目覚めと共に
リックが目を覚ますと、そこは小人の家のリビングだった。
(助かった、のか…)
毒には強い方だったのだが、今回はヤバかったと大きく息をつく。まだ曖昧な意識が次第にハッキリしてくると、少しの鈍痛を訴える頭を軽く振った。
すると暗闇の中、視界の端に小人たちの姿を捉えた。彼らが運んでくれたのだろうか? 自分が寝ているソファー近くの床に、彼等がゴロゴロと散らばって眠っていた。
「ん…?」
足元には微かな重みを感じてそちらに視線を移せば、アメリアが頭を持たれかけてそこに眠っていた。どうやら彼女にも随分と心配をかけたらしい。
「心配かけてゴメンな」
ぽそりと呟くと彼女の顔に掛かっている髪を払ってやった。するとどこか強張っていた寝顔が、ふわりと安心したようなものに変わった。
「…」
そんな彼女の様子に愛しさが込み上げると同時に、このままではいけないことを自覚せざるを得なかった。
「そろそろ本当に身の振り方を考えないとな」
朝日が差し込み始めると、日差しを浴びた小人の一人がムクリと起き出した。寝ぼけ眼でリックを見ると、カッ! と目を見開いて立ち上がった。
「リック~ッッ!!」
その叫び声を合図にバッと皆が起き出した。
「リック!!」
「無事だった~!!」
「心配したよ~」
「もう大丈夫?」
「お薬効いた?」
「痛くない?」
「良かったーっ」
わらわらと集まってきた小人達に囲まれる。その中にポカンとこちらを見上げるアメリアが居た。
「リック、良かった…」
うるっと彼女の瞳が揺らいだと思った次の瞬間、ポロポロと涙が零れだした。
「えっ…!? お、おいッ!」
突然の事にどうして良いか分からず慌てるリックを他所に、アメリアはぐすぐすと鼻を啜る。可愛い顔が台無しである。
「よ、良かったよぉ~」
そのまま子供のようにわんわんと泣きじゃくるアメリアに、仕方ない奴だと苦笑しつつリックは彼女の頭を優しく撫でた。
「うん。ありがとうな」
その彼の優しい手の温もりに、ますますアメリアの涙は止まらなくて、次第に小人達までオロオロし始めた。
「リックが泣かせた~!」
「姫がリックを助けたのにー」
「リック、意識なくて大変だったんだよ?」
「薬は見つけたけど」
「そうそう、その薬も飲めないし」
「どうしようっ! てなったんだよ!」
「そしたら、姫がくちっ… むぐぐ」
そんな小人たちの言葉に号泣していたはずのアメリアは、はたっと目を見開いて素早く一人の小人の口を塞いだ。
「ななな、何でもないからっ!」
ふるふると小人の口を塞いだまま、何かを誤魔化そうとするアメリアにリックは訝しげに首を傾げる。そして、ちらりと視線をずらすと、小人の一人と目が合った。するとその小人が心得ているとでもいうかのように口を開く。
「姫が口移しで薬飲ませてくれたんだよ~」
「リックが助かったのは、姫のお陰なんだから」
「感謝しなきゃだよ!」
「運ぶのは皆で頑張ったよ!」
「そうそう、僕らにも感謝してよ!」
「台車は僕らも一緒に運んだんだから~」
そんな小人たちの説明に、アメリアに口を押さえられている小人もコクコクと頷いた。一人の口を押さえたところで、あと6つも口があることに思い至らなかったアメリアであった。
「…」
完全に思考停止した彼女の顔がさぁーっと白くなった後、驚いた顔のリックと視線が合うと次第にその頬が真っ赤に染まっていく。しばしの無言に耐えかねたのは、やはりアメリアだった。
「じ、じ、じっ、人命救助だから!!」
辛うじてそれだけ告げると、脱兎のごとく階段を駆け上がっていった。バタン! と部屋の扉が閉まる音がしたとたん、黙ってアメリアを見守っていたリックが耐えかねたように吹き出した。
「…ふっ、くくくく」
どうやらいくら鈍感な彼女でも、この件でようやくリックを男として意識したらしい。そんなアメリアの可愛らしい様子に、自然と笑いが込み上げる。さて、これからどう接していこうか? と楽しげな様子のリックに小人達が首を傾げる。
「姫、どうしたの?」
「さぁ。どうしたんだろうな」
「???」
楽しげなリックと逃げ去ったアメリアを交互に見やって、小人達は互いの顔を見合わせてまた首を傾げたのだった。
あらあら。ようやく姫は異性を意識するということを覚えたようですね~。
「姫とリックが仲良しってこと?」
そうですね、もっと仲良くなるかもしれませんねぇ。
「今でも凄く仲良しだよ?」
「そうそう。この前も二人でお料理しながらあーんってしてた!」
ほー。なるほど、なるほど。
「僕は一緒にお洗濯しながら、姫の顔についてた泡をリックが拭ってあげてたのを見たよ~」
そういうのを無意識なイチャイチャって言うんですよー。
「イチャイチャ?」
「リックと姫はイチャイチャ?」
今度、二人に言ってみてください。
「「分かった~!」」
うむうむ。言い返事ですね!