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初めて知ることは

 ある日初めて立った台所で、白雪姫はかまどを前に途方に暮れていた。

 まったく使い方がわからない! 姫なのだから当然と言えば当然なのだが、小人達はそれに気がつくこともなく。後はヨロシクー! と彼女に晩御飯の準備を託して仕事に出ていってしまったのだ。


「何をどうすれば…」


 まぁ、なんとかなるだろうと軽く考えていた姫だったが、いざ台所に立ったものの火のおこし方すら分からなかった。彼女の乳母や義母が知れば、慌てて止めさせたことだろう。


「あれ? 小人達は?」


 振り返るとそこにはリックが立っていた。確か、裏で薪割りをしていた筈だ。


「お仕事に行ったわ」

「ああ、鉱山に行く日か。で、あんたは何してんだ?」

「夕食の準備を…」


 言い淀む姫を、リックの眼がじーっと見つめてくる。小人達に任されたものの、この様子では台所の使い方すらろくに分かっていないのだろう。それに気がつくと、リックは姫の隣にスッと並んだ。


「?」


 キョトンと不思議そうな顔でこちらを見上げる彼女に、クスリと笑ってリックはポンポンと姫の頭を撫でた。


「!?」


 リックの思わぬ行動に、姫は思わず息を飲んで彼を見上げたまま固まった。姫として城で育った彼女は異性とふれあうことなど皆無で(主に過保護な国王夫妻に原因がある気がしなくもないが)、免疫が無さすぎてどういう反応をすれば良いのか分からなかったのだ。


「手伝ってやるよ。ほら、これを持って」


 固まったままの彼女の手にボールを持たせると、リックは卵をを手に持った。


「卵は平らな場所で軽く叩いて殻にヒビを入れて、って聞いてるか?」


 あまりにも無反応な姫の顔を覗き込む。すると、ビクッと肩を揺らして姫はコクコクと頷いた。本当に大丈夫か? と思わなくもないが、もう一度説明しながら手本を見せると次は姫の手に卵を手渡した。


「よし! じゃあ、やってみて?」


 不器用ながらも言われた通りに、なんとか卵を割って混ぜ合わせる。色々な道具の使い方をゆっくりと姫に教えつつ、二人でオムレツを作っていく。次第に緊張もほぐれていき、自然な会話が出来るようになってきた。


「リックは料理上手なのね」

「あー、昔から作らないと生きていけなかったからな」


 必然的に出来るようになったんだ、とリックは苦笑して見せる。庶民ならばそういうものなのかと、特に疑問に思うこともなく、姫は感心しながら器用に動く彼の手元を見つめた。

 そして、彼の手から作り出された綺麗なオムレツの形に、キラキラと目を輝かせる。


「リック凄いわ! 私でも出来るかしら?」

「やってみるか? ほら、ここに立って」


 おずおずと姫がフライパンの前に立つと、後ろからリックが姫の手ごとフライパンを握る。


「俺が動かすから、あんたはそのまま身体で覚えろよ?」


 すぐ近くに感じるリックの気配に、気恥ずかしいような妙な緊張感を感じつつ、姫は神妙な面持ちでコクリと頷いた。そして、なすがままリックに操られている内に、卵が綺麗な形になっていく。


「こうやって、手前に」


 くるりと皿に入れると見事なオムレツが出来上がった。


「出来たわ、リック!!」


 振り向いて満面の笑顔でリックを見上げた。無邪気な彼女の笑顔に思わずリックも笑みが零れる。オムレツくらいでこれほど喜んでもらえるなら、教えたかいがあるというものだ。


「ほら、今度は自分でやってみな」

「うん!」


 何度か繰り返して結局一人では上手くいかなかったが、リックに教えてもらった初めての料理は楽しいものだった。


「リック、ありがとう。今度は一人でやってみるわ!」

「あぁ、頑張れ」


 後日、何度かリックの手伝いをしては失敗を繰り返し、やっと一人で料理を作った日には何をどうしたらこうなるのかという悲惨な状態となったのは、まだもう少し先のお話。




 そんな穏やかな日々を過ごしていた、ある日の昼下がり。今日は小人達も一緒にのんびりした1日を過ごしていた。

 誰かが歌を口ずさむと、別の誰かがどこからか笛を取り出し、ギターをかき鳴らす。そしてピアノを弾き始めれば、残りの皆が輪になって踊り出した。そんな楽しげな小人達の様子に、姫もリックも楽しい気分になってくる。


「ふふふ、楽しそう」

「姫も歌ってー! リックは踊ってー!」


 くるくると回る小人達に促されるように躍りに加わって、口ずさむ。姫の綺麗な歌声に誘われたかのように、窓辺に小鳥が囀ずる。キラキラと輝くようなその時間を、姫はとても楽しんだ。こんなに楽しい気分はいつ以来だろうか…

 その後、思わずというように歌に加わったリックの響き渡る歌声(?)に鳥が慌てて飛び立とうとして墜落し、小人達が耳を塞いで慌ててリックを止めた。


「「リックは歌っちゃダメーっ!!」」


 そこで初めて聞いた彼の歌声は、とても歌とは思えなかった。と言うか、普通の話し声とどうしてこうも違うのかと聞きたくなるほど酷いものだった。その上、音程も外れまくっている。


「リック、貴方。す、凄いわね…」

「どういう意味で?」


 姫の呟きに、拗ねたように憮然とリックが呟き返す。


「いろんな意味で?」


 えへへと誤魔化すように笑うと、ぺしっとおでこを叩かれた。


「フォローになってない」


 不貞腐れてふいとそっぽを向いたリックに、思わず姫はふふふと笑みを溢した。いつもよりも随分と幼く感じる彼の様子を可愛いと思いながら、小人達と一緒に慰めたり、からかったりしながら白雪姫の夜は更けてゆくのだった。

リックの歌声は本当に酷いんですよね。小人たちの感想を聞いてみましょう。


「あれは歌じゃないよ」

「うん。音じゃない」

「鳥さんも墜落しちゃうからね」

「普段の声からは想像もつかないから、謎だよね」

「何だろう、騒音?」

「突然、声が大きくなるの」

「普段は何でもできて器用なのにね~」


あらあら、酷い言われようですね~。総じて、小人たちからは『リックは歌っちゃダメ!!』とのことでした。

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