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毒消しのために

 コロンと鞄の内ポケットから出てきたそれは、小さな小瓶に入っていた。薄紫色をしたその液体に、小人達がこれだッ! と声を上げる。


「これが?」


 森に差し込む夕陽を浴びて、きらきらと輝く薬瓶。とても薬には見えないのだが…


「間違いないよ!」

「前に見せてもらったし」

「これだよ」

「キレイだねって言ってたもん」

「それに他にはもうそれらしいものは無いよ」

「うん、全部荷物も見たよ」

「これを飲ませれば助かる!」


 ずいっと差し出された小瓶を、アメリアは思わず受けとった。これで助けられるのならば、何を迷うことがあるだろうか。ゴクリと息を飲むと、そっとリックの身体を抱き起こす。


「リック? 飲める?」


 瓶を口許に当ててみるも、リックの意識は朦朧としているのかその瞳が開かれることはなかった。蒼白な顔からは生気が感じられず、荒く繰り返されている息だけが彼がまだ無事なことを伝えている。


「駄目だわ、このままじゃ…」


 意を決して、アメリアは小瓶に口をつける。一気にその中身を呷ると、リックの唇に自らのそれを押し付ける。舌でこじ開けるようにして、液体を口内へ流し込んだ。


(お願い飲んで!)


 口に含ませても飲み込まなければ意味はない。ヒヤリとした唇からは熱を感じなくて、ドクンと嫌な音を立てて胸がざわめく。このまま彼が目覚めなければ? そんな事はないと、嫌な想像を振り払う。唇を離したらリックが居なくなる気がして、アメリアはそのまま強く願った。


「リック飲み込んで!!」

(お願い!)


 アメリアと小人達の願いが伝わったのか、ゴクリとリックの喉が鳴った。それを確認すると、ばっと唇を離しアメリアは皆の顔を見回した。


「今、飲み込んだわよね!?」

「うん!」

「飲み込んだよ!!」

「これでリック大丈夫だよね…」

「すぐ効いてくるって言ってたけど」

「今日は動かさない方がいい?」

「でも、またあいつらが戻ってきたら?」

「リック、目が覚めるかな」


 安堵と不安が入り交じる中、リックの荒かった吐息が次第に穏やかなものに変化する。


「落ち着いてきたみたい?」


 規則的な呼吸を繰り返すリックの頬には、ようやく赤みが指してきていた。これでもう大丈夫だろうと誰もがほっと息をつく。

 しかし、いつまでもここに居るわけにもいかない。あの男達が気を取り直して戻ってきたらひとたまりもない。


「移動しなくちゃ。でも、どうすれば良いかしら…」


 アメリアの愛馬がいれば簡単な話だが、城に居る愛馬を連れてくるのにどんなに急いでも半日はかかる。


「だったら、小屋に小さいけど台車があるよ!」

「リックを運ぶくらいならなんとかなるかも!!」

「僕たち取ってくるよ!」

「姫はここでリックを診ててね」

「これ毛布!」

「お水も置いておくね」

「それじゃあ、行ってくる!!」


 口々にそう言い残すと「あッ」と言う間もなく、勢い良く7人は走り出した。小人たちのあまりの勢いに、アメリアはその背中を呆気に取られて見送るしかなかったのだった。


「えーっと。取り敢えず待つしかないわね」


 クスリと苦笑して、側に置かれた毛布でリックの身体を包み込む。そして、そっと額に手を当てた。


「少し熱いかな?」


 じっと彼の顔を除き混む。そして、他には異常が見当たらない事に安堵した。


「…」


 そうして次第に落ち着いてくると、じわじわと先程の自らの行動が甦ってきた。


「……ッ」


 すると今の状況が無性に恥ずかしくなってくる。無意識にリックの唇に視線が落ちる。次の瞬間にはボンッ! と音を立てるかのように、頭に血が上るのを感じた。


「~ッ!」


 アレが自身のファーストキスだったと認識すると、この状況を意識しない訳がない。膝の上に抱えた彼の頭の重みさえも、もどかしく恥ずかしい。


(って、そんな場合じゃないから!)


 そうだ、アレは人命救助だ! 深い意味など無い! そう心の中で繰り返す。暫くの間、彼女が一人で悶えていると遠くから小人達の声が聞こえてきた。


「姫ーっ! 持ってきたよー!!」


 アメリアはパタパタと火照った顔を手で扇ぐと、何とか気を持ち直してそちらを見やる。すると、ゴロゴロと音を立てながら思っていたよりも立派な台車が姿を表した。小人達が7人で押してやっと動かしている状態だが、これならばリックを運ぶことができそうだ。


「ありがとう! それじゃあ皆、リックを乗せるわよ!」

「「おーっ!!」」


 夕闇迫る中、何とか全員の力を振り絞ってリックを台車へ乗せると、ゴロゴロと台車を押して家まで運び込む。


「「帰ってこれた~ッ!!」」


 どうにかこうにか彼をリビングのソファーへと寝かせると、誰からともなく「はぁーっ」と大きく息をついた。途端、力尽きたと言わんばかりに、ふらふらと全員がその場にへたりこんだのだった。

なんだか姫たちは大変そうなので、今日は暇を持て余した鏡さんの休日を覗いてみましょう。


「暇ですねぇ。王妃様も最近はお忙しくて姫の見守りもできてませんしね。たまには覗いてみようかなぁ…」


あ、それは。今は、タイミングが… あー。


「へ? あ、だ、だれ!? ひひ、姫~!! いや、み、見なかったことに! 見なかったことにします!! 王妃様に言うなんてとんでもないっ!!」


一瞬で真っ黒に光を失った鏡さんは、何を見てしまったのでしょうねぇ。

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