報告もあるし」

「へえ……ここもそうなんでしょうか」

「でも住居にしては味気がない。刑務所とか、労働のための施設だったんじゃないかな。ここの配管はエネルギー生産施設にも繋がってるらしいし。ほら、あの真んなかのとか監視塔に見えない?」

「ああ……」

「いまじゃこんな施設をつくるテクノロジーは失われている」

「そうなんですか?」

「七五年前よりもずっと古くにつくられたもので、図面も何も残っていない。どんな技術で、どんな仕組みで成り立っているのか、だれにもわからない。だから新しいものはつくれない。この施設全体、こうして補修を重ねてだましだまし使っていくしかない。それをもう四半世紀は続けているらしい」

「うーん……エネルギーがどうやってつくられてるのかもわからないんですよねえ」

「そう。どういう原理なのかこの施設は自らエネルギーを生産し、無線で地上に送っている。現在のところ地上のあらゆるエネルギー源はほぼすべてこの施設に頼ってるんだけど、残念ながらこの不都合な真実を知る人は少ない。公開されてはいるけど、だれも見ようとはしない」

「……」

 少し喋り過ぎたかなと思うが、ねじまきは興味津々といった様子で聴いていた。

 少し照れ臭いが、まあ嬉しい。

 カンチュロにはこんな話はできなかったな。


《――メウ、いいか》

 班員それぞれで分かれて補修に取り掛かっていると、キュボーが秘匿回線を使って話しかけてきた。

《どうした、キュボー》

 僕も秘匿回線で応じる。

 いま、この付近には僕とキュボー、そしてねじまきしかいない。周囲にモグラの姿もない。この状況で僕に秘匿回線を使うということは――ねじまきには聞かせられないということか。

《ねじまきには気を付けたほうがいいぞ》

《どういうこと?》

《直感だ》

《直感? お前が?》

《じゃあこう言ったほうがいいか? 膨大なデータベースやこれまでの学習の経験から得た推測だ》

 何はともあれ、キュボーがこうして警告を発するのは珍しいことだ。

《もう少し詳しく。ねじまきのミスとか体調に気を付けろって話じゃないよな》

《逆だ。危ないのはお前だ、メウ》

《僕が?》

《ねじまきの頭に付いてるあの巻き鍵。ありゃ不明なデバイスだ。記憶へのアクセスを拒否された》

《ただの飾りじゃないのか? 壊れたデバイスを思い出の品にしている可能性は?》

《どっちも違ぇな。こちらの呼びかけを跳ね返す力を持ってる。いまのところ害はないが、何しろ属性や目的が不明だ》

《……》

《それにな、このあいだねじまきが倒した小型のモグラいただろ。十体くらいの》

《ああ、あのレベル1の》

《3だ》

《3……確かか?》

《ああ、あの後分析し直した》

 レベル3のモグラといえば、ベテランでも気を抜くと命を奪われる相手だ。

 初めてモグラと出会った新人には荷が重い。

《山椒は小粒でもぴりりと辛いってな。それをあいつは初体験で十体も倒した》

《……レベル3が出たのにあのときお前はあえて反応しなかったな。ねじまきを試したのか》

《怪しいと感じたからな。あの巻き鍵のおかげであいつの記憶を覗けねえ。俺たちは素性の知れない奴と一緒にいるということだ》

《……わかった。まだぼんやりしてるけど、気を付ける》

《そうしてくれ、相棒》

 とはいえ、どう気を付けたものか。

 キュボーがねじまきをあまり快く思っていないのは薄々感じていた。この警告には若干そのニュアンスも含まれているのかもしれない。

 しかし、キュボーが気分に左右されるとは考えにくい。言うことに間違いはないだろう。

 やはり、ねじまきには何かあるのかもしれない。

《そういえばキュボー、最初にねじまきと会ったときからあまり喋らなかったな》

《喋る必要がねえ。それだけだ》

《いつもお喋りばかりするくせに》

《気のせいだ》

「――メウさん? どうしました? なんか、怖い顔してますけど」

 ふと、ねじまきがやってきて僕に声をかけてきた。

 僕は慌てて何でもないふりをする。

「……ああ、いや。何でもない。モグラが出ないか気になってね」

「こんなところでも出るんですか?」

「あいつらはどこにでも出る。だから気を抜かないように。で……何?」

「あの、ちょっと一応見てほしくて……」

「わかった。そっちに行く」

 補修の具合を確認してほしいらしい。

 どこまでやれたか見てやらないと。

《キュボー、秘匿回線を切るぞ》

《了解した》

 僕のなかに何か、よくないものが入ってきた感じがした。

 それは静かな水面に一点の墨汁が落ちるかの如く、小さな波を立てながら、じんわりと濁りを広げていく。

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